第34話 ︎︎アーカイブ:ダンジョンを攻略する武器の種類をルーレットで決めていく!

久しぶりの投稿です。時間が確保出来たので毎日投稿でもやってみようと思います。


どういう話でしたっけ?確か美少女配信者が人間なのか化け物なのかよく分からない集団に喧嘩売ったところで終わってましたよね









 槍は空中を突き進む。


 ダンジョンの陰鬱で湿った空気を裂き、標的を貫くために。


 ─────が、王はそれを脅威と見なさなかった。


「……」


 冷めた視線が迫りくる槍の先端に注がれる。


 バエルは片手を伸ばし、魔力を集中させる。王に逆らう愚者に自らの無力さを実感させるために。


 ────そして、侮っていた。


(あ、やっぱやめよ)


 確かに薪野シツキは悪質な『ギャンブラー』と言えるような精神を持っているかもしれないが……勝てない賭けに挑めるほどの愚かさまでは持ち合わせていなかったのだ。


「【魔穿ち】────」


 バエルよりも先に、シツキの手は魔力を掴み……【魔穿ち】によって槍に纏わせたオーラに干渉する。


 それはやがて槍を震わせ────────その軌道を変える。


「王よっ、危な────────!?」


 槍が投げられた瞬間に、反射的に動いたヒュドラ。


 彼女はどうにかして頭上を通ろうとする槍を掴もうと試みたが、その水色の髪の上を槍が通過する事は無かった。


 突き進むは……彼女の頭蓋。


 魔人の脳髄を穿つために、槍は再び進み始めた。


「え……」


 ヒュドラはその槍を認識した。切っ先が自分に向けられているのを認識した……それだけだった。


 他者を守ろうとして動き出した彼女はすぐに反応できない。護らなければならない対象が自分に移った故に、判断にラグが生じる。


 薪野シツキによる……堅実に、確実に命を奪うための判断だった。


 ────間に合う者がいたとしたら、それは最初からヒュドラを守ろうと言う意思で動いていた者だけだ。


「ッ────」


 脳内に駆け巡ったあらゆる選択肢と思考を捨て、ヒュドラが選択したのは『目を閉じる』事だった。


 魔を滅する槍の魔力、全く理解出来ない目の前の人間、突然向けられる殺意────それらへの恐れが彼女にそうさせたのだ。


「っ……」


「……あれ?」


 が、暗闇の中でヒュドラが聞いたのは死神の声などではなく……槍を投げた少女の気の抜けた声。


「あー、そこまでは見れてなかったなぁ」


 ヒュドラが目を開けてみると、薪野シツキは槍を投げた直後にフェンリルに拘束されたようで、床に押さえつけられた状態で悔しそうに何かを呟いていた。


「なっ、何が────」


「おいっ!グレモリーッ!!」


 突如耳に入った叫び声にヒュドラは肩を震わせ────その声の主、ラタトスクが駆け寄る先……自分の足元へと目線を落とした。


 倒れている少年の肩に深く突き刺さる槍を見るに、何が起こったかは明白だった。


「ぐ、グレモリー?私を……」


「おま、お前ぇ~……何やってんだよ、馬鹿が!大馬鹿が!フェンリルよりも馬鹿だ、お前は……!」


「オレを罵倒してる暇かよ」


「……はは、いくらラタトスクちゃんでも、そんなヒドイ嘘は傷付くな」


「思ったより余裕そうだなァ、オイ」


 青ざめた顔で無理に笑って見せる少年の肩の裏側には、魔を貫く鋭い槍の先端が見えている。膝が彼の地で濡れるのを感じながら、ラタトスクは震える唇で言った。


 皮肉めいた口調で彼を揶揄う少女の姿は、そこになかった。


「……こんな事、しても」


「……」


「意味無いだろ……こんな、人間みたいな」


「……どうかな」


「お前も、あたしも、ヒュドラも……結局は、モンスターで────」


「そうですわね、珍しくラタトスクの言う通り」


 突如現れた人間は捕らえられ、傷を受けたのは一人だけ。事態の終息を確認したフェルニゲシュは気にも留めないような顔でグレモリーを見下す。


「わたくし達は人間ではなく、モンスター。独立した状態での生存能力、戦闘能力に長けた魔力生命体ですわ。それを自覚していなければメドゥーサと同じ轍を踏む事になる」


「あ?」


「あら失礼。でもヒュドラ……あなただってそう思ってるでしょ?」


「……まぁ、正直────」


 腕を組み、そっぽを向いてヒュドラは言った。


「雑魚なグレモリーの代わりにいつも戦ってやってるんだし、これくらいはしてくれてもね」


「……は?」


 ラタトスクが立ち上がろうとしたその瞬間────血液で赤く染まった彼女の手を、弱々しい少年の手が握った。


「あはは……役に立てたのなら嬉しいよ」


「……」


 少女はしゃがみ込み、呆れたようなため息の後に顔を伏せる。


 少年は────────苦痛に顔を歪めながら、ただ一点を見つめていた。


