第4話 同接1000万人のいじめが配信された件 ④



 入院生活も1週間が過ぎた。

 幸いにも、両肩と両股関節が脱臼しただけで済んだ。


 この1週間は激動の1週間だった。

 SNS、ネットニュース、掲示板サイト、どれを取ってもお祭り騒ぎ。

 ミスリルゴーレムを一刀両断にしたドラゴンの名は世界中に広まり、例の配信がバズりにバズって登録者がとうとう100万人を突破した。


 たったの1週間で2倍。


 かわいい忍者がいる! ってことでなぜか亀田も海外で大バズリして、登録者はドラゴンを超えて120万人達成。トゥイッターのトレンドに、『ニンニン、でござるよ?』がランクインしてしまう始末だ。


 他のメンバーも軒並み登録者を伸ばし、過去動画の再生数も底上げされた。


 陰の功労者である俺はというと、登録者は100人台のままだった。

 パーティーでの動画撮影が俺だけ禁止されているし、そのせいで過去動画もほとんどないため、アカウントが活動していないと判断されたらしく、登録者は全然増えていなかった。


 それでも、50人増えて160人にはなっている。


 Dチューブ活動をしていないのに、160人なんて物好きもいるもんだ。


 つい気になって椿山遥妃のチャンネルを覗いたが、チャンネル登録者は620万人だった。さすがは歌って踊れて探索もできるアイドルダンジョン配信者……人気の凄まじさが別格すぎる。同じ人間とは思えない。


 登録者の内訳は公表されておらず本人にしか比率はわからないが、おそらく620万のうち1000柱くらいは神様のフォロワーがいるんじゃないかと思う。一体そのうち何柱が椿山にユニークスキルを授けているのだろうか。


 ユニークスキルは唯一無二でチート級。

 ドラゴンの【絶刀】がいい例だ。

 一つでも授かれば、世界が一変する。


「邪魔するぜ、ゴキブリィ……」


 突然、病室の扉が開け放たれた。

 ポケットに手を突っ込んだドラゴンを先頭にして、〝竜のアギト〟のメンバーがずらずらと入ってくる。

 彼らの重々しい表情から、なんだか嫌な予感がした。


「なんだよ、揃いも揃って」


 俺は警戒心を隠さず聞いた。


「カメムシ、お前の口から伝えてやれ。同じ中学なんだろ?」

「拙者、でござるかぁ? 困りましたなぁ」


 亀田は心底困ったように、ぽりぽりと頬を掻いた。


「少々心苦しいですが、パーティーの方針を伝えるでござる」


 やがて亀田は俺に向き直り、真剣な眼差しを向けてきた。


「桐斗殿、貴殿にはこのパーティーから脱退してもらうでござるよ」

「は?」


 頭の中が真っ白になった。

 裏切者の口から発せられた言葉が、さっぱり理解できない。


 脱退。

 脱退?


 俺はこのパーティーにしがみつくために、他のやつには耐えられないような辱めを幾度となく耐え忍んできたんだぞ。なのに、脱退だと?


「ちょっと待ってくれ。このパーティーをサポートしてきたのは誰だ? 俺だ馬鹿野郎。罠を調べて、荷物を運んで、料理を作って、快適にダンジョン探索ができたのも、俺のサポートがあってこそだろ。それに、俺の他に誰がドラゴンの台車を押すんだよ。サポートスキルなしで、どうやって安全ルートを最短距離で進むんだ。見た目以上に注意を払う繊細な仕事なんだぞ」


 台車を押して敵の懐に潜り込むのは、そんなに簡単なことじゃない。


「桐斗殿。これはね、決定事項なのでござるよ。残念なことにね」

「けってい……じこう……?」


 ふざけるな。俺の意思はどうなる?


「拙者たちの動画がトレンド入りしてるのは把握してるでござるね?」

「ああ。お前たちだけバズって、登録者も増えてさぞ嬉しいだろうな」

「その様子だと知らないでござるな」

「何がだ?」

バズりもしたし・・・・・・・炎上もしたでござる・・・・・・・・・

「は? 炎上?」


 亀田が神妙にうなずいた。

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