第5話 小さな魔王の王子様
勇者と名乗る変態を倒したトリダと、右ストレートをお見舞いしてアシストした俺は、レッドカーペットの上に立っていた。
「門番のトリダ、魔王幹部トーマ」
俺達の名を告げたのは、魔王エリナ。
彼女は小高い位置にある玉座に堂々と座り、正しく魔王だぞとスレンダーな体で表していた。
そして当たり前のように公務の真っ最中なので、マイクロビキニアーマーである。
魔王もクソもないだろうよ・・・・・・マイクロビキニアーマーがギリギリのラインを責めすぎて、少しでもズレたらさくらんぼが見えそうだ。
相変わらずキモイな俺。
つーか俺って魔王幹部にちゃっかりなってんの何で?俺ってば平和に過ごしたいのよ?
幹部ってだけで、絶対に命狙われるじゃん。
「此度の勇者との戦い──貴方達のお陰で勝つ事が出来たわ。それに加えてあの世に葬る事も出来て、私個人の他にも国民は大変喜んでいることでしょうね」
エリナが俺たちにそう言うと、俺達とは他にこの場にいる人達がワチャワチャと話し始めた。
きっとこの人達はこの国の貴族とか偉い人達なんだろう。
聞き耳を立てずとも、声が聞こえてくる。
『門番が勇者に勝つ?有り得んだろう・・・・・・デタラメもよせ』
『あの黒と紫が混じった髪の男は誰ぞ?只者ではないように見える。新たな幹部が奴なのか』
『流石はコケコッコー族の当主。皆からは落ちこぼれと言われていたが、覚醒したか・・・・・・』
『どんな褒美が与えられるのか、気になりますねぇ。期待してますよ、魔王様』
様々な声が聞こえてくるが、貴族達は皆まともそうだな。
良かった良かった・・・・・・お国が上手くやっていくには優秀な人材が不可欠だからね。
じゃあ何で俺の周りは変な奴ばっかなの?
鶏に痴女魔王に巨乳魔術師・・・・・・肩書きだけで近寄り難いわ。
いや巨乳魔術師には近寄りたいな〜ふっへっへっへっ。
「この国の英雄たる貴方達に褒美を渡そうと思うわ。まず門番トリダ、コケコッコー族の当主でありながら鶏を使役するなんてふざけた戦い方をする貴方は、周りから虐められ蔑まれていたわね 」
え、えぇ・・・・・・お前、虐められてたのかよ。
でも本当にかっこいい展開じゃんか。
周りから認めて貰えない奴が、努力して猛者を倒して認められ、仲間が増えるなんてさ。
それこそ勇者って感じやんけ・・・・・・でも君さ、頭部が鶏のせいで俺の中では、いつまで経ってもネタ枠でしかないぞ。
あと股間にアッツアツの紅茶をトリダのせいで零した件、忘れてねぇからな。
「ここまで強くなるのに努力していた事を、私は見ていたわ。夜中に一人で特訓していたのも、報告で分かっていたし」
「・・・・・・魔王様」
「トリダ、貴方は今日から魔王幹部として国に貢献しなさい。トリダのこれからの活躍に期待してるわ」
「魔王様、コケコッコー族の当主として・・・・・・魔王幹部として頑張るっス!」
おお、一気に株上がるやん!
門番から幹部って凄くね?鶏凄くね?
そうなると俺も同じ幹部だし、仲間が増えたな。戦力強化にも繋がって良い感じだ。
まぁ別に俺は幹部にはなりたくないんだけどね。
『おおお、素晴らしい!幹部が増えれば軍の士気も上がるだろう』
『鶏の癖して幹部かよ・・・・・・料理に使った方が得だろ』
『コケコッコー族って過去にここまで上り詰めた奴いないよな?努力の賜物かぁ』
貴族もまた、トリダのいきなりの幹部就任に色々な声を上げていた。
おいそこ!こいつの鶏肉だけは俺食べたくねぇわ!
「次に・・・・・・魔王幹部トーマ。貴方には──」
「あい、ちょいストップ。一つ質問させてくれよ魔王様。俺ってばいつ幹部になった?それになりたいとも言った事ないし、つーか面倒くさそうだから嫌だ」
俺の発言で、周りの人達は静まり返った。
トリダは何故か汗をダラダラとかき始める。
え、お前汗すごいよ?サウナに入ってるみたいになってるけど大丈夫そ?
