第8話

 車の中に戻った二人は、暫く煙草を加えて考え込んだ。

 片桐は納得のいかない表情で、息を吐いて話し出した。

「やっぱり、アレ、絶対に幻聴ですって、先輩……それか」

「なんだ?」

「凜さんの証言は妄想とかなんだか、嘘くさいんだよなぁ……いや、疑いすぎかな」

「いや、刑事は疑うことも仕事の一つだ。全て鵜呑みにして疑わない刑事は仕事を放棄しているといっても過言ではないからな」

「そうですよね。やっぱり先輩も思っていました?」

 片桐は自分の憶測があっていたかもしれないと興奮気味に答える。

「さっき、血液型は性格に紐づくとぼやいただろう。それも、内心、被害妄想の症状かもしれないと思ったよ。血液型は約四種類しかない。だが、性格は柔和な人、楽観的な人、自由奔放な人、身勝手な人、臆病な人、自己中心的な人……そう四種類という血液の型では納まりきらない程、数えきれない様々な性格が、この世には存在しているはずだからな」

「やっぱり紐づくことはないと思いますよね」

 少し考えて牛木は軽く首を振った。

「いいや、凜さんは特別な思考を持っているのだと思う。恐らく視野を狭くして生きてきたのだろうと思う。だから、家族の中で性格の構成を立てたのだろう。それに加えて、凜さんは友達が少なかったのだろうと予測するよ」

「はあ、先輩ってやっぱり鋭いところ突きますね」

「幾つもの捜査を経験しているからな。片桐もいつかは感じ取れる時が来る」

 牛木はそういって、車に備え付けられている灰皿に煙草の火を押しつぶして捨てた。

 先輩よりも長く煙を吸うわけにはいかないと片桐は思い、タイミングを合わせようと急いで灰皿に煙草を捨てた。

「それじゃあ、行きます?凜さんには過去に居た友達等についても訊ねてみませんか」

「そうするとしよう。はい、聞取り再開ー」

 休憩時間は終わりだ。ドアを開け外に出る牛木。外はもう初雪が観測されそうだ。

 青森は雪が降る前が一番寒いと牛木は思っている。皆、雪が降る前までは油断して薄着をするし、長靴も履かない。雪が降ってからは、皆厚着をするし長靴も履くし、マフラーと手袋もつける。家では暖房を消すことは殆どないに等しい。それに、外に積もるただただ白い雪山は、光を反射して微かな太陽のぬくもりも感じられるから。と牛木は身震いしながら想像して、ジャンパーのポケットに手を突っ込み、再び病院の中へと入っていった。

「お待たせ致しました。凜さん、また話の続きをしてもいいかな」

 再び緊張し始めたのか凜は「う、うん」とたどたどしい頷きを見せる。

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