第3話 勇者×魔王×鶏×巨乳×俺

勇者が来たと報告をした鶏頭のトリダを筆頭に、魔王エリナちゃんと幹部のユニちゃんが部屋から出て行ってから俺は取り残された。

その後の自分は寂しさに駆られ、かなり後からだが追いかける事に決めたんだが・・・・・・魔王城の何処かは分からないけど轟音が聞こえくる。

──ドゴンッ、バゴンッ!!


「うっお!揺れが凄すぎて、俺のタマタマもマグニチュードだぜ」


とか言いつつ股間を揺らす俺氏。

我ながらこの状況で何を言ってるんだと思いながら、俺は中心部へと急いだ。


──────────────


目の前に広がる光景を見て、まず言いたい事は違和感があり過ぎてどうしても状況が理解できない。

見た感じ勇者っぽいイケメンとマイクロビキニアーマーにマントを羽織り、コウモリみたいな羽を腰から生やしている魔王エリナちゃん。

二人が対峙していて、そこまではいいんだ。

全然問題ないし、寧ろ異世界って感じしてかっこいい!ってなる。

でもね、でもね──


「さぁ!俺っちの下僕たち、行け!」

「「「「コケッ、コケコケッ、コケコッコォッーー!!!!!!」」」」

「うるせぇよ!ここは養鶏場かっ!?なんでこんなに鶏いるねん!ちょ、そこ卵産むな!」


門番トリダがいきなり大量の鶏を召喚して酷い有様になっていた。

しかし、つっかえねぇなぁ・・・・・・鶏に戦わせるとか思考がもう鳥だもん(鳥に失礼)。

そして号令を出された鶏達は一気に勇者へと駆け出す。


「はぁ!ふっ!てぇやぁ!!」


だが勇者は当たり前のように強かった。

何度も何度も鶏が襲い掛かるが、無駄にキラキラした剣で斬っていく。

うん?え、ちょっと待って?


「やられた鶏が勝手に加工されて、綺麗な鶏肉になってんだけど?!なんでちゃんと血抜き処理されてるん??」

「くっそう!数が多すぎる!」


俺のツッコミを華麗に無視しつつ、鶏を加工していく勇者。

正しくスーパーに並んだ鶏肉の袋に貼ってある『 私が加工しました』みたいな存在になっているぞ勇者くん。


「はっ!しまった!まずい!!」


一匹の鶏が勇者の体へ辿り着き、抱きつく。

え、鳥って抱きつくんすか?気にすんな。

そしてその鶏は急に発光した。

あっ、なんか嫌な予感がするゾ。絶対これ──ドガァァァァァァァァン!!!!


「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「いんや、鶏つえぇぇぇぇぇ?!?!」


え、え?え?!ちょっと理解が追いつかないとかそんなレベルじゃねぇぞおい!


「あっ、きていふぁのね。おひしひわよ、とりにく」


魔王たるエリナは先程の爆発で更に加熱処理さかれた鶏肉を食らっていた。

お前さ、勇者が攻め込んできてこのテンションはなによ?戦場で鶏肉を食うな!


