第29話 一方その頃ドラゴンがサイコパスな件 ②


「……オレだ」


 この流れでは仕方がない。オレはスマホを耳に当てた。


『ドラゴン、達成したぞ10万人』

「ああ、見た」

『条件はクリアした。俺の勝ちだ』

「……ああ、おめでとう」


 オレは低くそう言った。


“お?”

“認めた?”

“さすがに自分が出した条件だからな”

“悔しいのう悔しいのうw”


「まさかあの条件をクリアするとはな。オレも男だ。二言はねェよ」

『パーティーに戻ってもいいんだな?』


 ふー……。

 オレは長い息を吐き、湿った岩の壁を見つめた。


「どうする?」


 オレは聞いた。


『何が?』

「オレからパーティー申請出すか? それともお前が加入希望出すか?」

『じゃあ、ドラゴンから送ってくれ』

「わかった」


 オレはうなずき、洞窟の壁を見続けた。


〈御部桐斗にパーティー申請を送りました〉

〈神々の後見のもと御部桐斗がパーティー『竜のアギト』に加入しました〉


 即座にゴキブリが返してくる。


“うおおおおお!”

“これが本当の和解”

“神企画だったわ”

“マジでプラスしかない”

“ドラゴンは策略家だったな”


 コメント欄が今日一番の盛り上がりを見せる。

 その多くは、オレとゴキブリの両者を讃える声だった。


『ありがとう。改めて、よろしく」

「ああ。またな、ゴキブリ」


 ピ。

 オレは耳からスマホを離し、ぶらんと腕を落とした。


“やけにあっさりだったな”

“何はともあれ、パーティー騒動はこれで一件落着か”

“結果的に世間の注目を集めることに成功したって感じだな”

“問題は、肝心の神様をどれくらい集客できたか、だが……”


 この一連の騒動で、視聴者だけでなく、神様の登録も増えた。

 収穫は大きい。

 オレは一月前よりも確実に強くなっている。


「皆さん、本企画にお付き合いいただきましてありがとうございました」


 オレはカメラに向かって頭を下げる。


“おう”

“楽しかったぞ”


「つきましては、ゴキブリのパーティー再加入を祝いまして、特別プレゼント企画を行おうと思います。抽選でなんと、100名の方に10万円を贈呈します。総額は1000万円。参加条件は至って簡単」


“急に特別企画はじまたw”

“切り替え早いな”

“10万は大盤振る舞い”

“条件はよ!”

“金くれ金。増税で苦しいんだ”


 オレは視聴者の食いつきを眺め、人差し指を一本立てた。


「条件一つ目は……現時点ですでにゴキブリチャンネルに登録している人。これが必須条件です。今から登録しても遅いです。残念でした」


“なんだよ、登録してねえわ”

“参加条件達成済みワクワク”

“金くれ金!”

“うるせえ、あくしろ。二つ目の条件は?”


 二本指を立てる。


「条件二つ目は、登録日のスクショをオレに送ること」


“あね、あとから登録した人の不正防止ね”

“おk”

“把握”


 三本指。


「条件三つ目は、ゴキブリチャンネルの登録を解除して、そのスクショをオレに送ること」


“ふぁ!?”

“どういうことだってばよ?”

“そんなことしたらゴキブリチャンネルの登録者激減するぞ?”

“母さん、これがサイコパスですか?”


「夏休みは今日で終わり……だが9月1日まであと1時間ある。その1時間でゴキブリの登録者が10万人を下回ればオレの勝ちってことだ。そうだろ?」


 オレの両頬がゆったりと持ち上げられる。


“コイツ正気かww”

“出たw悪い顔ww”

“これが日本の生んだクズですww”

“なにがなんでもゴキブリ再加入を認めたくない件”

“スクショ送ったわ”

“当たれ当たれ!!”

“10万もらったら新しいパソコン買うんだ”


「ゴキブリ成長企画、第二の試練。『ゴキブリ、二度追放してみた』」


“二度追放wwサイコパスww”

“おれァ人間の狂気を垣間見たぜ……”

“めちゃくちゃ登録者減ってるw”

“なにこれ、一気に1000人消し飛んだ”

“ドラゴン砲、3分で1000人”

“お前ら解除しすぎww”

“さーて、これでどう転ぶかわからなくなった”

“めちゃくちゃ面白くなってきたなw”

“ドラゴンにもゴキブリにも目が離せない”

“ゴキブリがいると100倍輝くドラゴン、好き”


「お前ら、人の心が壊れる音を聞きたくねェか?」


“うはww”

“殺人鬼みてえな顔してるww”

“この俺が寒気……? これが狂気……?”

“((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル”

“ここが夏のホラー配信ですか?”


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