第13話

 辺りはもう既に暗い。街灯が照らす喫茶店で二人はコーヒーを頼んだ。

「何かを思いだしたくなかった」

 喫茶店の中で牛木はホットコーヒーを一口啜って呟く。

「何か、とは?」片桐が問いかける。

「その、何かがわからない」牛木はため息を漏らす。

「そもそも、凜さんの証言、信じれますか?」

「信じるもなにも、まず、嘘をついている確証はあるのか?」

 うなだれる牛木は目線だけを片桐に向ける。

「それはないですが……」

 片桐は都合が悪そうにコーヒーを啜った。

「あの調子だと、また話を聞きにいっても泣かれてしまうだろうなぁ」

 牛木は両腕をテーブルに置く。

「それじゃあ、どうやって、捜査を続けるんですか?」

「それが、一つだけ、道があるんだ」牛木は首の関節を鳴らしながらゆっくりと呟いた。

「その一つ、とは?」

「凜さんの証言が嘘、又は被害妄想か、事実かを調べることが出来る。凜さんはアパートで子供の声が聞こえて、窓から子供の姿が見えたといっていた。俺たちはそのアパートへ行く。それが、実際聞こえたり、見えたりしたら凜さんの証言は正しいこととなる。反対に何もなかった場合、凜さんの証言は、被害妄想にすぎなかったと決定することが出来るだろう」

「だから、あの時凜さんにアパートへいっていいか確認していたんですね」

「ああ、念のため、そこは抑えておいた」

「刑事の見極めた質問ってところですか?凄いですね、先輩」

 片桐は感心して軽く拍手をする。

「そんなことないよ」

 牛木は一旦席を外して、外に出て、電話を鳴らした。相手は伸江だ。

 アパートの鍵を貸してほしいとの相談だ。

 伸江は三コールで電話に出てくれてすんなりと話が進んだ。

 明日の昼に、警察署に鍵を持っていくと伸江がいい、電話は終わった。

 電話をジャンパーのポケットに仕舞い、代わりに、反対のポケットから煙草とライターを取りだす。悴んだ空気の中吸う煙草。煙を目で追っていると、雪が降ってきた。それは遅めの初雪だった。

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