第49話 新たにパーティーを組んでみた件 ①


 2ヶ月後――

 俺は今日もダンジョンに潜る。


「どうもゴキげんよう、皆様方。超人気Dチューバー・ゴキブリです」


 妖精カメラに横ピースをする俺。

 先日登録者が100万人を越えた。


“黙れ小童”

“調子に乗んな”

“わかりやすいほど天狗ですね”

“誰のおかげだ? あん?”

“初心を忘れるなよ根暗おかっぱ”

“勘違い乙”


 よしよし。

 視聴者さんは今日も元気みたいだ。

 俺も元気に挨拶をしよう。


「今日も配信を見に来てくれてありがとうございます!」


“おうよ”

“待ってたぜ根暗おかっぱ”

“配信頻度あげろカス。最近の楽しみなんだよ”

“2ヶ月ぶりだなゴキブリィ!”

“ようやくか。待ちくたびれたよ”

“ゴキブリダンス、1000万回突破したってよ”

“おめでとう!”

“どこの馬の骨ともわからんZ世代の女が踊ってるやつより、お前が殺虫液を滴らせて踊ってるやつのほうが好き”

“草”


「お前らツンデレかよ。全員ブロックするとこだったわ」


“www”

“ゴキブリの悪口を我先にと打ち込むリスナー”

“罵倒するとき異様にコメント欄加速するよなw”

“団結感がすごい”

“いや、でもほんとに待ってた”

“今まで何してたんだよ”

“元気そうでよかったわ”

“ゴキブリからしか得られない栄養素がある”


 ちなみに同接1000万人を越えた復活ライブ配信のあと、「黙れ小童」がトゥイッターでトレンド入りしたらしい。その汎用性の高さと煽り力の高さから、ネットのどこへ行っても「黙れ小童」を目にするようになった。


 小童たちウケる。


 まあ2ヶ月も経てば、俺もかつての俺に順応しだした。

 最初は姫花に「お兄ちゃん変っ!」と距離を置かれていたが、今ではいつものように接してくれるようになった。愛らしい妹だ。


“そこどこ?”


 俺はあたりを見渡す。


 銀色の壁、銀色の床、銀色の天井。


 迷宮の構成物がすべて無機質で、寒々しい空気が俺の胃を重くする。言うなれば、宇宙戦艦の内装、みたいな景色だった。謎の配管があったり、淡いブルーライトがあったり、メカニカルな印象が強い。


「ここは『虎ノ門ダンジョン』だ」


 数年前、東京都港区に突如現れた極悪ダンジョンだ。


“ふぁ!?”

“Aランクダンジョンじゃねえかww”

“大丈夫かよ一人で”

“一人?”

“お前、いつからソロのAランク資格取ってたんだよ?”


「と思うだろ?」

「ニンニン、でござるよ」


 闇から溶け出るように、可愛らしい男の子が姿を現した。

 俺の相棒、亀田である。


“いたでござるか、カメムシ”

“ニンニン!”

“ニンニン!”

“ニンニン!”


 急にコメント欄が色めきだった。


「なんで俺の視聴者が亀田に調教されてんだよ」


“うるせえ!”

“ご愛嬌でござるよ?”

“どっちも登録してんだよ”


 亀田のこのカルト的人気は何なんだ?

 亀田がコラボしたチャンネルは、コメント欄が軒並みニンニン祭になる。これまでの流れをぶった切ってしまうから、まさに配信者泣かせのコラボ相手だ。


「まあそういうわけで、無事に退院した亀田とパーティーを組みましたよって報告だ」

「改めまして、よろしくでござるよ?」


 上目遣いで、視聴者さんの反応をうかがう亀田。


“おおおお!”

“かわいい”

“かわいい”

“カメムシ俺だ! 付き合ってくれ!”

“退院したのね、おめでとう”

“パーティー名は?”


「パーティー名? そんなの決まってるだろ。〝害虫コンビ〟だ」


“ふぁーwww”

“くっそwww”

“もっといい名前あっただろww”

“たしかにお前ら害虫だけどもw”

“数年後に後悔するやつだこれ”


 そもそも俺たちを『害虫コンビ』と命名したのは視聴者さんだ。

 俺はそれを拝借したにすぎない。


「俺たちのチャンネルを大きくするためにマネージャーを雇いたいところだな……」


 登録者100万人を突破したと言っても、神様のフォロワーは【鳥籠の卵】さんと【全裸聖母】さんの2柱しかいない。


 内訳は99.9%が人間だ。


 俺も亀田みたいにたくさんの神様にフォローされて、KPをがっぽがっぽ稼ぎたいです。チートスキル、もっと使いたいです。お願いしますよ、卵さん。


“お前、俺たちをただ働きさせてたもんなw”

“毎日投稿でヒィヒィ言ってるDチューバーが多いなか、ゴキブリだけ毎時間投稿を達成してて草”

“お前ら有能すぎ”

“募集したらすぐ集まるんじゃね?”


 その節はありがとうございました。

 たしかに毎時間投稿の威力は凄まじかった。

 1日で2万4000人も伸ばせたんだっけ。


「おっと」


 話の途中だったが、俺は妖精カメラから視線を外した。


「騒いでたら、敵さんのお出ましだ」


 異質な機械の駆動音。

 俺は警戒しながら音の主へ体を向ける。

 そこにいたのは――

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