第36話 アーカイブ:【フェニックス】大苦戦。あまりにもキモすぎる『ダンジョンスパイダー』をどうしてもテイムしたい男の四時間にも渡る激闘【切り抜き】

モン●ンやってて投稿遅れました。一旦許してください















「本当、貴方って」


「ん?」


「悪魔みたい、ね」


 項垂れるらいちくんの方を見たまま、横にいるマミレちゃんが呟いた。


「悪魔っつーのは常に、人を誘惑するものさ。現代人に必要なコンテンツなんだよ、フェニックスチャンネルは」


「……『限度』は、分かってるみたいだから、良いけど」


「……」


 呆れたように言う、頭部の蛇。


 仮面の奥の彼女の顔が、なんとなく予想できた。


 ────────多分、俺を舐めているんだろう。


 怒った母親に『もうご飯作らないから』とか『そんな事言うなら出ていって』だの言われても、子供は本気にしない。幼児くらいの年齢であれば効果はあるんだろうけど、そういう言葉を言われ慣れてしまった子供は、『どうせ脅してるだけ』と分かりながらも惰性で否定の意を表明する。


 だからきっとマミレちゃんは……俺が『人として越えてはならないライン』を越えないだろうと決めつけて安心しているんだ。


「はは、どうだか……」


 そう────この子はどうせ、俺が魔人達を殺さないだろうと思っている。












 バエルの殺害。または存在の抹消、あるいは恒久的な封印。


 今回の配信のメインの目的はコレだ。


『────あ、あの』


『ん、どした?』


 出発前。配信用の衣装を着てくるよう指示した時、マミレちゃんは俺にこう言った。


『魔人の、皆は……どう、するの?』


 今の立場的に、マミレちゃんは魔人を裏切った、もしくは人質に取られているという形になる。俺には今の暮らしの方が幸せだと感じているように見えるけど、本当の所はあの子しか知らない。


 だが、あの子の心が俺かバエル達か、どちらに傾いていようと……バエル達の心配をするのは当然の事。


 育ての親と、実質的な兄弟達なのだから。


『どうって……あぁ、そういう事。向こうの目的次第だけど、別に悪いようにはしないよ。テイムしてもマミレちゃんみたいなガキがもう一人増えるんでしょ?流石に手に負えないし……別にどうもしないかな』


『……そ、そう』


 嘘ではない。


 実際、バエル以外の魔人達はどうでもいい。フェンリルにメドゥーサ……ネームバリューのあるユニークモンスターの力を得ていても『あの程度』なら高が知れている。


 ……バエルは違う。


『ユニークモンスター、【天雷王バエル】……その名を、手に入れた人間が、私達を使って─────モンスター達による、地上への侵攻を、企んでいる』


 マミレちゃんの言う通り、奴の目的が『地上への侵攻』だと言うのなら。


 絶対に防がなければいけない。


 バエルによって引き起こされる『俺にとって一番面白くない展開』だけは、絶対に。


『作戦としては簡単。70階に人を集めまくるだけ』


『……何の、効果があるの?』


 出発前、マミレちゃんに偉そうに作戦がどうのこうのとか語ったけど、俺の鳥頭から生まれる計略なんざやるだけ無駄だ。


 ────だが、俺は『モンスターの思考回路』を知っている。


『そこには混乱が生まれる。俺という獲物が混乱の中にいるんだ。バエルは多分、それに乗じてくる』


『……そう、上手く行くとは、思えない。だって、バエルは────』


『知恵を与える悪魔として有名……賢い奴だってのは分かってる。でもな、そういう問題じゃないんだ』


 本能と言っても良い。


 モンスターなら、ソレに突き動かされ……獲物を追う。


『バエルの移動手段は、転移。だからきっと、私達の状況なんか、気にしないで、急に転移してくると、思う』


『だったら尚更好都合だ。72階か70階、もしくはその移動途中に転移してくるんだろ?なら、不意打ちはされるかもしれないけど『直接闘う』って事だ』


『……』


『負けるはずがない。……負けるはずがないんだよ』


 仮にマミレちゃんがバエルに有利になるような嘘を俺に吐いていたとしても、だ。





「さて……じゃ、やりますか、らいちくんを」


「え……ほんとに、戦うの」


「そうに決まってるでしょうが」


 マミレちゃんには子の配信が『バエルをおびき寄せるための作戦』みたいに伝わってるみたいだったが、俺は普通にらいちくんとかいう奴が少し嫌いだからボコれる機会を捨てるはずがないのだ。


