第50話 新たにパーティーを組んでみた件 ②



“キラーマシン!?”


 対探索者用ロボットの異名を持つ機械モンスター。

 メタルボディに赤い単眼が怪しく光っている。

 右手に換装されてあるのは無骨な片手剣、左手に換装されてあるのは音速のボウガン。


“虎ノ門、1階層でこんなの出るのかよ……”

“極悪すぎんだろ”


 その防御力もさることながら、探索者泣かせの攻撃力が厄介だ。ボウガンの矢が、探索者の皮の鎧を貫く動画を見たことがある。


「じゃあ、亀田。あとは頼んだ」


 俺は手を振って交代する。


“人任せw”

“何しに来たんだよ、ゴキブリ!”

“一人で倒せる敵じゃねえだろ”

“Aランクモンスターだぞ”

“お前も手伝えや!”


「だって俺は荷物持ちポーターなので」


 支援職が前に出てどうするんだ。


“ったくこれだから……”

“使えねー虫だな”

“そういうとこだぞゴキブリィ!”


「うおっ!? あっぶね!!」


 警戒していたから直線上に立ったつもりはなかったが、キラーマシンが不意打ちノールックでボウガンを射出してきやがった。音速の矢が瞬く間に迫ってきて、俺はとっさに右手で矢をはたき落とした。


“!?”

“!?”

“何が起こった!?”

“マジかよ”

“ボウガンを手ではたき落としやがったw”

“なんでそんなことできるんだよww”


 危なすぎる。


 ふぅー、と俺は冷や汗を拭う。


“夏休みのときから思ってたけど、ビンタ極めてね?”

“そういやファイアーボールにビンタしてたなw”

“マジ?”

“なんでファイアーボールをビンタしようと思ったんだよ……”

“自分の身を守れる荷物持ちポーターかぁ。うちのギルドにほしいなぁ”

“引く手数多だろうな”

“あれ? カメムシは?”


「隠密・解除。忍法――」


 空間から溶け出る亀田。

 両手を後ろに流す忍者走りだ。

 あれって走りにくくないか?


火雷ほのいかずち


 キラーマシンの背後を取った亀田が、片手をメタルボディに押し当てていた。

 触れた部位からバチバチと紅い電気が迸り、次の瞬間、天にも轟くほどの雷鳴と共に殺戮ロボットが一瞬で燃え上がる。


『ギギ……ギギギ……』


 雷の音が苦手な俺は、びくっと体を竦ませた。


“ヤバすぎる”

“カメムシ、チートだろ”

“すげええええ!”

“キラーマシンが熱暴走起こしてショートしてる”


 赤い火柱の中で、ロボットの影が狂ったように動く。

 その動きに規則も秩序もなかった。

 指揮系統が破綻してしまったのか、暴れるように肩関節や股関節をぐるぐると回転させ、耳障りな警告音を辺り一帯に撒き散らしている。


「機能停止を確認。暗殺完了でござる」


 火柱の影の中で、どろどろにひしゃげた金属が地面に倒れる。

 キラーマシンの単眼から、赤い光が消え失せていた。


“暗殺っていうか、派手派手でしたけどね?”

“あれ? ゴキブリは?”

“黙々と剥ぎ取りしてるww”

“妖精さん仕事してー!”


 俺は熱耐性のある剥ぎ取りグローブをはめて、溶接道具でキラーマシンの体を解体していた。遮光グラスの向こう側で、青白い光が鮮烈に輝いている。


「当たり前だろ。10分やそこらでダンジョンに還っちまうんだぞ」


 素材の剥ぎ取りは時間との勝負だ。

 そしてそれが、ポーターの仕事だ。


「金目のものは根こそぎ奪う!」


 俺は胸の金属板をプラズマで焼き切って、突っ込んだ腕で導線をぶちぶちと引きちぎる。


“手際よすぎww”

“剥ぎ取りのときのゴキブリ、活き活きしてるよなw”


 たしかこのへんなんだよな……。

 俺は高熱の金属で火傷してしまわぬよう細心の注意を払いつつ、腕を胸郭部に伸ばして植物みたいな導線を掻き分けていく。


 すると指先につるっとした丸い感触があった。


 すぐさま俺は剥ぎ取りナイフに持ち替えて、まわりの導線を丁寧に切り取っていく。ここまで来れば締めの作業だ。さらに溶接道具に持ち替えて奥に差し入れ、今度は球体を固定する金具を焼き切っていった。


 完璧だ。


「【殺戮機械の核】取ったどおお!!」


 青と緑の地球みたいな球体を、俺は両手でぐいっと掲げてみせた。


“早すぎ”

“うるさいww”

“希少部位かよ。しかも欠損なし”

“なんでそんなに綺麗に剥ぎ取れるんだよ”

“上手に剥ぎ取るなぁ~!”

“品質いいの羨ましい”

“狙ってやってんのか、あれ?”

“うちもポーター雇うか”

“これを見ちゃうと欲しくなっちゃうよな”

“でも闘えるポーターは年俸高いからなぁ”


「待ってろ姫花! これでダンスの練習着買ってやるからなぁ!」


“うるせえなw”

“妹愛がすごい”

“姫花ちゃんのダンス着になりたい”

“シスコンww”


「シスコンじゃねえ! 家族愛だ!」


 俺は妖精カメラに血走った目を向ける。


“黙れ小童w”

“シスコンでいいだろもう”

“必死に否定するよなこいつ”


「これこれ、桐斗殿。本日の配信の目的を思い出すでござるよ」


 俺が「姫花ちゃんのダンス着になりたい」と言っていたやつをブロックしようとしていると、横から亀田がちょんちょんと服を引っ張ってきた。


「目的? ああ、そっか。そうだな」


 別に探索するダンジョンはどこでもよかった。

 ただ、Aランクのほうがパーティーを結成したことがわかりやすいと思ったのだ。


「この配信の目的の一つは近況報告だ。亀田とパーティーを組みましたよってことと――」


 俺は妖精カメラに静かに話しかける。


「俺が皇学園を退学しましたよってこと」


“結局退学したんだ”

“まあお前ならやっていけるよ”

“謎のユニークスキルもあるしな”

“いい加減あのスキル教えてくんねーかな”

“スキル考察スレがゴキブリの話題で持ち切りだったぞ”


 絶対に教えない。

 ユニーク狩りに狙われるのはごめんだ。


「もう一つの目的は、ドラゴンたちどうしてる? ってことだ。誰かあいつらのこと知らない?」


 どうやらあの3人も皇学園を退学したらしい。


「俺さ、もう一度あの3人と話してみたいんだ。もう一度会って、腹を割って話したい。あいつら今頃、絶対苦しいと思うんだよ。辛いと思うんだよ。だからあいつらの話を聞いてさ、ちゃんと許してあげたいんだ。もう一度、前を向いてほしいんだ。だってあいつら、俺なんかよりすげー才能あるのに」


 弱い立場の人間の気持ちがわかるからこそ、俺はあいつらを放っておくことができなかった。




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