Ⅲ.Accommodation Exchange

 翌日、つまり現ナマを貰った次の日。

 何も無かったかのように登校した。


「二週間後に行う歓迎交流会の班決めをするよー!」

代表委員会所属の1軍女子、背広せびろ 埜夢のむ仕切りの元、学級議会が始まった。


 そもそも交流会というものは一泊二日で宿泊学習をやる行事で、中学校からの内部生と高校からの外部生が初めて交流するというもの。今年も一年中温暖で過ごしやすいリゾート地、白浜崎しらはまさきに行くらしい。


「と言っても席順なんだけどね。笑」

その言葉が彼女から放たれた瞬間、教室は不満と罵詈雑言ばりぞうごんの嵐となった。


 結局のところなえさんと海斗かいと、俺に加え、福田ふくだ 葉蓑はみのさん、陸奥むつ 光一みつかず湧水わきみず 福良ふくらさんの計6人で行動することになった。


「班別会議初めてー」

埜夢さんが呼びかけ、俺たちも動き出す。

「班長、私やる。」

葉蓑さんがボソッと名乗り出たお陰で、役割は難なく決まった。普段、人と喋っているところを見たことがないけれど、やる時はやる女なのかもしれない。


 班長、副班長、記録、保健、美化、撮影という6係。正直無職が良かった。

「理那斗は保健でしょう?頼むね」

保健係とやらになってしまった。


 

「というわけで、2日間は絶対にお休みを頂きます。」

「やっぱ私学ってのは金かかってんなー。」

有給の消化を要請した。

「楽しんでこいよ。」

すんなり下りた。

「珍しいですね、こういう時大体嫌だって駄々こねるじゃないですか。中学の修学旅行でもそうでしたよね?」

「あん時はあん時だ。さすがに今回くらい楽しませるのも上司の務めだろう。」

「初めて聞きましたよそんなカッコの良いセリフ。」

「働き方改革の波がこの業界にも来てるみたいだな。」

「ほう。」

「非常に不本意だが仕方ない。」

不本意なんかい。


 一週間後。要するにせぶんでいずが経った時。

 四月も中旬になり、学園生活にも慣れて来た頃だった。


「理那斗くん、ちょっと」

葉蓑さんに呼ばれた。彼女は下を指差していたので見てみると、

「珍しいね。カナブンが迷い込むなんて。」

「……取ってくれる?」

うん、と返事をしてみれば、満面の笑みを浮かべた。そんなに苦手なものかねぇ。

「ほれ、捕まーえた」

「ありがとう!」


廊下の窓から逃がすため、持って歩いているとあることに気付いた。

「眼の色がなんか違う気がする。」

なんかこう、自然物の色ではない色だった。彩度が低く明度も高くない。一見すれば只の眼球の色だが。俺の目を侮るなかれ。


 眼に細工がなされている。なら、眼にスマホの光を当ててみようではないか。まあ結果は目に見えている。そう、光がレンズに反射するのだ。

 これは眼にカメラのレンズが組み込まれている謎のカナブンであった。

「何だか妙だな……」

 むやみに壊しても良いがなんか怖い所が十分過ぎるくらいにあるので、TNIAに持ち帰ろう。

 葉蓑さんには放っておいたと伝えた。また満面の笑みを浮かべてお礼を言ってくれた。



「みんな早く並んでーっ!」

埜夢さんの声が甲高く響いた。

 昼休憩が終わり、五・六校時は宿泊交流会のオリエンテーション。みんなどこかテンションが高そうだ。廊下を静かに歩いて、着いた先は地下ホール。一学年、八クラスなら全員が入れるほどの広さ。ここももちろん空調、音響、ハイテク設備が整っている。


 スクリーンが降りてきて、オリエンテーションのスライド資料が映し出されると、会場は一気に盛り上がった。

「みんなー!?宿泊交流は楽しみかーッ!」

ノリせんの掛け声に、

「オオオオオオオッーーッ!!」

会場全員が反応した。凄い盛り上がりよう。

 その後普通のオリエンテーションが始まった。

「班は内部生班と高入生班二つが合体した、合計12人で構成される」

などと、一方的に説明を受けた。ノリ先が説明するたび、称賛の声と拍手が飛んでいた。この盛り上がり様、内部生のノリには多少ついていけるようにしないといけないのかもしれない。一通り説明が終わった後は、いよいよ班の顔合わせ。


 内部生と高入生が初めて会う場面だった。意外と仲の間は良いらしく、別け隔てなく接してくれた。なお内部生なだけあって、官僚の子息や多国籍企業の娘など、その面子の顔触れはそうそうたるものだった。


「何か楽しそうだったな、白浜崎!」

「お金かかってんだろうなー。」

「そんなぁ、現実なんて見せないでくれよぉ。」

戻り道は海斗と談笑しながら戻った。



「おう、来たか」

そういう碧天へきてんに例のカナブンを突き付けてやった。蛍光灯の光が当たり、翡翠のような輝きを持っている。


「こいつの眼、多分カメラです。」

やけに高性能なカメラなのだろう。一眼レフのレンズと構造がよく似ている気がする。

「確かにそいつは不思議なもんだなー。」

今日あった旨を話した。


「考えたくはありませんが、昆虫型スパイロボットというのはよく聞きます。」

近年では通常化したスパイ事情の一つ。國内では一般に製造されておらず、我が國の諜報機関の使用履歴は全く無いため、異国の物だと踏むことができる。


「そうだな。よし、詳しく調べて、安全か否かを判断しよう。」

 むやみやたらに調査はできないので、しばらくTNIAに置いておくようになった。万が一ぶっ壊しでもしたら、その情報が最期に送られることもザラにある。機械が生きている間も常に通信が行われているとするなら、なおさらだ。

「本日は失礼しますよー」

「へーい、お疲れさん」

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