第16話
「誘拐だなんて、よくわかりましたね」
廊下を歩く片桐は前を歩く牛木に向けていった。
牛木も、まさか誘拐事件に遭遇するとは思っていなかった。
「凜さんは隣の部屋にいた子供の声を聞いていた。また、凜さんは窓から子供の姿をしっかりと見ていた」
「でも、隣のアパートの様子ですよ。窓はどっちも同じ向きだし、どうやって窓から見たというんですか」
片桐が不思議に思うのも当然だ。アパートの窓は全部西向きに備え付けられてある。
そこで、牛木はこう推理した。
「普通であれば、隣の部屋の様子を凜さんの部屋から見ることは不可能だ。しかし、それが実際に見えていた。方法は反射だ。ほら、向かいに建てられていた宝石店があるだろう。その店の窓際には沢山の光物が飾られてあったはずだ。その宝石店がキーとなる。そして、凜さんの隣の部屋では誘拐犯が子供に暴行し、その度にカーテンが揺れ動いていた。凜さんはその一部始終を、宝石店の光物の反射現象によって見ていた」
牛木はふう、と吐息をつく。
「宝石店の光物が誘拐犯の一部始終を反射させていたということですか?」
片桐は少し納得してきたようだ。
「ああ、実際に俺も見た。カーテンが揺れ動いているところまではわかった。だが、実際に子供の姿までは見えなかった」
「それじゃあ、どうして行動に移せたんですか」
「イチかバチか、凜さんの証言に賭けてみた、とでもいっておこうか」
そのまま二人は書類を両手で抱えて、廊下を歩いていた。
凜の証言のおかげで幼女誘拐の別事件は終止符が打たれた。
担当刑事らは牛木を大層褒めた。
牛木の手柄もあるが、正直凜が話してくれなかったら事件は解決していなかっただろう。
「ちょっと、牛木、海生精神病院から電話だ。相手は千葉というようだが」
突き当りの部屋にいた部長が、廊下を歩いている牛木に向けて大声で伝えた。
「あ、はい」牛木は大きく返事をして、持っていた書類を片桐に渡す。
「おおっと」と片桐は少しよろめいて、走っていく牛木の後ろ姿を呆けた顔で見送る。
廊下をダッシュして牛木は部長から受話器を受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます