第21話 目が激しく痛い件
8月30日、午前11時。
渋谷区にある道玄坂は探索者でごった返していた。
まるでアイドルのライブ前みたいだった。
「ここが噂のダンジョンか。目立ちたがり屋が多いな」
道玄坂のビルとビルの間にある目立たぬ裏路地に、暗黒のオーラをまとった〝ダンジョンゲート〟がぐるぐると渦を巻いていた。
暗黒のゲートの上に浮かんでいるのは、『10‐10』という文字だ。
これはダンジョンの寿命を意味する。
10年10ヶ月経てばこのダンジョンゲートが決壊し、ダンジョン内のモンスターが地上に溢れて暴走する〝スタンピード〟が――まあ今はいいや。妖精に向かって話しかけたところで誰も耳を傾けていない。
俺は思考を切り替えて、視聴者さんから現状を教えてもらう。
“配信者がこぞって突撃してるが全員返り討ちにあってる”
“キモすぎてみんな1分も滞在できてないww”
“配信動画見てきたが、ありゃ無理だわ。一生のトラウマ。だってよ、ズボンの中を数百匹のゴキブリが這い上がってくるんだぜ?”
“ぎょえええええ!”
ヤバすぎだろ。
むり、帰る。
“女性配信者が一人、病院に運ばれたってよ”
“服の中から出るわ出るわGの群れ”
“やめて!”
“神様認定ではEランクなのかよ”
そのコメントが示すように、ダンジョンゲートの『10‐10』とは別に、『E』というアルファベットが堂々と浮かんでいた。
“Sランクよりも攻略が困難なEランクダンジョンww”
“極悪すぎんだろ……”
“止まるんじゃねぇぞ……”
“おいゴキブリまずいぞ、火ノ浦兄弟が防護服着て潜るってよ”
「誰だよそいつ。巨乳か?」
“男だよww”
“兄弟って言ってんだろアホw”
“火ノ浦兄弟って、火属性のスキル使うやつだろ”
“なるほど、ゴキブリを燃やし尽くす作戦か……”
“まずいぞゴキブリ、先越されちまう!”
「実はお前らに黙ってたことがある」
俺は神妙な面持ちで声を発した。
“!?”
“!?”
“!?”
「今朝、大企業から案件のメールが届いた」
“なんだと!?”
“また金儲けの話か”
“今は案件なんかどうでもいいだろ”
「たぶん俺のあだ名がゴキブリだからオファーが来たと思うんだが……紹介してほしいと提示された商品がな、最強のゴキブリ殺虫剤『ゴキバーストプロ』なんだ。ほら、0.1秒で殺せるって宣伝文句のやつ」
“!?”
“!?”
“!?”
「たぶん俺……このダンジョン行けると思うんだ」
俺は【収納】スキルで詰め詰めにしたバッグを置く。
バッグを開くとそこには大量のスプレー缶が積まれていた。
“持参済みww”
“宣伝して稼ぐ気満々かよww”
“ゴキブリというユーザーネームの配信者に、ゴキブリを殺す商品を送りつけるとか、この企業どういう神経してるんだよ。いいぞもっとやれ!”
「じゃあちょっと行ってくる」
ユニークスキル解放――
【修練と時の部屋】
俺はあっという間に眩い光に包まれた。
“!?”
“!?”
“なんだこの光”
“まさかスキル、なのかコレ?”
“でもこんなスキル見たことねえぞ”
“なんだ!? なにが起こってやがる!?”
「ただいま。帰ってきたぞ」
なんだかんだ半年ぶりだな。
卵さん、サービスポイントありがとうございまァァす!
“帰ってきた? 何言ってるんだこいつ?”
“意味不明すぎて草”
“ゴキブリ、なんかヤバい薬でも始めた?”
「ではまず、この大量のゴキブリスプレーを全身に噴きかけます」
俺は何のためらいもなく頭頂部にスプレーを噴きかけた。
“ちょww”
“おまww”
“制汗スプレーじゃねぇんだぞw”
“俺たちは一体何を見せつけられてるんだ”
“ゴキブリがゴキブリスプレーを浴びる姿”
”中毒とか大丈夫か?”
