第3話

「ダメだ、痕跡が一つも見つからない」

 屋上で煙草を加え、ため息を漏らす牛木。

「まあー、あの夜は雨が酷かったですからね、でも洪水や土砂災害に至らなかっただけ幸いですよ」

 横に並ぶ片桐はこの前の豪雨を思い出しながら答える。

「いや、人が一人死んだじゃないか。幸いどころじゃない」

「でもそれって、自然災害とは関係ないことじゃないですか」

 確かに片桐のいうことに間違いはない。雨が降っても降らなくても事件は起きていただろう。 

「まあ、そうだが。しかし、雨がなければ手掛かりがつかめたかもしれないのに、参ったもんだ」

「仕方がないですよ。だって、天気の気分ですもの」

「そりゃあ、逆らおうにも逆らえんな」

 そういって、牛木はポケットから小型携帯灰皿を取り出して、タバコの火を消した。

「直接聞きはしなかったんですけど、部長はどう捜査を進めようとしているんですか?」

 ふと思い出し、片桐は訊く。

「それがなぁ、上も手が進んでいないらしい。この件に関しては殆どが頭を抱えている状態だ」

二本目の煙草を取り出しながら牛木は答える。ここ数日、警官の気分はずっと晴れないままだ。

「事件解決まで長引くのもなんだか気分が悪いです」

「そうだろう。だから、俺は単独捜査をしようかと思っている」

「二宮家にですか?」

「そうだ、部長には既に許可を取っておいたんだ」

 牛木が部長から捜査の許可を得るのはなんら難しいことではなかった。捜査中の事件はあったものの、牛木はその事件の担当刑事ではない。それに、部長は牛木を有能刑事として見定めていた。それ程、牛木は常に真面目ということだ。 

「それなら僕も行きます」

 片桐の台詞は正直、本気なのか冗談なのか、イマイチよくわからない。

「一緒にいくなら、本気で捜査に取り掛かってもらうぞ」

 目を細めて並ぶ片桐に視線を向けていう。

「わかってますよ、先輩」

 半笑いで答えた片桐だが、いつもよりかは慎重で真面目な心意気であった。

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