第19話 初めてバズった件
俺は視聴者さんが提案する企画を次々と撮影していった。
Dチューブには鉄板のネタがいくつかあるらしい。
その一つが『1000℃に熱した鉄球』シリーズだ。
名前の通り1000℃に熱した真っ赤な鉄球を様々な物質の上に置いたらどうなるか? という誰もが興味を引くような実験を検証する動画になっている。
有名どころは、氷の上に置いたらどうなるか、ガラスの上に置いたらどうなるか、こんにゃくの上に置いたらどうなるか、などがある。
バリエーションが豊富であるため、後追い動画が途切れることなく投稿されている。
そのアイデアに俺も乗っかることにした。
『1000℃に熱した鉄球をアイスゴーレムに置いてみた』
『1000℃に熱した鉄球を毒の沼に置いてみた』
『1000℃に熱した鉄球を爆弾岩に置いてみた』
まずはこの3本。
そしてその変法として、
『1000℃に熱した鉄球をファイアスネークに呑ませてみた』
『1000℃に熱した鉄球をゴブリンに渡してみた』
これらの動画をDチューブにアップロードした。
これらの動画は面白がってくれる層が一定数いて、俺のチャンネル登録者数にいい影響をもたらしてくれた。徐々にではあるが、毎時間毎時間、登録者数が伸びていっている。スマホを見ているとニヤニヤが止まらない。
気がつけば数分おきにアカウントを見に行ってしまう。
通知はうるさいのですでに切った。
これほどの数を同時多発的に投稿できるのは、まさに視聴者さんの力だ。
10人ほど、動画編集に名乗りをあげてくれた。
配信動画をいい感じにカットしてくれて、おまけにテロップや効果音をつけて、完成したら俺のメールアドレスに送ってくれることになっている。
毎日投稿というレベルじゃない。
毎時間投稿だ。
俺には編集技術がないから、感謝しかない。
そしてもう一つのDチューブ鉄板ネタが『メントスコーラ』である。
コーラにメントスを入れると噴火する例のアレだ。
たいてい一度は、誰もがその動画を見たことがあるんじゃないだろうか?
人気Dチューバーの『ひかるしゃちょー』もやってたし。
そして俺の視聴者さんの中には優秀なアイデアマンがいて、ある企画が大ヒットすることになる。
その名も『メントススライム』だ。
群馬県にある『高崎ダンジョン』には半固半液の軟体モンスター――スライムが頻出する。しかもここに出現するスライムはただのスライムじゃない。消化した物体の性質を吸収する〝モノスライム〟という特別個体だ。
俺の視聴者さんは言った。
〝モノスライムにコーラを吸収させて、まずは世にも奇妙なコーラスライムを作るんだ。そんでコーラスライムにメントスを食わしてみたらどうなるか見てみたい。きっと知りたがってる視聴者は多いと思うんだよ、俺含めて〟
天才かよ。
俺もその実験には興味津々だった。
そして、結論から言うとコーラスライムは爆発した。
一撃で倒せた。
俺がバズることになったのはこの次の動画だ。
モノスライムの上位種であるモノスライムキング。
モノスライムを何十倍も大きくしたCランクモンスターだ。
なんとメントスコーラは、モノスライムキングすらも一撃で倒せた。
そのことが大きな反響を生んだ。
モノスライムキングは倒すのに結構骨が折れるのだが、気軽に一撃で倒せる討伐方法が発見されて、攻略掲示板から世界中へ拡散されていった。
まずは【索敵】スキルでモノスライムの巣を発見する。
20体ほどのスライムを一箇所に寄せ集めて、それぞれの個体に刺激を与えて興奮させる。刺激を与えるのは、香辛料の粉末が適していた。俺は七味唐辛子を使った。
そうするとモノスライムの群れが合体してモノスライムキングになる。
あとはモノスライムキングに2リットルのコーラを3つ吸わせ、丸々と大きく育ったコーラスライムキングに変質させる。それからメントスを10個ほど輪ゴムで縛って束を作り、コーラスライムキング目掛けてぶん投げればいい。
スライムの体内にメントスが吸収された瞬間、コーラスライムキングはどっかんどっかん爆ぜる。スライムの死体は10分も経てば光の粒子となり、その場にCランクの魔石が取り残され、5000~15000円ほどのお小遣いを稼ぐことができる。
運がよければ時給1万円だ。
儲け話の力はすごい。
俺の『メントススライム』の動画は、このインフレ大増税時代の救世主として、金に困っている貧困層にめちゃくちゃ再生された。
5時間で10万回越え。
100万回再生はもはや時間の問題だ。
トゥイッターでは『メントススライム』がトレンド入りしている。
匿名掲示板によると、俺の動画がきっかけで、高崎市に向かう交通道路が軒並み渋滞しているらしい。新幹線も各出発時間がまさかの満員で、一般客がぶち切れているショート動画が流れてくる。関連動画でさらに俺の動画が拡散されていく好循環に入った。あとは放っておけばいい、と視聴者さんが言っていた。
俺は新しい企画を視聴者さんに任せて今日は眠りにつく。
8月30日、午前8時。
俺は意気揚々とDチューブのアカウントを開き、チャンネル登録者の数がどれだけ増えたか確認することにした。
「どれどれ……?」
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