第60話 管理局に目をつけられた件 ②
「どうされました?」
報告者が訝しげに眺めてくる。
どうされたもこうされたもない。
「ルノワールギルドに、聖銀ギルドまで。日本を代表するギルドがこぞって御部を取り合っているのか!」
「その通りです。しかし御部はすべてのギルドの誘いを断っているようです。ルノワールギルドや聖銀ギルドに至っては、会話すらさせてもらえなかったと情報が入っております」
最大ギルドの誘いを無碍にするほどの男。
「なぜ彼らはそこまで……!」
「4つのユニークスキルホルダーである堂本雷轟を一方的に蹂躙したからです」
「何……?」
先日話題に上がった堂本雷轟を?
「堂本雷轟は先々月、推定Sランクと評価されたばかり……」
もともと彼はAランクの探索者だった。
しかしある日、報告書と一つの動画が私のもとに届いた。
その動画の内容は途轍もなかった。
ユニークスキルを4つ保有している者が、それらを巧みに使いこなし、一騎当千の戦闘力を披露していたのだ。スキルの一つ一つが相乗効果を果たしていた。まさしく日本を救う英雄の姿だった。
管理局の査定員は、満場一致で堂本をSランクと評価した。
「そのSランクを一方的に圧倒するポーターが現れたのです。日本が待望する、推定Sランクのポーターが」
私は異様な空気に呑み込まれた。
「御部の現在の探索ランクは?」
「パーティーの探索ランクはA。ソロの探索ランクはEです」
「……は? 今何と言った?」
「パーティーの探索ランクはAと」
「その次だ!」
「ソロの探索ランクはEです」
「Sランクを圧倒するシーカーがなぜEランクなのだ馬鹿者!」
「おそらくそのときはまだ寵愛を受けていなかったのではないかと推察しています。それまで御部は4度、Dランク試験に落第しています」
なんと……!
Eランクの者をSランクに激変させるスキルなんてあるのか?
「ますます御部のスキルの情報が必要だ。何かわかったか?」
「わかりません」
「何だと?」
「申し訳ありません」
「大手ギルドの連中は何か掴んでいないのか?」
「ルノワールギルドも聖銀ギルドも御部のスキルの正体はわかっていないようです」
「そんなやつをギルドに入れようとしていたのか? ギルドマスターたちは何を考えてる」
「御部はそれほどまでに圧倒的だったのです」
これは私が直々に調査をする必要があるか?
下の者の報告では全容がまったく掴めない。
しかし、局長ともあろう私が、なぜこのような下っ端の仕事を……。
仕方あるまいか……。
他にも膨大な仕事を抱えているが、御部桐斗という人物を正確に把握するためだ。
彼を他の国に盗られてなるものか。
「ダンジョン管理局は、御部を味方につけられるのか?」
「可能と考えます」
「本当か!」
私の体が一気に軽くなった。
ガハハ!
「御部は1ヶ月前、ダンジョン管理局のパンフレットを請求しています。そのパンフレットは、就職説明会のものでした」
「採用だ馬鹿野郎! やったぜこん畜生!」
涙が出そうだった。
「しかし御部は、締切を過ぎても採用試験にエントリーしてきませんでした」
「なん……だと……?」
涙が引っ込んでいった。
「個人事業主として、幼馴染とパーティーを組んでしまいました」
「その幼馴染もろとも管理局にスカウトしろ」
それしかない。むしろそれがいい。
「局長。強引な手はお勧めいたしません」
「なぜだ?」
「神々の怒りを買います」
「そんなもの、今年の貢物を倍にすればいい」
「それが……非常に申し上げにくいのですが」
どうにも歯切れが悪い。
「どうした、言え」
「御部桐斗は【全裸聖母】に気に入られている可能性があります」
「なっ……!」
私は目を見開き、言葉を失った。
「御部の配信で、全裸の女という単語が何度か出てきています。しかもそれは、どうやら神様のことを指しているようなのです」
「始まりの母――イヴ……」
私は神様の真名をそっと呟く。
禁断の果実を口にしなかった彼女は、恥という概念を持ち合わせなかった。ゆえに、神々の楽園を裸で過ごしていたという。
純粋無垢に、心のままに。
「それを裏付ける証拠として、世界で初めて……モンスターの存在しないダンジョンが日本に誕生しました。渋谷区道玄坂。通称――ゴキブリダンジョン」
その報告は耳に入っている。
「ゴキブリは御部桐斗の愛称でもあります」
なんてふざけた愛称だ!
「御部が危機に陥ったとき、それを手助けするために、【全裸聖母】がダンジョンを産み落とした可能性が高いです」
彼女はダンジョンを産み出すことのできる超越者。
我々はそのくらいしか情報を得ていない。
「御部桐斗は【全裸聖母】から寵愛を受けているというのか……」
「その通りです」
目の前の男ははっきり言ってのけた。
「イヴの怒りを買えば、日本は迷宮に埋もれ、いずれ沈没してしまいます。我々に出来ることは、御部桐斗をそっとしておくことなのです」
「ぐぐぐ……」
震える私は卒倒し、椅子ごと後ろに倒れた。
ずしん、と後頭部やら背中やらに衝撃が走る。
「御部ぅぅぅぅ!」
私は目を充血させて叫ぶほかなかった。
*
「くしゅん!」
四畳半の畳の上で俺は鼻をすする。
「んあ?」
風邪ひいたかな?
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