第59話 管理局に目をつけられた件 ①



 ――東京都中央区・ダンジョン管理局本部。


 私は総理大臣よりも偉い。

 なぜならダンジョン管理局の局長だからだ!

 ガハハ!


「新規のユニークスキル授与者のリストは更新できたか?」


 雰囲気を出して、低く言ってみる。

 すると一人の報告者が「ハッ!」と気持ちのよい返事を発した。

 きびきびとした動作で報告書を配布し始める。


「ご苦労」


 私は広大な会議室の局長席に座り、指を組んで厳かな表情を浮かべてみせる。

 それだけでここにいる全員に緊張が走る。ような気がする。

 ガハハ!


「これが話題の寵愛者か……新たに3人も」


 机の上の書類に目を落とした。

 調査報告書には3人の顔写真が載っている。

 まったくもってタイミングが悪い。


 Bランクダンジョンにミスリルゴーレムが現れた事件で、その調査を行うために、ただでさえこちらの人員コストが足りていない。


 なのにこの寵愛者の調査でさらなる人員を割かなければならなかった。


 今年の神様はやけに活発だ。

 ――何を考えている?


「報告せよ!」


 私が鋭く言い放つと、男が一人席を立ち、背筋をビシッと伸ばした。


「報告いたします。新庄彩芽、雷系スキル。式甚八、風系スキル。御部桐斗、不明」

「不明?」


 流し目を送る。

 続きをどうぞ、の流し目だ!


「分類不能です。現象自体が多岐に渡り分析が困難。どういった属性のスキルか見当もつきません。しかも、この歴史上で未だかつて観測されていない類のものと推察されます」

「歴史上初のスキルか……」


 初めましての神様、その可能性が出てきた。

 今まで息を潜めていた神様が動き出したということだ。

 我々の把握していない神様は一体どれだけ存在するのだろうか。


「どういったスキルなのだ」


 私は俄然興味を持った。


「武術系のスキルかバフ系のスキルか――」

「まだ他に可能性があるのか?」

「防御系のスキルかダンス系のスキルか」

「何……!」


 御部のスキルは変幻自在か?


「まったく別種のスキルの可能性もあります」

「どういうことだ」

「とにかく可能性が多岐に渡るのです」

「絞れないのか」

「絞れません」

「現在の推測の話でいい。具体的にどういうスキルなのだ」

「わかりません」

「発動条件はあるのか?」

「わかりません」


 私はなんだか腹が立ってきた。


「授けた神の名は?」

「わかりません!」

「類似するスキルは?」

「わかりません!」

「逆に何ならわかるのだ!」

「何もわかりません!」

「ふざけるな!」

「ふざけてません!」

「この野郎!」

「申し訳ありません!」


 私が机を叩いて立ち上がると、報告者が深々と頭を下げた。


「御部桐斗の情報を優先的に集めろ。管理局に仇なす者と判断すれば抹殺だ」

「ハッ!」


 果たして御部は我々の味方か、はたまた神々の味方か……。






 それから2ヶ月が経った。

 御部桐斗の情報が新たに入ってくる。


 ユニークスキル保持者である堂本雷轟と亀田武蔵を擁する竜のアギト――その支援職としてパーティーに加入していた御部桐斗が、8月末あたりに神様から寵愛を受けていた疑いが出ている。


 今はパーティーを解散しているらしいが、5人中3人もユニークスキルホルダーがいたなんて、どれほど稀有なパーティーだったのだ。


「御部が学園を退学してフリーになったあと、多数のギルドから声がかかっております。これがそのリストになります」


 机の上にリストの束がごそっと置かれた。


「これほどの数……!」


 私は目を見開く。


「無理もありません。御部は圧倒的な攻撃力と防御力を誇っていながら、本職はオールラウンドのポーター。ダンジョンの前線で闘えるポーターは引く手あまたです」

「何だこれは……!」


 私はリストの一覧に目を走らせ、衝撃のあまりわなわなと震えた。


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