二度追放されたダンジョン配信者、『修練と時の部屋』スキルでレベルを上げ、配信ざまぁでバズってしまう ~一瞬で急成長したように見えるけど別時空で1000年努力してます~
第47話 同接1000万人のざまぁが配信された件 ⑥
第47話 同接1000万人のざまぁが配信された件 ⑥
オレの体が震える。
唇から垂れ落ちる血が、ぽつりぽつりと床に波紋を作る。
“ドラゴンがぶっ飛んだ!?”
“なんか大砲みたいな音がしましたけど?”
“めちゃくちゃ効いてるよねアレ”
“今のドラゴンって鉄の硬さなんだよな?”
“ゴキブリが急に覚醒した”
駄目だ。
少しでも動こうとすると体が悲鳴をあげるみたいに痛い。
……痛い?
待ってくれよ。
なんだこの痛み。
内臓が焼ける。
痛ェ痛ェ痛ェ……!!
オレはうずくまる。
うずくまっても、耐えられない痛みが襲ってくる。
「あー……。鉄くらいの硬さじゃ加減が難しいな……」
ゴキブリが拳を眺めながらぽつりと言った。
“まるで鉄が柔らかいみたいな言い方ですねぇ”
“あれで手加減してんのかよ……”
“さすがにハッタリだろ”
“マジで何が起こってるのかわからん”
マジで何なんだよ、あいつのスキル。
正体がわからない。
なんでオレの【鉄固】を貫通するんだ。
「違うんだ、ドラゴン。拳は力じゃないんだよ」
ゴキブリがひたりひたりと近寄ってくる。
「拳は技術なんだ。要は力の伝え方なんだよ」
オレはそれどころじゃない。
この場から動くことができない。
立つなんて以てのほかだ。
体の中がズタズタに痛ェよ畜生……!!
「俺はそれに気づくのに人の一生を何度も費やした。人間死ぬ気でやれば、拳でミスリルを砕けるんだ。だって、世界にはこんなにも気が溢れてる」
“教祖様みたいなこと言い出したw”
“ゴキブリ教、どこで入会できますか?”
“こどおじ仙人:気、それはスキルの源”
“こどおじのすごい人来た!!”
“どういうことだってばよ!?”
“こどおじ仙人:神々がダンジョンを産み落としたときから、この世界にはまったく新しいエネルギーが導入された。ゴキブリくんはもしかしたらそのことを言っているのかもしれない”
“何者なんだってばよ、こどおじ仙人……”
「見下ろされる奴の気持ちがわかったか、ドラゴン」
オレの視界に、安物の靴が映った。
思わず見上げる。
至近距離に、ゴキブリがいた。
「来るな……来るな来るな……!」
ゴキブリがオレを見下ろしていた。
「お前は恵まれてる。才能がある。だから、こんなところで腐るな。やり直せ、人生を」
なんだこれ、なんだこれ。
なんでオレが、ゴキブリに跪いてるみたいになっちまってるんだ。
これは現実に起こっていることなのか?
「どうしてオレが……ゴキブリなんかに……! オレが負けるはずがねェ……! これは何かの間違いだ……オレは夢を見てるんだ……!」
「わかるよ。現実は冷たくて強大だよな。歯ァ食いしばれ」
「――ッ!!」
ヤバイ。またあれが来る。
「【鉄固】【鉄固】【鉄固】ォォ!」
ゴキブリの拳が届く前に、オレは何度も何度も【鉄固】を発動させる。オレの腹に、何枚もの分厚い鉄の鎧を纏っていくイメージ。巨大なオーガの一撃ですら、さすがにこれは貫けないはずだ。
「かはっ――!?」
オレの体がくの字に折れ曲がる。
衝撃が、オレの体内で暴発する。
あれだけ重ねがけしたしたのに、苦るしさのあまり呼吸ができない。
「無駄だ。俺の拳は内側から爆発する。ミスリルすら砕く」
何を、言っているんだ。
ミスリルを、砕く?
もしそれが本当なら、【鉄固】なんて無意味だ。
「その名も、ゴキブリ拳法一の型〝
しかもゴキブリは、嘘を言っているようには見えない。
“ふぁーwww”
“こいつ必殺技に名前つけるタイプww”
“ゴキブリ拳法は草”
“ネーミングセンス皆無”
“型はいくつまであるんですかねぇ”
異様に盛り上がるコメント欄をよそに、崩壊したパーティールームには、居た堪れないほどの静けさが漂っていた。
「子供のおいたは許す主義だ」
「あ?」
こいつは、何を言ってやがる?
「俺に詫びろ、ドラゴン」
“!?”
“!?”
“!?”
「お前の負けだ」
ゴキブリが上から言葉を振りかけてくる。
オレは四つ這いになって激痛に悶えながら、あいつの安物の靴を睨みつけることしかできない。
なんて屈辱だ。
恥の上塗りで、体が燃え上がりそうだった。
「オレは負けない。お前なんかに負けない。最強のオレが、底辺のお前なんかに負けてたまるかァァァ!!」
喉の奥から声を搾り出し、ゴキブリに視線を飛ばす。
〈【夏の竜胆】があなたからユニークスキル【絶刀】を剥奪しました〉
〈【夏の竜胆】があなたのフォローを解除しました〉
そのアナウンスが、オレを一瞬で凍りつかせた。
「――は、え?」
神様?
