第55話 俺の知らないところで元メンバーが大変っぽい件 ⑤


 ♠ ◆ ドラゴン視点 ♣ ♥


 懲役5年。

 それがオレに下された実刑判決だった。


 探索者専用刑務所――川崎監獄。


「ようこそ地獄へ、クソガキ」


 オレは看守にケツを蹴られて、ずんずんと刑務所の中を歩かされる。


「ここで自分の罪を償うんだ」


 とある鉄格子の前で、オレは立ち止まらされた。


「せいぜい可愛がられるんだな」


 重々しい音を立てて、牢獄の扉が開いていく。

 そしてまたケツを蹴られて、オレは雑居部屋の中に転がされた。

 不衛生な埃臭さが鼻に侵入する。


「よお、新入りか?」


 嗄れた声。髭面の男がオレを見下ろしてくる。


 雑居部屋は6から8人部屋だと説明を受けていた。

 だがここはオレを含めて8人部屋らしい。

 6人部屋を希望していたのに、ぎゅうぎゅう詰めで息が詰まりそうだ。

 オレは身長が2メートル、体重も100キロを越える大柄。

 雑魚寝するにも圧迫感で気が滅入る。


「まだ若ェのな。よろしく頼むぜ、新入り」

「新入りお前……有名な配信者だったらしいなァ」


 すでにオレの情報が回っているらしい。


「ドラゴンチャンネルっつうんだって?」

「自分がいじめてた奴にボコられて生配信されたって聞いたが」

「ダサすぎるだろそれ」

「うわあ、街中歩けねェ。恥ずかしくて死んじまう」

「挙句の果てには刑務所か。つくづく人生終わってんな」

「俺だったら生きるより死ぬ」

「いじめられっ子に負けるなんて、お前どんだけ弱ェんだよ?」


 オレ以外の7人が物思いに口を開いている。

 オレはそのすべてを無視する。 


「今日の刑務作業が終わったら休憩室に来い」


 この監獄にいるってことは、この男たちもダンジョン探索者で、おまけにスキルを使用した罪を犯したのだろう。体つきはオレと負けず劣らずだった。


「そこで新入りの歓迎パーティーをしよう」


 極悪面の7人がオレを見下し、ニタニタと嫌な笑みを浮かべた。




     *




 オレは看守からオリエンテーションを受けて、刑務作業の流れを一つずつ見学したのち、同居人に言われた通り指定された休憩室に足を踏み入れた。


「来たな新入り」


 休憩室とは名ばかりで、ほとんど物置部屋だった。


「きひひ」

「新入り……仲良くしようや」


 まァこうなるよな。


「ぐっ……あっ……!」


 オレは監獄に入って早々、新入りの洗礼を受ける。

 その場にうずくまって、同居人の殴る蹴るを耐え続ける。


「お前さァ、新入り。シャバじゃ成功してたか知らねえけど、ここじゃお前はゴキブリも同然なんだよ。少しばかり態度が悪いんじゃねェか、ああ?」


 ゴキブリ?


「後から入ってきたんなら笑顔の一つでも見せてケツを振らねェとな?」

「ぐふっ……う……!」


 誰がゴキブリだと?


