第8話 俺には金を稼ぐ理由がある件
紙袋を両手に持って、姉貴が病室に入ってきた。
入院の荷物を全部持って帰るためだ。
「悪いな姉貴。仕事終わりなのに、迎えに来てもらって」
ドラゴンたちは、姉貴が来る5分前くらいには病室を出ていった。
「桐斗、配信見たよ。ゴーレム斬ってみたってやつ」
「……ああ」
まあ、そうだよな。
そりゃ、あれだけ話題になれば目か耳に入るだろう。
「桐斗えらいよ。あんなに馬鹿にされて、視聴者からも笑われて、それでも我慢してきたんだから。生活費を稼いでくれるために、我慢してくれてたんでしょ。ずっと一人で。よく頑張ったね」
よく、頑張ったね。
俺は、頑張ったのだろうか?
「お前は自慢の弟だ。姉ちゃんは誇らしいよ」
「…………」
俺は姉の言葉にうつむく。
むしろ、頑張って来なかった結果がこれだ。凡人は努力しても無駄だから、俺は自分で稼ぐことはせず、パーティーに寄生する道を選んだのだ。
そのほうがコスパがいいから。
そしてそれは、正解だったと今でも思っている。
結果的にめちゃくちゃ稼げた。
俺は同じ人生を何度ループしても、同じ金の稼ぎ方をするだろう。
努力なんて無駄だ。
〈【鳥籠の卵】があなたの行動を静観しています〉
だからアンタは、俺にあんなスキルをくれたのか?
努力を無駄だと思ってる人間に努力をさせるとどうなるか見たいから。
〈【鳥籠の卵】があなたの行動を静観しています〉
まったく、何を考えているかわからない神様だ。
「それと、今まで気づいてあげられなくてごめん」
姉貴が苦しげに謝ってきた。
「それは俺が隠してたから」
家族にだけは見られたくなかった、というのが本音だ。
こんなお金の稼ぎ方をしてるなんて知られたくなかった。
「あんなの言えるわけないじゃん。隠したくなるの、わかるよ」
「俺、あのパーティー抜けるよ」
俺は言った。どこか遠くで、ナースコールが鳴った。
「それがいいよ。うん、絶対」
「だからこれから稼ぎが減ると思う。授業料の免除もなくなるし、出費も増えると思う。俺の貯金も取り崩していかないといけない」
「うん、いいよ。姉ちゃんがそのぶん稼ぐから」
姉貴、本当にごめん。また負担かけちゃうな。
「このあとも仕事?」
タクシーから降りて、家の玄関に入ったことろで、俺は姉貴に尋ねた。
「準備したらすぐ出るよ」
大変だろうな、といつも思う。
姉貴は日中は看護師として病院で働いている。夜勤のない日は、こうして夜のバイトに出ることも多い。いわゆる水商売ってやつだ。姉貴は、お客さんに対して複数のキャストで接客するラウンジ嬢なのだ。
「お兄ちゃんお帰り! ケガ大丈夫?」
廊下の奥から、ドタドタと妹の
中学2年生だ。
「大丈夫。もう元通りだ」
「よかったぁ」
俺が両肩を回して見せると、姫花は大げさに安堵した。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんのパーティーって竜のアギトぉ? だっけ?」
どくん、と心臓が跳ねた。
まさか姫花の口から、その話題が出ると思ってなかった。
「……それがどうした?」
不意打ちすぎて、姉貴も廊下の奥で固まっている。
「すごいんだってね。Sランクのモンスター倒したってクラスのみんなが言ってたよ」
「動画……見たのか?」
「えー、見てないよ。だってお兄ちゃんがグロいシーンもあるから絶対見るなって言ってたじゃん。パーティーメンバーだってことも秘密にしろって」
「そうか。ちゃんと約束守ってるんだな」
「うんっ!」
姫化が素直にうなずいている。
俺はこの笑顔を守っていくと決めたんだ。
「それはそうとダンスのほうは順調か?」
「毎日レッスン頑張ってるよ!」
ダンスはダンスでも、姫花が習っているのは普通のダンスではない。
ダンジョンスキルを駆使したスキルダンスだ。
姫花は2年前、アイドル事務所にスカウトされ、練習生として歌とダンスのレッスンを開始した。15歳になるまでは神の法でダンジョンに潜れないし、スキルも獲得できないので、今のところはスキルなしでの基礎練習を行っている。
高校生になったら、本格的にスキルダンスの練習が始まる予定だ。
そのためにも、莫大な金がいる。
スキル獲得費用だ。
スキルはダンジョン内でしか習得ができないため、安全対策で熟練の探索者を雇うことになっている。
その費用が1回10万円かかる予定だ。年間でいうと数百万円。
もともとこの費用は事務所持ちだったらしいが、ダンジョンスキルを安全に獲得するためだけに事務所に所属する練習生が横行したため、業界全般として自己負担が通例となった。それでも補助はしてくれているし、ムーブ系のスキルがメインだから、幅広くスキルを習得できる
俺の学校なんて学費だけで600万円もするからな。
みんな毎月50万円ほど奨学金を借りているのが現状だ。
レッスン費に関しては月額50万円かかるらしいが、これは事務所持ちなのでデビューしたあと返済する形になるらしい。デビューできなかった場合は、レッスン費を支払わなくてもいい契約だ。
「わたしも
姫花の憧れのアイドルは、椿山遥妃。
いつか横に並べる日が来ると俺は信じている。
*
それから俺はドラゴンの指示通り和解動画を撮った。
ドラゴンも本当に頭を丸刈りにして謝罪動画を上げていた。
しかし翌日、ドラゴンの謝罪動画がまたしても炎上した。
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