第42話 同接1000万人のざまぁが配信された件 ①


“なんだあの光?”

“ゴキブリ今ユニークスキルって言った?”

“あいつユニーク保持者だっけ”

“聞いたことないな”

“でもあのオーラ、間違いなく神の寵愛だよな”

“解析班頼む”


 もうこの際、ユニークスキルなど些末なものだ。

 私はもうすでに、大切なものを手にしている。


“こどおじ仙人:光の門……興味深いな”

“お? 何か知ってる?”

“こどおじ仙人:いや、未知のスキルだ。神々の文献にも載ってなかったような気がする。すまない君たち、ちょっと研究室に行ってくる”

“ふぁ!?”

“何者だよこどおじ仙人……”

“とりあえず切り抜き動画を各掲示板に貼り付けといた”

“手伝うぜ。攻略板、考察板、スキル板、他には?”


「おいゴキブリ……」


 目を血走らせたドラゴンが私を睨みつけてきた。

 ああ……ひさしぶりの人間だ。

 ようやくあの孤独から抜け出せたのだな、と私は安堵する。


「お前がここに来るなんてちょうどいい。むしゃくしゃしてたんだ、お前も殺して刑務所にぶち込まれてやるよ。もうオレを縛るものはねェんだ……」


 ドラゴンが指の骨を鳴らし、凄惨な笑みを浮かべた。

 どんな感情であれ、人から反応を向けられるのが心地よい。


「神田……あいつを捕まえてカメムシの横に並べろ」

「だとよ、ゴキブリ」


 神田が赤い絨毯を踏みしめ、ひたりひたりと近づいてくる。


「…………」


 私は神田の殺気を真正面から受けた。


「兄者、何してるでござるか。早く逃げるでござる!」


 地べたで叫ぶ亀田を私は無視する。


「見ろよ、ドラゴン。あいつ、足が震えてるぞ」

「その足、へし折っちまえよ」


 神田とドラゴンは二人して頬を吊り上げた。

 不思議な感覚だ。

 これが武者震いというやつなのだろうか。

 神田が距離を詰めてくるが、恐怖など微塵も感じなかった。


「お前がどんなスキルを使おうが、俺には絶対に勝てねえよゴキブリ」


 目と鼻と先に近づいた神田が、私の肩を掴みかかってきた。

 だが――


「あ?」

「……」


 私は神田の伸ばした手を【受け流し】た。


「お前何しやが――」


 神田が何かを言い終える前に。

 私の拳が、神田の鼻頭を潰した。


“ふぁ!?”

“ふぁ!?”

“ふぁ!?”


 弾け飛んだ神田がテーブルと激突し、木造の足組を根本から粉砕させる。


「……!!」


 神田は今しがた起こったことに目を白黒させ、鼻血を拭うことすら忘れて呆然とする。


“何が起こった?”

“神田が弾け飛んだぞ”

“ゴキブリがやったのか?”

“拳が見えなかった”

“あのスキル、バフか何かか?”


 途端にコメント欄が荒れ狂う。

 そうだった。

 この世はダンジョン配信時代。

 視聴者が私を心待ちにしている。

 であれば私も童心に立ち返り、

 エンタメに振り切るとしよう。




「すー…………」




 俺は胸いっぱいに息を吸い、体を折り曲げて吠え猛った。




「どうもゴキげんようクソ野郎共!!!!!」




 荒々しく飛び交う妖精カメラ。




「ゴキブリチャンネル、ライブ配信開始しまァァす!!!!」




“wwwww”

“キタキタキタ~!!”

“ルイボスティー吹いた”

“ゴキブリチャンネル復活ぅぅぅ!”

“待ってたぞゴキブリィ!”

“うおおおおおおおおお!”

“ゴキブリ、引退やめるってよ”

“王の帰還”

“開始30秒で同接10万人!!”

“最高にイカれてるわ”

“攻略掲示板から来ました”

“カメムシチャンネルから来ました”

“オススメから来ました”

“V I P か ら き ま す た”

“いろんなとこから来すぎw”

“(((((((((((っ・ω・)っ ブーン”

“盛 り 上 が っ て き ま し た”

“同接62万www”

“復活早々伝説で草”

“今年一番のチャンネル”

“まだ夏は終わらない”

“行くぞお前らああああ!”

“GM:ありがとうゴキブリ、ありがとう”

“まさかもう一度このセリフを言うことになるとはな。


こ れ は 祭 の 予 感”



 壊れたテーブルに転がる神田を、俺はただただ無言で見下ろした。


 立てよ、神田。夏の続きをしよう。



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