「あんたも、たべふぁよ」

「お、おう。ん、確かに美味いな。しかもちゃんと中まで火が通って・・・・・・じゃねぇから!」


鶏肉を一口食べたが、床へと投げつけた。

良い子はやらないようにしましょうね。

爆発後の煙が徐々に消える中、イケメン勇者は倒れていなかった。

やっぱそうよなぁ、勇者ってこんな攻撃なんか大したダメージでもないよな。


「ぐ、ぶはっ!」


と声を上げながら、膝をついて血を吐く勇者くん。ごめん勘違いしたわ、大ダメージで草。

でも流石に放ってはいけないだろう。

勇者に駆け寄り、大丈夫かと俺は声をかけた。


「き、君は人間、なのか?どうして、ここに?」

「んーちょっと説明が面倒臭いな」

「そう、か。僕には、帰る場所が・・・・・・ある。どうか、助けてくれ」


そうして勇者は淡々と帰る場所とやらについて説明しだした。いやだから普通に立てよ。

お前ずっと四つん這いで逃げるも何もないやん。

しかし勇者の話を聞いてはいるが、ムカついてくるエピソードが多い。


──僕にはお嫁さんがいて、その子は一国の姫なんだ。

──姫に仕えていたメイドに襲われて、メイドが第二夫人になった。

──王妃に襲われて肉体関係を持っている。


うん、お前帰らずにここで息絶えてくれ。

やはりイケメンは生きていて、いい事なんてあるわけないんだ。

俺は勇者の首を掴み、トリダの前に連れていった。


「な、何をするつもりだ?!」


はい無視無視、ヤリチン勇者なんて無視。


「はい、みんなしゅーごー」

「何よ。さっさと終わらせてアンタと話したいのに」

「俺っちには門番の仕事があるっス」

「お腹が空きましたねぇ」


あ、ユニさん居たんすね。影薄いなおい。デカイのはおっパイだけかよ。

というわけで全員が集合した上で、先程聞いたヤリチン具合をみんなに報告した。

勿論、当たり前のように冷めた目で見られる勇者くん。


「はい、裁判長(魔王)。判決を下してちょ」

「は?死刑に決まってるわよ。ヤリチンなんて滅べばいいと思ってるわ。男は一途で在るべきよ」

「俺っち、呆れたっス。勇者って人間達の希望じゃないんスか?民が呆れるっスよ」

「浮気なんて、最低です。しかも母娘丼を経験してるなんて・・・・・・キモイ」


一方、金髪碧眼のイケメン勇者君は今にも泣きそうだった。

確かに俺達も酷いかもしれない。

中学生の頃、謎に変な思考を走らせてノートに存在しない魔法の名前を書いたり、いるはずのない美少女エルフなんて描いてみたり。

それを陽キャに見られ、奪われ、他の陽キャにバラされて囲まれ、勝手に死刑宣告を自分自身に下した奴がいた。

まぁその時は可哀想だと思い、俺が拳をもって救いの手を差し伸べたのだが・・・・・・今回は無理だ。

超えちゃいけないラインを超えてる。

中学生の頃のオタク君は一人の世界で誰にも干渉せずにやった事。

しかぁし!!お前は違うぞヤリチンチン勇者。


「僕だって、僕だって、ヤリたくてヤッた訳じゃないんだぁぁぁぁ!!!!」

「うお!なんだこの光は?!」

「離れるっス、みんな!」


勇者から発せられた謎の光が俺達を包む中、トリダがエリナ、ユニ、俺を突き飛ばした。


「トリダっ!」

「鳥頭!」

「トリダさんっ!」

「・・・・・・グッドラック、手羽先っス」


何を言っているんだお前は?!そんな最後のセリフみたいな事を言うんじゃない!それに本当に意味がわからないぞ!

そして、光が消えたと思ったら、見たくもない光景が視界に入る。

いやね、良くないよ。一応さ、みんなに見てもらえるように全年齢にしたいんだけどね。

ほら、超えてるんだよねラインをね。

なんで光が治まったら勇者君さ、全裸なん?

しかも大事な所だけ謎の光で遮るのなに?

嬉しくないから。アニメ見て、謎の光に隠れる女の子の全裸よりも百倍嬉しくないから。


「これが僕の究極体、エックスキャリバーだ!」


そう言って股間を突き出す。

もしかして股間の事をエックスキャリバーって言ってるの?

・・・・・・・・・だっせぇ!!!え?クソだせぇ!

まじで小学生高学年のガキが考えそうな名前だな!

し、か、も、それを一国の姫に対してズッコンバッコンやってたわけ?

うっわ、うっっわぁ・・・・・・ないわぁ。エックスキャリバー、ないわぁぁ。


「くっ、大ダメージっス・・・・・・」

「トリダさん!大丈夫ですか?今、回復させますね」

「ありがとうっス、ユニさん。眼福っス」


おい鶏、口に出てるぞ。


「トリダさんなら、特別ですよ・・・・・・♡」


あれぇぇ?!なんかちょっといやらしい空気になってるんだけどぉぉ!

もしかして、その気があるのかユニさんよ。

くっそう、はやく幸せになりやがれ!

俺がそんな感じで二人を見てると、学ランの袖をちょんちょんと引っ張るエリナちゃん。

お?どしたん見た目ロリのスレンダーボディエロエロ魔王よ。


「ユニったら毎日トリダに会って、あんな調子なの。だから寂しくて・・・・・・友達欲しくてさ、アンタを召喚したの」


なんでこのタイミングでちょっとシリアスな話持ってくるん?!

しかもこいつボッチかよ。

ロリボディ、マイクロビキニアーマー、魔王と来てボッチが来るんかい。


「その話は後でたんまり聞いてやる!今はあの変態勇者が優先だ!」

「誰が変態だ!僕は勇者だ!!」

「うるせぇよ、全裸の癖に!」

「そうッスよ!もう怒ったっス!大切な人を傷つけようとした変態は、俺っちが倒す!」


そう言ってトリダは俺の隣に来た。

同時に俺の足元に鶏が数匹歩いてくる。

シュールすぎて言葉が出ないぞトリダ。


「コケコッコ一族の当主、トリダの声に応えるっス!どうか、どうか俺っちに力を!コケコッコォォォォォォォ!!!!!!」


え、なに?何が起こってんの?

こう、なんて例えれば良いんだろう。

今俺の隣で、ドラ〇ンボールのスーパー〇イヤ人みたいに気を溜めてるんだけど。


「来るっス!コケコッコブレードッ!!」

「いやネーミングセンスっ?!」

「かっこいいです!トリダさん!」


いや何処が?ユニさん、それ絶対惚れてるから補正入ってるって。

急にカッコイイ剣が現れたと思ったらさ、名前の癖といい、その無駄にカッコつけた顔といい、何なんだよお前。

しかもなにかと強そうなのも可笑しいだろ。

君、門番なんだよね?なんで勇者と対張ろうとしてんの?


