第14話

 二人は午後九時に鍵を持って、例のアパートへ向かった。氷結道路を走る時はスリップ等の事故に気を付けなければならなくて運転が怖くなる。そして、雪が降る見通しの悪い中車を走らせていく。

車を降りた二人はしっかりと防寒着を着用している。アパートは、こじんまりしているがなかなかに綺麗な外観だ。しかし、駐車場が狭かった。隣には大きく目立ったジュエリーショップが建てられていた。とても年季の入っているような店だ。ジュエリーショップはガラス張りで、中の宝石や鏡が所狭しに置かれているのがわかる。ただ、宝石を扱う店なだけあって、窓ガラスは相当頑丈そうだ。

「ここら辺の人達はこの宝石店を目印にして生活してそうですね」

 確かにそうだと牛木は思った。それ程、目立っていた。

 ジュエリーショップ周辺を舞う雪は心なしか反射して光っているように見える。

 そんなことに魅了されていてはならない。外は寒い。ジャンパーを羽織って長靴と手袋をしているだけマシだが、マスクは蒸れるし、耳の皮膚が切り裂かれそうな程寒くて痛かった。

「さあ、中に入って捜査するぞ」牛木はアパートの中へ入ろうと早歩きになる。

「霊でも居たらどうします?」牛木がアパートのドアに手を掛ける直前に、半笑いで片桐は訊いた。

「たまったもんじゃない。霊なんて信じてたまるか」

 牛木の手がひるむ。いつもの捜査とはなんだか違うような気がしてならなかった。このアパートを前にしてから謎の違和感がして、どことなく、本当に子供の霊が居る気がした。それは死霊かもしれないし生霊かもしれない。

部屋のドアを引く時に牛木が放った言葉は「慎重に」だった。

「何を、誰も居やしませんよ。さっさと凜さんの妄想癖を明らかにさせて帰りましょう」

 片桐は長靴を脱ぎ捨てて、牛木を抜いて先に部屋の中へ入っていった。

 牛木は部屋の中に足を踏み入れる前に、自分で自分に活を入れた。

 隙間風が入ってくるが、外よりは寒くはないが冷気は残っている。それよりも、牛木はその冷気が不気味でならなかった。

 部屋は七畳のワンルーム。玄関から入って直ぐ奥に壁一面の窓がある。カーテンはつけられていなく、隣のジュエリーショップが堂々と映っている。

「凜さん、カーテンつけない派なんですね」

凜は敢えて、カーテンをつけなかったのだろう。牛木は憶測を立てる。

「きっと、この宝石店の中を眺めていたかったんだろう」

「はあ……」片桐は特に興味なさそうだ。

敷布団は右の壁にぴったりと沿って敷かれている。寝返りを打てば直ぐに壁にぶつかる。この距離だと隣の声が聞こえてもおかしくはない。そして、左に洗面所へ続く道があった。

「さて、子供の声は聞こえるのでしょうか」

「賭けてみるしかない」そういった牛木だが正直帰りたいと思っていた。しかし、捜査の一環と割り切って、アパートにとどまることにした。

 床はとても冷えていた。

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