第46話 同接1000万人のざまぁが配信された件 ⑤



「【ヘイスト】【ヘイスト】【ヘイスト】!」


 居合の構えをしたオレに、寵愛の光が何重にも膨らむ。


“ふぁ!?”

“重ねがけできんのそれ!?”

“めちゃくちゃKP使いそう”

“チートだろマジで”

“まさに神に選ばれた男”


「次はオレの刀を防げない」


 鞘から抜き放たれた【絶刀】は、先ほどの何倍もの速度になる。

 おそらく、次の一手で勝負は決まるだろう。

 不思議とオレにはそんな予感があった。


「なァゴキブリ……お前の人生どうだったよ。散々人に痛みつけられて、反抗もできずぺこぺこして、挙げ句の果てには大嫌いな奴に殺される。お前、生まれてきてよかったか?」


 こんな惨めな人生だったら、生まれてこないほうがマシだと思った。


「生きてるだけで辛いだろ?」


 ゴキブリは何も言わない。


「なァゴキブリ……跪け」


“!?”

“!?”

“!?”


「跪いて俺に詫びろ。ドラゴン様ごめんなさい、生まれてきてごめんなさいってな。そうすりゃオレも鬼じゃねェ……。命までは取らねェよ」


 転移。

 即座にゴキブリに背後に移動する。

 ゴキブリは想定外のことに身動きすら取れていない。


「ほらどうした。謝れよ。斬っちまうぞ」


 転移。

 今度は真横だ。

 拳を握りしめるゴキブリは、ただただうつむいている。


「もうお前の首は捉えてる。泣いて詫びろ」


 転移。

 今度は真正面。

 思いついたままランダムに転移しているから、ゴキブリだって予測できないはずだ。


「俺はもう逃げない」

「あ?」


 オレは転移を止めて、ゴキブリを冷めた目で見る。


「俺はもう負けたくない。お前にじゃない、ドラゴン。俺は俺に負けたくないんだ」

「マジでイラつく野郎だこいつ」


 いつだってそうだ。

 こいつはいつだって反抗してくる。

 どれだけ心を折ったと思っても、その反抗的な目で立ち上がってくる。


「来いよ、ドラゴン。決着をつけよう」


 ゴキブリが真っ直ぐにオレを見上げた。

 こいつは何度立ち上がってくれば気が済むんだ。

 いい加減、死んでくれ。

 お前ごときが、オレの前を立ち塞ぐな。


「そうだなァ。望み通り殺してやるよ」


 もうオレの【絶刀】がどれだけの威力になったのかもわからない。


 溜めに溜めた【絶刀】。

 それに加えて【転移】。


 オレは至る所に転移していく。

 床だけじゃない。

 壁や天井、空中にまで転移し、ゴキブリの周囲に現れては消えてゆく。

 奴の目標を絞らせない。

 逆にオレがあいつの首を絞っていく。


【転移】【転移】【転移】。


 ――捉えた。


「【絶刀・解】」


 ゴキブリの右斜め下、オレはそこに瞬時に転移し、腰元の刀を抜き放った。


「わかりやすいなドラゴン」

「な――」

「気の流れが素直だ」


 オレの研ぎ澄まされた一閃すらも、ゴキブリの手のひらで流された。

 なぜだ?


「だから逆に捕まるんだ」


 オレの居合抜きはミスリルすらも斬れるんだぞ……?


“また手で弾きやがったw”

“重ねがけの【絶刀】すらも!?”

“何がどうなって……”

“マジで何が起こってるんだよ”

“あのゴキブリがドラゴンを圧倒してる”


「歯を食いしばれ」


 ゴキブリが拳を引き絞る。

 だがどうってことない。

 あいつの拳は響かない。


「効かねェよバァァカ。【鉄固】!!」


 ドゴォォン!!


「かはっ……!」


 致死量の衝撃がオレを襲った。

 弾け飛んだオレは部屋の壁に激突し、口から大量の血を吐いて膝をつく。


“!?”

“!?”

“!?”


 何が起こったのかわからなかった。

 まるで体の中から殴られたような衝撃だった。


 オレの【鉄固】が、効かない?


「はぁぁ……?」


 真っ赤に濡れた手が小刻みに震える。

 オレは生まれて初めて死の恐怖というものを味わった。

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