 ちょっとダンジョン攻略が速いだけなのに調子乗ってる野郎をぶちのめす。後で子の配信を切り抜いて『ボス部屋入ったらなんかボス増えてるドッキリしたらヤバ過ぎた』みたいな感じで動画化するつもりだし、せっかくなら一回くらいあのムカつく顔を殴っときたい。


「よしっ、ブラッドデーモン君!やっておしまいなさい」


「────!」


 隷従の杖でテイム済みの怪物を見上げる。快く頷いたブラッドデーモンは槍を手に一歩を踏み出した。


「……ヒヨッコスちゃん」


「私は、無駄な戦いとか、したくないんだけど」


「いや……」


 天井から顔の方向をマミレちゃんへと変え、俺は片耳を塞ぎながらウィンクをした。


────────『見えた』んだ。


「……」


 事前に伝えておいた『合図』を理解したマミレちゃんは無言でスマホのカメラとマイクをオフにし、前方へと駆ける。


「壊して良い」


「……本当に?」


「金ならある、後で弁償すりゃ良いだろ」


 マミレちゃんが移動した先は、らいちくん……の横を飛んでいる、魔導ドローン。


「あれ……?冷静に考えてみると俺って何も悪い事してなくない?なのになんでこんな」


「ほっ」


「え?」


 ドローンに直撃するマミレちゃんの膝蹴り。


 内部の魔導回路が破裂する音が聞こえ────爆発音と共に、落下した。


「は?????」


「ごめんごめん、弁償するから!とりあえず今は、ね。とてつもなくやむを得なさすぎる事情があるワケ」


「え、あ、あぁ……弁償するなら……?いやいや、なら最初から壊すなよ!?」


 なんかムカつく野郎だけど、実際に会ってみると悪い奴じゃ無さそうだし流石に可哀そうになってきたから最新機種を買ってやろうと思う。


 なんてことを考えながら────俺は再び頭上を見上げる。


「分かる?」


「……うん、私も、見えた」


 70階の天井付近に浮かび上がる光。


 徐々にはっきりとしていくその光の線は他の線と繋がり、円を描き、そして────見覚えのある模様となった。


 ダンジョンおなじみの『転移魔法陣』だ。


「じゃ、ブラッドデーモン君。らいちくん……アイツをここから逃がしてやって」


「────!」


 ズシン、ズシンという地響きはブラッドデーモンの足音だろうか。頭上から目を離せない俺は、らいちくんが上手く逃げられているのを確認できない。


「ちょっ、待っ……マジで弁償してくれるんだよな!?言ったからな!?」


 うん、逃げれてそうだ。


 と言っても、ここまでしてやらなくても生き残れそうなくらいは強い奴だから、実は心配する必要は無い。


 ……だからムカつくんだよな、らいちくんとかシツキちゃんとか……キリカみたいな、才能ある奴って。


「はぁ……ま、良いか。今は俺の方が強いし。で、一応確認しておくけど」


「何?」


「バエルってどんな見た目してる?」


「見れば、分かる」


「本当にぃ?それ言われて分かんなかった時って滅茶苦茶気まずいよ」


「絶対、分かるから」


「はいはい」


 魔力が、集中する。


 魔法陣が輝く。その眩い光から溢れるのはただの魔力ではない。邪悪な……禍々しい魔力。


「……来る」


「……」


 肌で感じ取った。


 俺は恐らく、今日という日を忘れる事は無いだろう。マミレちゃんも同じように、記憶の中に今日を刻み込む事となるだろう。


 これから始まるのは俺にとっては中々無い強敵との戦いだ。どれくらい苦戦するんだろ。つってもどうせ死ねはしないし……あ、封印系スキルにだけ気を付けなきゃな。


 そして────マミレちゃんにとっても、中々無い事が起きる。


 現保護者と、旧保護者が────殺し合うんだからな。


「……はは、なるほど!」


 魔法陣から現れた、複数の人影。


『見れば分かる』……確かにその通りだった。


「一人だけ気迫も魔力も段違いじゃねえか、分かりやすい」


 金色のローブに、ビームでも出てるんじゃないかってくらい鋭い視線。魔力の籠った杖と、一部のモンスターにしかない圧倒的な覇気。


 こいつがバエルだ。そうとしか思えない。


 そして案の定────王の威光を身に纏う男は俺の確信を後押しする言葉を放った。



 その瞳は、マミレちゃんではなく俺を向いていた。


 その言葉は、俺への憎悪が存分に込められていた。

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