“いろんな意味で自殺配信だわ”
“おいおい何だこりゃ”
“ちーっす初見でーす”
“同接5万!?”
“嘘だろ? このチャンネル、ドラゴンのチャンネルじゃねえのに!”
“ついに俺たちのゴキブリもここまでデカくなったか……”
“俺たちのゴキブリが遠い存在に……”
“おいおい……道玄坂に集まった配信者たちが、ゴキブリスプレーを浴び続ける御部を盗撮しまくってる。クソやべえ男がいるとか何とかって”
“把握”
“それで視聴者が流れてきてんのか!”
“拡散拡散。お前らポストよろ~”
“同時接続10万……!!”
「9缶目ェ……!! 目が痛ェ……!!」
“何缶浴びる気だよwww”
“髪の毛びしょびしょだぞwww”
“完全に目がやられてる件”
“とうとうスプレー両手持ちw”
「これはァ正しい使い方ではありませェェん! よい子のみんな真似しないでくださァァい! 正しい使用方法はァ概要欄に記載しておきまァァす!」
“ちゃんと企業に配慮してる件ww”
“意地でも金をもらう気だぞコイツw”
“手遅れだぞゴキブリww企業から訴えられてもおかしくないww”
“なにこれ引くんだけど……”
“なんだ新参か? まあ茶でも飲んでゆっくりしてけよ( ^^) _旦~~”
「13缶目ェェ……!!」
“誰かアイツを止めろww”
“あらやだ、水も滴るいい男”
“滴ってるのは殺虫液だがな”
“警察が来たが御部に近づけないw”
“警察官むせてるww”
「17缶目ェェ……!! 呼吸ができねェェ……!!」
“当たり前だw”
“誰か止めて警察官のライフはゼロよ!”
“なんで御部は平気なんだよw”
“空き缶の数が異常ww”
“企業「違うそうじゃない……」”
“同時接続30万人”
“キタキタキタ~!!”
“コメント早すぎィ!”
“なんだこれ、なんだこれ”
“まさかゴキブリチャンネルで祭が生まれるとはな”
“視聴者の熱量は充分だゴキブリ”
“さあお前は何をやってのけるんだ。見せてくれ、お前の伝説を”
「うおおおおおおおお!」
“走り出したww”
“ゴキブリダンジョン突撃ww”
ダンジョンゲートを抜けるとそこにじめじめした迷宮が広がっていた。
なるほど、このダンジョンは床も壁も黒色なのか、変わってるな。
“うげええ! この黒い絨毯、全部ゴキブリか?”
“きもすぎるぅぅ!”
“同接12万人”
“めちゃくちゃ減ってるんだがww”
“おい待てよこれって……”
“ゴキブリがゴキブリを避けていく?”
“マジかよ”
“ゴキバーストプロの効果だ!! これ全部ゴキバーストプロの効果だよ!!”
“Sugeeeeeeee!!”
“ゴキバーストプロ買います”
“俺もポチったわ”
“ゴキブリの周りだけゴキブリがいない”
“御部を中心に円状の空白地帯ができてるぞ。まるでこれは……御部のために作られたステージみたいだ。ヤバい、目が離せないんだが”
「……お前ら、億の再生回数を取るには音楽系がいいって言ったよな?」
“言ったがまさか……”
“おまえ歌うのか?w”
「まあ見てろ」
〈【鳥籠の卵】があなたの行動に前のめりで興奮しています〉
「別時空で練習してきました! これよりライブ配信を始めます!」
〈【鳥籠の卵】があなたの行動に跳びはねています〉
「『ゴキブリダンジョンでゴキブリダンス踊ってみた』」
“コイツやりやがったww”
“まさかのダンスかよww”
“観客は数百万のゴキブリですねわかります”
“ゴキブリ、ダンス踊るってよ”
“これはマジで伝説だわ”
“This is Japan !!”
“俺は真っ昼間から一体何を見てるんだ?”
〈【全裸聖母】があなたの神楽に期待しています〉
〈【全裸聖母】があなたに30KPを送りました〉
「ミュージック――スタート!」
俺はぱちんと指を鳴らした。
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とち狂ったプロットをここまで読んでいただきありがとうございます。
テンプレを書こうとしたらとんでもない狂気が出来上がってしまったよ。
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