「立場ってものをわからせてやるよ」

「骨の一本や二本、折れてもいいだろう?」

「ううっ……がはっ……!」


 オレを、その名で、呼ぶな。




     *




 オレは入所してたった1日で、2メートル四方の懲罰房にぶち込まれた。

 禁錮の刑2週間。


 オレは同居人7人を半殺しにした。

 全員クソ雑魚だった。

 無防備で殴られてやったのに、全然痛みが響いてこなかった。黙って殴られてやるつもりだったが、あんな蚊みたいな拳は受けてやる価値もなかった。


 だから全員半殺しにした。

 オレの拳の感触で言えば、7人とも顔面が陥没骨折している。

 脚の骨は何人砕き折ったかな。


 ――覚えていない。


 オレが覚えているのは、あいつの拳の強さだけだ。


 オレは目を閉じる。

 両手を合わせ、念仏を唱える。

 ただただ無になる。


〈【不動暗王】があなたの行動を静観しています〉


 オレは世界と一つになる。

 合掌。






 ♠ ◆ 掲示板 ♣ ♥




【神々に】ダンジョンスキル考察スレ1274【媚びろ】



232:名無しの探索者

やっぱりバフ系とは違うと思うんだよな、ゴキブリのユニークスキル。


233:名無しの探索者

>>232

攻撃の威力が上がったとか、速度が上がったとかの話じゃないもんな。なんというか、パンチそのものが洗練されてる印象だったわ。バフ系だと、不格好なパンチがそのまま強化されるイメージだから違和感ある。


234:名無しの探索者

何度見ても無駄のないパンチで草。


235:名無しの探索者

美しさすら感じるよな。10年鍛錬したと言っても信じるレベル。


236:名無しの探索者

拳系のスキルが妥当だと思う。【クイックスマッシュ】とか【ブレイクジャブ】とかの上位バージョンじゃねえかな?


237:名無しの探索者

>>233 >>236

ただ、ゴキブリが一瞬光に包まれるんだよ。拳系のスキルだと、ちょいと説明がつかん。あの光は何だって話になる。だから俺はまだバフ系を疑ってる。


238:名無しの探索者

スピードを上げるみたいな身体系のバフじゃなくて、スキルそのものをレベルアップさせる技能系のバフとか?


239:名無しの探索者

>>238

そうそう、そんな感じ。


240:名無しの探索者

拳術系のスキルがレベルアップされた感じじゃね。このスレでも単一のスキルの熟練度みたいな仮説が考察されてるだろ。


241:名無しの探索者

熟練度?


242:名無しの探索者

同じ【クイックスマッシュ】でも、術者によって練度が違うってやつな。


243:名無しの探索者

レベルみたいな隠しステータスがあるんじゃないかって何年も考察されてる。一昔前に東大の教授が『スキルレベル説』を提唱してて、近年ではその考えが主流になってきてるしな。


244:名無しの探索者

だとしたらウィンドウに表示されてもいいんだがな。配信のコメントを流すくらいなら、こういうレベル値を載せてもらったほうが有益だと思うぞ。


245:名無しの探索者

レベルという概念があるなら俺がんばるっス!


246:名無しの探索者

体感的にも経験的にもレベルはあると感じてる。でもそこを神様が教えてくれねー。


247:名無しの探索者

もし御部のユニークスキルがレベルアップ系ならマジでチート。何の努力もせずに、既存のスキルが強くなるわけだろ?


248:名無しの探索者

いやいや、そんな便利スキル、めちゃくちゃKP消費するに決まってるだろ。俺たちが神様に授けられたとしても、たぶん使いこなせる代物じゃないぞ。


249:名無しの探索者

探索者12年目のワイ、神様のフォロワー0な件。


250:名無しの探索者

>>249

涙拭けよ、おっさん。


251:名無しの探索者

俺の考察を聞いてくれ。


252:名無しの探索者

聞こう。


253:名無しの探索者

はよ。


254:名無しの探索者

おう、あくしろよ。


255:名無しの探索者

ゴキブリは憑依系のユニークスキル保持者。この世の達人を自分に憑依させて闘うスタイルなんだよ。だから立ち振る舞いもしゃべり方も一瞬おかしくなった。そう考えるとゴキブリの背景ともぴったり合う。ゴキブリは竜のアギトに寄生して生きてきた。つまり、根っこは他人の力を利用するタイプの人間なんだ。そこに同タイプの神様が惹かれてスキルを与えた。そういう経緯だと俺は考えてる。


256:名無しの探索者

それだわww


257:名無しの探索者

ついに正解を導き出すやつが現れた。


258:名無しの探索者

「黙れ小童」の謎が解けたww


259:名無しの探索者

なるほどね、武術の達人を憑依させたのか。


260:名無しの探索者

天才現る。



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