そしてエリナの方を見ると、悲しそうな顔をしていた。
「そう、嫌・・・・・・なのね。確かに私が悪かったわ。勝手に決めつけてごめんなさい。今日はもう解散で大丈夫よ。みんな・・・・・・お疲れ様」
そう言ってエリナはこの場を後にした。
勿論、周りからの視線が痛い。痛過ぎて辛い。
しかし俺には彼女の悲しそうな顔をした意味が分からない。
こういうのはハッキリさせたいな。
でもいきなり追いかけて行くのは、返ってエリナを良くない方向に行かせそうだから、落ち着いたら話しかけよう。
「あのー先輩、どうして嫌なんスか?誰にとっても名誉な事っスよ。魔王幹部なんてみんなの憧れっス」
「なら俺以外のみんながなればいい。それに魔族の国の王の幹部が人間って、おかしいだろ?」
「そういう意味の幹部じゃないと思うっス。魔王様は違う意味で幹部にしたかったんじゃないんスか?」
流石は俺より年上、でもガキの俺には分からねぇよォ〜。
ほんっと直接聞くしかないわこれ。
もうちょっと人の心の事、勉強しないとな。
人付き合いが下手って言われたくもないし、つか現に思われてるかも知れないな。
そうして貴族のみんなも解散した。
帰る時に向けられる冷たい視線が痛い。
やめろ、その視線は俺の心に効き過ぎる。
──────────────
昼頃、中庭に置かれているベンチに座りながら空を見ていた。
おっ、あの雲・・・・・・すんげー〇ん〇んやんけ。
なんて馬鹿なことをしているのだろうか。
気を紛らわす為とは言えアホ過ぎるぞ俺。
「こんな所にいたのね。まぁ、たまには良いかも」
声がした方を見ると、籠を持ったエリナがそこにはいた。
しかもちゃんとした服装で──天変地異でも起きそうだ。
カッターシャツにスカート、ニーハイソックスという在り来りな服装でも彼女を引き立たせるのには十分だ。
「サンドイッチを作ったから食べましょ。もうお昼だし、トーマが好きそうなカツサンドよ」
男心を掴むには、まず胃袋からとはよく言ったものだ。
それにエリナも気まずい空気は嫌なのだろう。
だってこの大きな城で二人暮しだしな。
「はい、あーん」
隣に座って、カゴの中から紙に包まれたカツサンドを俺の口元へ持ってくるエリナは綺麗だった。
「食べないの?何処か具合でも悪いのかしら」
「なぁ、ちょっと話してからでいいか?」
「魔王幹部の話?それならいいの。子供みたいな考えを持っていた私が悪かったのよ」
そう言ってカツサンドを一度、籠に戻して体を此方に向ける。
面と向き合って、エリナはしっかりと俺の双眸を見つめた。
「私ね、寂しがり屋なの」
「分かってるさ。独りぼっちだったんだろ?」
「そう、だから折角出来た友達を失いたくなかった。何処か勝手にふら〜って消えちゃったらどうしようって」
「あのなぁ、俺ってそんなに信用ない?つーかこの世界来たばっかで右左分かんないし、温かい飯作ってくれて、ふかふかのベッドで寝れるなんて環境を手放す訳ないだろうよ」
俺の言葉に納得がいくのか、エリナはうんうんと頷いていた。
それに時々、可愛らしい笑みを浮かべる。
「そうね、でも守って欲しいの。私が危ない目にあったら颯爽と駆けつけてくれる騎士さんみたいにね」
「俺はそんなにかっこよくない」
「何言ってるの?かっこいいわよ。少なくとも私は貴方に心が揺らいでる」
「それはどうせ一時的な感情だろ?」
なんでこんな酷い事を言うんだろう俺。
勝手に思ってもない言葉が出てくるし、またエリナは表情が曇った。
「それでも、一時的でも、私は貴方が傍にいてくれないと嫌よ。責任取りなさいよ」
「どうやって取ればいいんだよ。その責任ってやつ」
「・・・・・・・・・結婚」
「いや飛び越えすぎぃ!そう言うのはもっとお互いを知ってからだろ!」
「ぷっ・・・・・・あっはははは!ほんっと童貞みたいで、お腹痛いわよ。あー面白い──でも冗談ではないわ」
つまりは最終的に結婚したいってことぉ?
エリナちゃん・・・・・・それまぢ?
なんかもう考えるの疲れてきたし、アホらしくなってきた。
よし、こういう時は腹を満たすに限る。
俺はエリナが作ってくれたカツサンドを取り出して、一口食べる。
「・・・・・・っ!お、おっ」
カツを優しく包むパンが優しくて、それでいてカツから溢れる肉汁が口の中に広がる。
これはパンやカツ単体では味わえない美味さだ。
「お袋の・・・・・・味」
「おいしい?気に入ってくれたかしら?」
「エリナ、頼みがあるんだけど」
「なーに?」
「あーんして」
「ずっと傍にいてくれる私の王子様になってくれるなら、してあげても──」
「なる。なるから、早くあーんして」
こんなやり取りをして、ようやくエリナにあーんして貰えた。
うん、美味すぎて泣きそう。
それにエリナも嬉しそうに笑っていた。
やっぱさ、可愛い子って笑顔が似合うよね。
そして食べ終えると、エリナは城へと戻って行った。
たった一言残して。
「好きよ、私の王子様」
みんな・・・・・・俺、初めて彼女が出来ちゃっかも知れません。
お相手は魔王様です。
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