第11話
十一月二十九日、午後三時。
インターホンの音は少し鈍っているようだ。
二宮家のインターホンを鳴らして十秒程待った。すると、ドタドタと重い足取りが玄関から向かってくるのが聞こえてきた。ドアを開けたのは誠一だ。
「おや、刑事さんじゃないですか」
「お伺いしたいことがございまして、少しだけお時間よろしいでしょうか」
「ええ、いいですよ。どうぞ中へ入ってください」
牛木らは立ったまま話をした。
「今日、伸江さんはいらっしゃらないのですか」
「はい、今日は山にいってカブを掘りに出かけていきました。ほら、雪が積もる前に掘ってしまわないと、カブ掘れなくなっちゃうでしょ」
「そうなんですね。私共は農業については詳しくないので、それは知らなかったです」
定年退職したら農業でも始めるのもアリだと思っていたから、その手の話に牛木は少し興味があった。
「後、ダイコンも雪が積もると掘れなくなっちゃうんですよね。あ、でも刑事さんの聞きたいことはカブやダイコンの話ではないでしょう。本題は何ですか」
「すみません。脱線するところでした。さて、誠一さんは毎日決められた量の薬を飲んでいますか」
「飲んでる……と、いいたいところですが、飲んでいない薬もありますねぇ……」
「それでは、少しだけ、余っている薬を見せていただけないでしょうか」
「わかりました」と頷いてから、ソファーの真横にあった茶色い棚の一番下を開けて、ガサゴソと薬を取り出す誠一。
「これになりますが」処方箋の袋がたくさん入った籠が出てきた。
「片桐、探せ」牛木は片桐に籠を渡す。
籠を手に取り、処方箋袋の中を覗いて、沢山残っている薬を探す片桐。
「先輩、これではないでしょうか」
「どれどれ」
その袋の中には同じ薬が五十錠程あった。牛木は小さく書かれた薬名をじっと見つめてそのまま読み上げた。
「誠一さんが飲んでいない薬は……エバミールという薬ですね?」
「そんな名前だったかなぁ。でも飲んでいないのはそれです」
「何故飲まなかったのですか?」
「飲んだら気持ち悪くなっちゃうからです。でも本当に気分がすぐれない時はたまに飲むときもありますねぇ……あ、でもちょっと思い出してきました。事件の日の夜、凜が眠れないといいながら起きてきたんです。それで私はその飲んでいない薬を渡したような気がします」
「エバミールですか?昨日、鹿野医師のもとへ行き、薬と副作用について色々と伺ってきました。確かに。睡眠を促す薬だと聞きましたが、副作用として……」
牛木はド忘れしてしまった。それを補助する片桐。
「先輩、副作用は頭が重くて眠れない、不快感に脱力感が現れることがある。ですよ」
「そうだったなぁ。誠一さんは副作用について知っていましたか」
「それは知らなかったです。へぇ、睡眠薬でも眠れないことがあるんですね。だから私には合わなかったのかなぁ」
「それに加えて、凜さんの証言として飲み忘れた薬が一錠部屋の中にあるといっていましたが、その件について、少し凜さんの部屋へ入ってもよろしいですか」
「構いませんよ。凜の部屋はこの向かいの座敷になります」
牛木らは凜の部屋へ入り、白手袋をはめて物色を始めていく。
十五分もしないで薬は見つかった。やはり、凜のいっていた通り、ベッドの下に直径三ミリ程の小さな薬が転がっていた。
「誠一さん、ちょっといいですか」牛木は屈んだまま誠一に声をかけた。
「なんでしょう」襖にもたれかかる誠一。
「探していたものが見つかりました。この薬です。署までもっていって、何の薬か調べてみてもよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ持って行ってください」
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