 ……バエルの、瞳を。


「……傷を治療しよう。が────70階への転移が先だ」


「なっ……いくら何でもそれは……!」


「グレモリー。貴様は……」


 少女の抗議は相手にされない。少年へと視線を返し、男は鋭く睨む。


「────私と『トリ』と『同じ』存在だ」


「……」


「言いたい事は分かるな」


「できますよ、少しの我慢くらい」


「……では、転移を始める。各自、準備をしろ。フェンリルはその女を離さないように。何かに使えるかもしれない」


「まっ、待ってください!」


 杖を掲げ、魔力を集め始めたバエルに声を上げたのは……グレモリーの処遇に文句を言うラタトスクではなく、青髪の少女────ヒュドラだった。


「ンだよ……今からトリんとこに殴り込みっつってんのによォ」


「王よ、何故この人間の言う事を信じてしまっているのですか!?姑息な戦い方をするコイツが……敵である私達に真実を伝えるはずがありません!」


「ん、え、あァ……確かに。なんで?どうしちまったんだよバエル」


 薪野シツキの戦い方────逃げ続け、勝負のタイミングを伺い、一瞬の隙を突き、二重に欺く……そんな彼女は姑息と取られても仕方の無い姿だったかもしれない。


「ははは、嘘なんて吐いてませんよ」


「戯言を……!」


「────戯言、か」


 ヒュドラの声で、バエルの魔力が止まる事は無かった。転移魔方陣は徐々に床に描かれていき、周囲を光が覆い始める。


「まず、『トリが70階にいる』という発言が嘘だった場合。戦闘中のフェンリルを動揺させる上に、『トリ』を守る事が出来る……一石二鳥の良い案に見える」


「見えると言うか、最初からそれを狙ったように感じましたわ」


「────が、私にはそう見えない」


「え」


「この人間の目を見ても……まだ嘘だと言えるか?」


 バエルの視線に促され、フェルニゲシュは白髪の男に抑え込まれている少女の瞳を覗き込む。


「信じてくださいよぉ、嘘なんて吐いてませんって」


 ……眼を背けたくなるほど、真っすぐな視線だった。


「ッ……」


 モンスターである彼女でさえ……否、モンスターだからこそ、かもしれない。


 こう思ってしまったのだ……『嘘を吐いている人間がここまで真っすぐな目をしているのか』、と。


「この目を、その視線を真っ向から向けられていたフェンリルは当然、真に受けてしまう。それだけではない……この人間は『戦い』と『賭け』を好みつつも、『命』と『確実性』を捨てていない」


「と、と言いますと……?」


「『真実の情報を渡す事で攻撃を絶対に成立させる』────加えて、『トリと我々を戦わせたい』……そう考えていたのだろう?」


「……ふふ!」


『ようやく誤解が晴れた』とでも言いたげに、シツキは満面の笑みを浮かべる。


「ッ、こ、殺しましょう!王よ、この人間は殺すべきですッ!!人質として使うメリットよりも、傍に置くデメリットの方が大きい……!!」


「……無理だ」


「え……」


 ヒュドラのように焦る様子を見せず、しかし諦めているわけでもなく。


 バエルは周囲を宥めるように語る。


「もし仮にこの人間が『トリ』の仲間だった場合。……奴の怒りを買う事になる」


「それが何だと言いますの?怒ったところで────」


「……」


「オイオイ、まさかボス……アンタでも『トリ』に勝てないとか言い出すんじゃ──────」


「……」


 返答は、無かった。


「ッ、そんな……そんな訳無いでしょ!王が負けるなんて、有り得ない……そうですよね?」


 魔人達にとって、育ての親とも言える【天雷王バエル】は絶対的な存在だった。どのモンスターよりも強く、どんな人間も一瞬にして葬ってしまう『力』の象徴。


 ────変わるはずのない事実。それが今、揺らいでいる。


「この眼で、奴の姿を見てみない事には分からない。だが見さえすれば分かる」


 バエルの視線が、一瞬だけシツキの目に止まる。


(あの眼……ちょっと苦手だな。心の中まで見透かされてるみたいな感じがする)


 特殊な眼というのはユニークモンスターが持つ力の中でも代表的なものだ。故にシツキはバエルも何らかの眼に関するスキルを持っているのだろうと解釈していた。


(ま、あんな眼で見られたからこそ、私の事は信じてくれるだろうなって判断出来たんだけどね)


 バエルの視線の先が自分から逸れ、再び転移魔法陣の構築に集中し始めたのを確認したシツキ。


 彼女の現在の好奇心の対象である彼に、熱い眼差しを注ぐ。


(それにしても、まるで─────フェニックスさんみたいな威圧感だった)


 シツキの本能が感じ取ったその感覚に、彼女の理性は答えを出せなかった。

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