第3話
【領主邸にて】
「ふふふふふ、ついに来たってばよ……! 俺の求めていた平和な日々が!」
お引越しからはや数日。俺は平和な日々を満喫していた。
「はぁ~。十二歳の時に徴兵されてから八年間、戦い続きだったからなぁ~……」
当時、我らが『ヴァイス帝国』は周囲の国全部と戦争していた(馬鹿かな?)。
もう完全に末期のナチス状態である。
それで兵力が足りなくなって、そこらへんの村のガキだった俺まで駆り出されたわけだ。
そっから八年間……。
死ぬような思いの中で魔術の才に覚醒して、そこらじゅうの戦場に引っ張り出されたよ。
……三万の兵で三十万の敵兵と戦うことになった『黒翼山戦争』は地獄だった。
「勝っても勝っても、休む暇とかなかったよなぁ……」
なんせ敵は山ほどいるからね。『生存おめでとう! じゃ、次の戦場へッ!』って感じでライン作業のごとく激戦地を転々とした。
――そんな苦労の日々だったけど、二か月前についに全ての戦争が終結。
あれこれ後始末をしたのち、功績を称えて俺は男爵になったわけだな。
「ふぅ。敵国のすぐ近くに領地もらった時はマジで泣きそうだったけど、なんだかんだで平和だなぁ~」
窓を開けて領地を見渡してみる。
すると、衣食住を整えてやった貧民たちが、元気にあれこれ仕事していた。
「おう、その調子で領地を発展させてくれよみんな。俺に幸せな領主生活を提供するために……ッ!」
ふっふっふ。苦労ばかりだった俺の人生も、いよいよ報われてきたなぁ。
このまま平和に暮らしていきたい――と、そんなことを考えていた時だ。不意に扉がノックされた。
「(むむっ!?)――何用だ」
『ハッ! 偉大なる空に輝く黒翼山の星にして隊長閣下!』
そのバカみたいな挨拶はいいから!!!!!!
「要件を言え」
『ハッ、実はアルヴァトロス閣下にお客様が……!』
おーん客だとー?
そりゃいったい誰だ――と問いかける前に、「わらわが来たぞー!」と扉が勝手に開けられた。ってうおい!?
「よぉアルヴァトロスよ。久しいのぉ~」
「……トゥルーデか」
入ってきたのは、いかにも魔女っぽい恰好をしたロリだった。
こいつの名はトゥルーデ・トット・トート。
大商会『トゥル屋』のボスで、昔から軍部御用達の兵站商を務めている女だ。
俺とはその関係で知り合った。
「くくく、相変わらずイイ男よのぉおぬし。匂い立つとはこのことよ」
「ふむ……(そうか?)」
俺、この世界の美的感覚があんまりわからないんだよなぁ。
だってみんな西洋人だもん。元日本人の俺からすりゃ、みんなイイ顔してる感じだよ。
まぁ中にはゲリラ焼肉のニーナちゃんや、ついでに目の前のトゥルーデみたいなとびきり美少女もいたりするけどよ。俺はそこまでじゃないだろう。
「ふひ、相変わらず口数が少ないのぉ。若いんじゃからきゃぴきゃぴせんか!」
「む……(きゃぴきゃぴて……!)」
こんな物言いをする彼女は、見た目通りの年齢ではない。
曰く【保存術式】の使い手で、細胞の劣化を極限まで遅らせているそうだ。
それで二百歳超えてもこんな見た目なんだとさ。
「俺に漫談の期待はするな(コミュ障だから)。それでトゥルーデよ、こんな僻地に何用で来た?」
「うむ。実は、おぬしがジャンジャック・フォン・シュレヒト辺境伯と揉めたと聞いてのぉ」
っておぉう。その件知ってるのか。
「……耳が早いな。あの辺境伯が吹聴したのか?」
「いーや。むしろシュレヒト辺境伯は頑なに口を閉ざしておるよ。なにせ、民衆から大人気の『英雄アルヴァトロス』にケチョンケチョンにされたとあっては、情けない悪役として吟遊詩人に謳われてしまうこと請け合いじゃろ」
え、俺そんなに人気なのか?
そりゃぁ戦場では活躍してたからそこそこ慕われてたけど、一般民衆からの人気度合いはあんま把握してないんだよな。
なにせずっと戦場暮らしだったし。
「ならばトゥルーデ、なぜお前は知っている」
「ふひひ。物資の流れは人の流れ、人の流れは情報の流れということでな。百年以上も商会のボスをやっとると、各所に耳が出来上がるのよ」
こっっっわ……! なんだよその情報収集能力。こりゃエッチな本とか買えませんわ……絶対バレちゃう……!
「ほいでじゃな。おぬし、辺境伯とトラブったとなれば、辺境領から物資を仕入れるのは気まずいじゃろう? そこで優しい美少女のわらわが、物資を直接引き渡しに来たというわけよ!」
お~なるほど。それで来てくれたわけねトゥルーデさん!
「新鮮食品から医薬品までどっちゃり持ってきたぞ~! わらわの【保存術式】を掛けてきたから、状態も最高じゃわい! ほ~れ褒めろ褒めろ~!」
「ああ、心からトゥルーデに感謝する。お前のような素晴らしい友を得られたことは、俺の人生の誇りだよ」
「むがっ!?」
んん? 言われた通り感謝したら、なんかすっげー変な声出したぞ?
「どうした」
「なっ、なんでもないわいっ! まま、まさかそこまで過剰に持て
「正当な評価だ。お前に出会えて本当に良かった」
「んあぁあぁあ~ッ……!?」
おい顔を押さえてどうした。
「どこか具合が悪いのか?」
「うぅっ、うっさいわボケ英雄が! 相変わらず愚直な奴め……っ」
褒めたのになぜかボケ扱いされてしまった。解せぬ。
「はぁ……まぁそんなおぬしじゃから、こんな事態になったんじゃろうなぁ。察しているだろうが、伝えておくぞ」
表情を改め、トゥルーデは続けてこう言ってきた。
「おぬし――王族から死んでほしいと思われとるぞ」
はっ?????
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【今回の登場人物】
トゥルーデちゃん:おしゃれで可愛いロリ魔女年増。アルヴァトロスくんのことが××。アルヴァトロスくんにトンデモニュースを持ってきた。
「まぁ察しているだろうが……」
アルヴァトロスくん:はああああああああ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!!!!!!!!!!!!!!!!?!!?!?!?!?!?!?(寝耳に大洪水)(なんも察してなかった馬鹿)
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