第26話 お前らに助けを乞うてみた件
俺は新たな枠でライブ配信を開始した。
『お前ら助けて。妹と喧嘩した』
座布団に正座である。
“GM:まずは状況を整理しよう。姫花ちゃんの言い分は、ゴキブリが犠牲になってほしくないってことだ。ここまではOK?”
「ああ。OKだ」
流れ的にGMさんが仕切ってくれるらしい。
とても助かる。
“GM:でだ、ゴキブリはなんで竜のアギトに戻りたいんだ?”
「一番稼げるからだ」
“これが金に目がくらんだ男の末路だよ”
“金より大事なもんがあるだろ”
コメント欄が俺をディスってくる。
「金は大事だろッ!」
“うるせえなww”
“急に吠えんなよw”
“金以外に理由はないのかよ”
「そりゃ、成績トップの実績があると就活に有利とか」
“うーん、弱いな”
“そんなんじゃ姫花ちゃんは納得しないぞ”
でも、一番現実的な動機だ。
しかも、嘘は言っていない。
「あとは、モテそう、とか?」
“もっと納得しねえよww”
“なにこいつ、真剣に考える気あんの?”
“新参か、いらっしゃい。これがコイツの平常運転さ”
“GM:ときどき抜けてるからそっとしてやってくれ”
なんだよこいつら。
一体俺の何を知ってるっていうんだ?
フォローありがとうございます、いつも助かっています。
妹のこともよろしくお願いします。
「お前らの言いたいことがなんとなくわかってきた。要は妹の受け入れられるポジティブな理由で復帰すればいいってことだろ」
“そう”
“そういうこと”
“わかってんじゃんアホ”
ならば――
「今まで恥ずかしくて誰にも言わなかったがな」
“おう”
“どうした”
“急展開”
俺は一瞬口ごもる。
だが意を決して、言うことにした。
「実は俺……きらぽよのこと密かに好きだった」
“ちょwおまww”
“なに言ってんのコイツww”
“顔赤くするなww”
“バカ、ゴキブリ。お前が恋い焦がれるのはわかるが、相手はカーストのてっぺんだぞ。俺たちには決して届かないんだよ、あの光にはよ”
“配信タイトル『ド陰キャ、ド陽キャに恋をする』”
“現実見ろって。きらぽよはギャルはギャルでもオタクに厳しいギャルだぞ”
皆まで言うな。
このコメント欄の加速具合、見なくてもわかる。
うん、お前らの言いたいことはわかるよ。
俺には届かない花だって言うんだろ。
「でも、これなら妹も納得するだろ。好きな人に近づきたいって気持ち」
“する……のか?”
“うーんどうだろ”
「俺気がつけばさ、きらぽよの載ってる雑誌を見てる。毎日毎日、コンビニで」
“買えww”
“立ち読みすんなw”
「雑誌に出るようなあんな可愛い子がさ、竜のアギトに入ってから、たまに休み時間に話しかけてくるんだ。どうだ、羨ましいだろ?」
“聞いてねえよw”
“自惚れんなド陰キャ”
“転んで骨折しろ”
“コメント辛辣”
“それは確かに好きになるかもな”
“まあ恋ってことなら応援してくれるか?”
“いやさすがに無理あるだろ”
「そうなのか……?」
妹は女子中学生だ。
女子中学生は頭の中の大部分が恋愛で占められていると聞いたことがあるのだが……。
まあ確かに姫花の場合は、ダンスのほうが占めていそうだ。友達が遊んだり恋したりしている間に、あいつは夢を追いかけて突き進んでいるんだもんな。
“恋はちょっと弱いかな”
“近づくためにいじめられるのは共感できん”
“もっとこう……応援できる前向きな理由がほしいな”
「前向きねえ」
“ストーリーを作ればいいでござるよ”
“ござる?”
“カメムシみたいなやつが来たw”
「ストーリーって?」
俺は姿勢を正して、妖精に相対する。
“この企画のそもそもの趣旨を思い出すでござる”
“趣旨ぃ?”
“GM:ゴキブリ成長企画だろ”
“さようでござる。であれば、『このままパーティーから逃げるのは楽だ。でも、いま逃げると将来きっと後悔する。いま逃げたらこれからの人生もダメダメになると思う。だから必死に抗ってドラゴンに勝ちたい。ドラゴンに勝つことで、こんな自分でも高い壁を突破できるんだって証明したい』。そういったストーリーを作るでござる”
“なるほど”
弱者の奮起。強者への挑戦。
俺がドラゴンに勝ち、俺が俺に勝つストーリー。
成長企画の予想を越える人間成長物語。
そんな夢みたいなこと、俺に可能か?
“これなら金儲けや就活なんて打算的な理由じゃなくなるな”
“弱者が強者に打ち勝つストーリーか”
“確かにこれなら、感情的にも社会的にも受け入れられるな”
“自分のための挑戦ってことだな。恋よりはいいぞ!”
可能かどうかじゃない。
「お前ら……」
やるんだ。
俺には、こんなに応援してくれる人がいる。
俺はこの人たちに応えたい。
“逃げたくない。勝ちたい。だから挑戦する。これを妹に伝えてこい”
「うん。ありがとう。頼ってよかったわマジで」
俺は姫花の部屋に向かう。
話すことは何も考えていない。
ただ、いま視聴者さんの言葉を聞いて、俺がどう感じたかを率直に話そうと思う。
もしかしたら言葉にならないかもしれない。
どもってうまく伝わらないかもしれない。
だけど、俺の気持ちを伝える。
俺はずっと勝利したかったんだ。
負けないことを選び続けた俺が、ようやくみんなのおかげで、勝ちたいと思ってるんだ。
それが俺の、闘う理由だ。
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