「いい眼だ・・・・・・正しく男の中の男!」

「お前だけは許さないっス。コケコッコォ!!」


覚悟っ!!みたいに言うんじゃない!!

ていうか本当に戦闘が始まった。

トリダは何度も持ち前のコケコッコブレードを振るい、勇者はそれを股間で弾き返していた。

なんというかね、本当にシュール・・・・・・。

こんな戦い方ってあるんだなって勉強になるわ。


「ねぇトーマ。唐揚げ作ったんだけど、食べない?作りすぎちゃってさ、早く席に座りなさいよ」


こいつはなんで先程から鶏肉を食べたり、料理をしたりするわけ?

ねぇ魔王さんよ。あんたの代わりに門番が一生懸命に剣を持って戦ってるの。

それを唐揚げ定食みたいな料理を食べて見てろって?

・・・・・・え、なに、ちょっと待ってよ。めっちゃ美味しそうじゃん。

もしかしてこのマイクロビキニアーマーちゃん料理上手?


「いただきます・・・・・・うめぇぇ!」

「ふふぅん、あったり前よ。トーマの為に作ったんだから、たーんとお食べ」

「もぐもぐもぐもぐ・・・・・・うめぇぇぇ」


──キンッ、カンッ、ガキンッ!


なんて言うんだろうか、お袋の味がする。

あーダメだこれ胃袋掴まれたわ。

まぁよく見れば魔王エリナって可愛いよなー。

腰まで伸びた赤髪に、両サイドに小さなツインテール。

マイクロビキニアーマーなんて着てなかったら、めっちゃくちゃ良かったよ。


──カンッ!コケコッコォ!


「うるっせぇな!こっちは唐揚げ食ってんだよ!」

「エックスキャリバー!!!」

「は?」


変態勇者が放った光の斬撃が、見事に俺の食べていた唐揚げ定食を吹き飛ばした。

俺がブチギレる要因の一つであり、かつての舎弟でも俺の前では絶対にやらなかった禁忌行為を、今この勇者はやった。

俺はゆっくりと席を立ち上がり、のっそのっそと勇者の元へ歩き出す。

そして変態の目の前まで来た俺は、当たり前の常識を教えてやった。


「ご飯は、静かに、食べましょうぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「ぶふっふぉぉぉ!!!!」


渾身の右ストレートが決まり、勇者は数メートル吹き飛ぶ。

折角エリナままが作った唐揚げ定食を食べていたというのに、この変態勇者が台無しにしやがってよぉ!

外野にいる魔王、鶏、爆乳幹部は目を見開いていた。

頼むからイレギュラーを見る感じの視線やめてクレメンス。


「よっと・・・・・・よし、トリダ。トドメをよろしく頼んだ!」

「・・・・・・っ!ふ、ふぅ。ま、任せるっス」


え、なに今こいつ俺にビビってた?

ふぅむ、ちゃんとここは伝えるべきだろう。


「トリダ、俺は敵じゃねぇよ?だからビビる必要もない。というか魔王城で暮らしたくなった。飯うめぇし」

「トーマ先輩・・・・・・」


なんで俺を先輩呼びすんねん。

年齢的に絶対トリダの方が上でしょこれ。

俺は勇者の首根っこを掴み、トリダの前に持ってくる。

ドガッとその場に置いて、俺はトリダの隣へと向かった。


「大切な人を守りたいんだろ?だったら見せてみろ!鶏が大空へ羽ばたく、その様をな!」


そう言って思いっきり背中を押した瞬間──トリダの背中に大きな白い羽が現れた。

え?なにこの展開?予想よりガッツリ上なんだけど・・・・・・。


「鶏は、白鳥へと昇華するっス」


お前しょうもないけどさ、今世界一かっこいいよ・・・・・・。

やっぱさぁ、どんな奴でも守る男ってのはかっこいいよなぁ。

例えそれが、鶏を使役して、コケコッコブレードなんて癖のある名前の剣を振っている男だとしてもよ。

しかも魔王の幹部であるユニちゃんは、既に惚れてるしよ。


「くらえ、『 神の鳥の照り焼き』」

「いやだからネーミングセンスっ?!最後にそれ持ってくるんかい!!」

「うっ!あ、あつぃいいぃぃいい!!!」


勇者の体は消えぬ炎に包まれていた。

これじゃ照り焼き所か、黒焦げまっしぐらだろう。

南無阿弥陀仏──変態勇者。

そして、勇者は空へと旅立った。

何とも言えない空気が俺達を覆う中、やはり俺がこの場を切り込むしかないだろう。


「よしっ、とりあえず勇者に勝ったんだし、唐揚げみんなで食わね?」

「ぷっ、ははははっ!なによそれ、あはは!」

「じゃあ、これが戦勝祝いってやつっスね!魔王様、唐揚げ定食一つお願いするッス!」

「私も、お一つお願いします」

「しょうがないわね!沢山食べるのよ!」


そうやって和気藹々と俺達は唐揚げに熱々のご飯を楽しんだ。

異世界って、白飯あんのな・・・・・・。


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