フォローを解除しました。
それは、どういう意味ですか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ神様!!」
血の気が引く。
オレの積み上げてきたものが、音を立てて瓦解していくのを感じる。オレのプライドも地位も名誉も。すべてが根本から崩壊していく。
“???”
“どしたドラゴン”
“悔しさのあまりついに狂ったか?”
〈【異貌の門人】があなたからユニークスキル【転移】を剥奪しました〉
〈【異貌の門人】があなたのフォローを解除しました〉
「……は? ……神様?」
待って。待ってください。待って。
〈【冒涜なる愁雨】があなたからユニークスキル【ヘイスト】を剥奪しました〉
〈【冒涜なる愁雨】があなたのフォローを解除しました〉
駄目だ。今は駄目だ。今だけは駄目だ!
〈【鉄の大陸】があなたからユニークスキル【鉄固】を剥奪しました〉
〈【鉄の大陸】があなたのフォローを解除しました〉
「神様ァ! 神様神様ァ!」
待ってくれよ。
どうしてこんなことに。
「神様ごめんなさい!! 許してください!! オレを見捨てないで!!」
何でもするから!! 土下座するから!!
「お願いしますよ神様ぁぁぁ!!」
オレの目からみっともなく涙があふれる。
数秒毎にオレのチャンネル登録者が減っていく。
神様がものすごい勢いでオレを捨てていく。
「ドラゴン。俺、本当はお前のことずっと凄いって思ってたんだ。同世代にこんな凄いやつがいるんだって、世界は広いなって思った。俺はずっとお前に憧れてた。そんなお前とタイマン張れてることが、今はめちゃくちゃ誇らしい」
「……は?」
もうまともに考えられない。
魂が抜けるって、こういうことを言うのかもしれない。
「ドラゴン、俺と出会ってくれてありがとう。俺の最強の壁であり続けてくれてありがとう」
ゴキブリなんかに出会わなければよかった。
そうすればこんな目なんかに――
「お前のおかげで俺は、自分の人生に誇りを持てる」
ゴキブリの靴が一歩、オレに近づいてきた。
「俺の人生はまったくもって幸せだ。本当に感謝してる」
ゴキブリがしゃがみ込んで、オレの肩に優しく手を乗せた。
「だがこれだけは言わせてくれ、ドラゴン」
「……へぁ?」
オレは呆然とゴキブリの顔を見上げた。
「ざ ま あ み ろ」
“草”
“大草原不可避”
“草枯れた”
“サイコパス度はゴキブリの圧勝”
“ド至近距離ざまぁキターw”
“ドラゴンざまあ”
“ざまあ”
“ざまぁwwww”
“ざ ま あ”
“親父もざまぁwwww”
“堂本家終了のお知らせ”
“(´・∀・`)ヘッザマァ”
“ねえドラゴンどんな気持ち? 自分が舐めてた奴にボコられてどんな気持ち?”
“ざまあ”
“ザマァ”
“✌︎(´^ω^`)✌︎”
“ドラゴンの登録解除した”
“1000万人のざまあみろ”
“ざまぁ”
“GM:ざ ま あ み ろ”
ああ――
あいつはずっと、こんな気分だったんだな。
まるでこれは、地獄だ。
「ゴキブリ拳法一の型――」
ま、待て。待ってくれ。
まだ終わってないのか。
もういい。
オレの負けでいい。
もう二度とお前の目の前に現れない。
オレが悪かったよ。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
許してくれ、ゴキブリ。
じゃないとまたあの拳が――
「てっこ! てっこ! てっこぉぉぉおおお!」
スキルが発動しない。
まずい、生身で受け――
「〝黒拳〟」
拳が腹の真ん中に突き刺さり、オレの尊厳の砕ける音がした。
「兄者……!」
ボクの目から涙があふれる。
夢かと思う。
兄者が帰ってきた。
諦めの悪い兄者が。
ボクの大好きな兄者が。
「そういや、まだこのライブ配信のタイトル言ってなかったな」
兄者、兄者、兄者!
「お前ら待たせた。本当に長い間待たせた」
兄者がゆっくりと拳を突き上げる。
「『底辺が天辺に勝ってみた』」
“うおおおおおおお!”
“カッケェェェ!!”
“ゴキブリィィ!!”
“やったぞ、やってやったぞ!”
“本当に長い間待たせやがって……”
爆発は、鳴り止まない。
「最後までご視聴いただきありがとうございました」
兄者が妖精カメラに向かって深々と頭を下げた。
“ゴキブリが格好よく見える”
“眼科行こうかな。俺にも格好よく見える”
“お前ら目が腐ってやがる。あ、俺もか”
“どうして素直に喜んでやらないんだ?”
“お? 初見か? まあゆっくりしていけよ”
“威勢のいい新参は歓迎するぜ。ここはゴキブリチャンネル。底辺のあいつが俺たちに泣きつきながら舐めてる奴らを見返していくチャンネルだ”
“チャンネル登録のやり方はわかるか? 伝説を見逃すなよ”
涙は、止まりどころを知らない。
ボクは未だ、夢かと思う。
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