第9話 謝罪動画が炎上した件


 ♠ ◆ ドラゴン視点 ♣ ♥



「なんだこの低評価の数は……」


 謝罪動画を投稿した翌朝、オレはタブレットを見て驚愕した。

 低評価70万件。高評価率2%。誹謗中傷の嵐。


「ありえねェ……。ありえねェ……!」


 オレは一体何のために丸坊主にしたんだ!?

 寝起きだっていうのに、一気に青ざめて呼吸もままならない。


「何がいけなかったんだ……。ちゃんと謝っただろ……?」


 オレはあまりの恐ろしさに指が震えていたが、吸い込まれるようにコメント欄をスクロールしていった。何がダメだったのかその理由を知りたかった。


“和解なんて嘘乙。邪魔になったから切り捨てただけだろ”

“ゴキブリの手切れ金は何円でしたか?w”

“これがDチューバーの闇”

“ドラゴンの親は学園の理事長、きらぽよの親は警視監、神田の親は国会議員。コイツら権力振りかざして弱いものいじめしてただけ”

“頭にコーヒーぶっかけて、最低”

“芸風芸風って言ってるけど、さすがに限度があるだろ”


「コーヒーはオレじゃねェ! 神田だろボケちゃんと配信見ろ!」


“家族の悪口も胸糞悪かったけど、危うくゴキブリを殺しかけて、ごめんなさいで済む話じゃないよね。本当に死んでたらどうしてたの?”

“殺人未遂は立派な犯罪ですよ?”

“ゴキブリのサポートなしでは達成できなかった偉業ww”


「何もわかってねェくせにぎゃあぎゃあ吠えてんじゃねェよ雑魚が!!」


 オレは部屋のゴミ箱を蹴飛ばす。

 ちり紙が散乱するがそれに構わずもう一度蹴飛ばす。


「バカ視聴者共が! 謝罪動画も上げてるし、ゴキブリも和解動画上げてんだろうが! どうしてこんなにアンチが沸いてんだよクソが!!」


 手に持っているタブレットを壁に投げようとしたところで、オレの視界に意味不明な数字の羅列がよぎり、振りかぶった腕をぴたりと止めた。


「待てよ……」


 オレはタブレットに穴があくほど目を凝らした。


「なんだこの再生数。一、十、百、千、万……」


 9076229 回視聴 の文字。


「マジかよ900万再生――はァ!? チャンネル登録200万人!?」


 待て待て待て。

 謝罪動画を上げるまでは登録者は110万人だったはず。

 たった一夜にして、90万人も増えたのか?

 慌ててマイページに行って過去動画を確認してみると、揃いも揃って200%ほど再生数が伸びていた。

 天変地異級の爆伸びだった。

 ネットニュースではオレの記事ばかり。世界中で『ドラゴン』の名がトレンド入りしている。Dチューブのオススメ動画にも取り上げられているらしい。


「おいおい炎上って……」


 頬にたらりと冷汗を垂らし、オレは引きつった笑みを浮かべた。


「こんなに美味しいのか?」


〈【煉獄の炎神】があなたの思考に共感しています〉

〈【深淵を覗く女神】があなたの今後に期待しています〉

〈【深淵を覗く女神】があなたに10KPカミポイントを送りました〉

〈【片翼の不死王】があなたの反応に微笑んでいます〉

〈【片翼の不死王】があなたに10KPカミポイントを送りました〉


「嘘だろ。神様のフォローもこんなに増えてやがる」


 ハハ、ハハハ。


「なァんだ。もっとゴキブリを燃やせばいいのか」


 部屋の鏡に写ったオレは、とんでもなく邪悪な顔をしていた。

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