第30話 アーカイブ:あの鎖鎌公式チャンネルさんに『お●ぱい揉ませて』と懇願していくフェニよ

 世間を騒がすフェニックスチャンネル。


 そんな彼が配信をすると決めたその日────────当然の如く、運命は交錯する。


 彼を求め、あらゆる陣営がそこに注目を向けているのだから。



「さーて!っつー事で早速、『らいちくん』さん……らいちくんで良いか。いや、らいちで良いな!らいちのとこに向かっていこうと思いまーす!」


「……」


「ほら、ヒヨッコスちゃんも!盛り上げて!」


「お、おー……」


「よし行くぞお前らぁ!!まずは71階、一気に駆け上がってくぞ────!」


 全ての元凶、フェニックスチャンネルのフェニックス。そしてそのアシスタントであるヒヨッコス。


 古鴉キョウマと二瓶マミレ────二人は72階に唐突に現れ、配信を開始した後で上の階層を目指し始める。


 目的地は配信者『らいちくん』のいる70階。


 目的は『らいちくん』の配信企画妨害。そして────────襲ってくるであろう人型モンスターの撃退。






 ー - - - - - -








「さぁ、面倒だけど向かおうか」


「……72階に?」


「というか、フェニックスは70階に向かおうとしてるらしいので……」


「じゃあ70階だ!」


「……もうこうなりゃ付き合うわよ、でも……モンスターは全部一人で何とかしなさいよ、リーダー」


「誰に言ってるんだい」


『暁月の宝珠』幹部メンバーである日神カゲトラ、美堂リリ、九条キリカ。彼らはフェニックスを勧誘するため81階にて待ち伏せをしていたが、読みを外してしまった。


「『毘沙門』もある……今の俺は、中々負けないと思うよ?」


 目的地はフェニックスが目指す70階。


 目的はフェニックスの勧誘────という名目の、『覆面を剥がし素顔を知る』事で弱みを握り、強制的にギルドに加入させる事。










 ー - - - - - -









「久々だなぁ……配信もつけずに、ダンジョンに潜るのは」


 62階の階段を下りながら、彼女────────薪野シツキは物憂げに呟いた。


「やってみると、寂しいな。みんなのコメントがあったから、私は一人じゃなかったんだね」


 今の彼女が頼れるものは一つ────槍、のみ。


「でも、行かなきゃ。一人で行かなきゃ……フェニックスさんへの、謝罪には」


 手にした槍に魔力を宿し、階段の外へと踏み出す。


「私の事を思って言ってくれたんだもんね、でも……やっぱり私はフェニックスさんと一緒にいる事が、一番強さに繋がると思う……!!」


 迫りくるモンスターを一突きで絶命させ、蹂躙し、貫き────彼女は進む。


「そのために今日は、『プレゼント』だって持ってきたんだもん……!」


 目的地はフェニックスが目指す70階。


 目的はフェニックスへの謝罪────そして、あるモノの譲渡。


「それにしても、何か……不自然な死に方をしてるモンスターがいるんだけど……?」


                                                         




 ー - - - - - -









 ……そして、この中で最も強力な『想い』を持つ者がいた。


「行かなきゃ」


 63階────丁度、薪野シツキがいる階層の一つ下。


「フェニを助けなきゃ」


『怪物』が迷宮を疾走していた。


 立ちはだかるモンスターはなぎ倒し、彼女をよけようとしていても手に持った鎖鎌が引っかかったモンスターは無慈悲に引き裂かれる。


「速くッ!!助けなきゃ……ッ!!」


 鎖鎌公式チャンネル────────フェニックスからは『ガマ子』と呼ばれる炎上系配信者である。


「今でも思い出すよ、フェニとの出会い」


『こんフェニ~!やぁ、皆さん最近どうすか?俺はまぁ、最近結構視聴者さん集まってきてくれて嬉しいフェニね~』


 彼女が脳裏に浮かべる情景これはフェニックスチャンネルの過去のとある配信での出来事だ。


『今日はタイトル通り鎖鎌公式チャンネルさんにおっぱい揉ませてもらうフェニよ。あわよくば童貞卒業するフェニ!』


 活動開始当初、チャンネル登録者4万人ほどのフェニックスは登録者を増やすために手段を選ばなかった。


 自身と同じ炎上系配信者なら、相手も通報したり強く出る事は出来ないだろうと考え、『お●ぱい揉ませて』と頼み込むという暴挙に出たのだ。


 ハッキリ言って、下品極まりない上にそこまで面白いわけでもない……フェニックス本人が後の雑談配信でそう述べているが、実際そう感じている視聴者は多かった。


『鎖鎌最強!ってうるさいフェニね。フェニックスは不死鳥だからそんなの効きまフェん……お!あそこじゃね!?』


 鎖鎌公式チャンネルのリスナー、通称『臭鎌』 による荒らしである。主であるガマ子を邪魔するしょうもない輩に嫌がらせをするのは至極当然の行為と言える。


『うぉお……初めて見たけど正直カッコ良いフェニね、ペストマスクってカッコ良くね?』


『え……?誰……』


『あーどうも!自分、フェニックスチャンネルって言うんですけど、鎖鎌公式チャンネルさんですよね?』


『……』


『すみません、知らないっすよねこんな無名!そこでお願いなんですけど、おっぱ●揉ませてもらって良いフェニ?』


 この最悪の会話こそが、彼と彼女のファーストコンタクトである。


 ────────が、彼女にとっては最高の出会いだったのだ。


『……あ、あの』


『ん?何フェニぃ?おっ●いフェニよ、おっ────』


『か、かっこいい……って言ったよね、今……』


 まず、鎖鎌公式チャンネルはフェニックスと出会うまでの活動期間の中で、他の探索者と会話をした事が無かった。


 そして、当時中学三年生だった古鴉キョウマことフェニックスの感性に、ペストマスクとボロボロのローブと血塗れの鎖鎌が当てはまってしまった。


 その二つの要素が混ざり────彼女はフェニックスに興味を抱いた。


『え?いや言ったけど、あの、おっ』


『こ、ここ……怖くないの?ほら、アタシ……こんな格好して……女なのに……』


『いやその、そういうのどうでも良くて、俺の話聞いt』


『へっ……』


 そして、とにかく企画を進めたいフェニックスは困惑しながらも鎖鎌公式チャンネルの質問を軽くあしらう。


 それを鎖鎌公式チャンネルは、『女がどんな格好しようと自由と思うけど?似合ってるから良いんじゃね』と受け取ったのだ!


『そ、そんな……で、でもアタシ、ずっとモンスターの血を浴びてるから、その……匂いとか、キツいんじゃ……』


『全然そんな事無いからさ、俺のはなs』


『う、うえぇえぇえ……!』


 実際、フェニックスは鎖鎌公式チャンネルの『匂い』に対してかなり嫌悪感を抱いていた。血みどろで、装備を外せないせいで身体も上手く洗えていない彼女だったが────この古鴉キョウマ、根が陽キャだった。


 匂いを気にする女性に対して自然と『そんな事無い』という言葉が出てしまったのだ!


「ふ、ふへへ、今思い出しても良すぎるんだが……」


 彼女の強烈な動機がどのようなものなのかを分かっていただいたところで。


 現在、鎖鎌公式チャンネルは63階を高速で走り抜けている。この調子では今にでも64階に到達してしまうだろう。


 何が言いたいかと言うと────そう。


「待っててね、急ぐから、今急いでるから……ッ!」


 下手すれば────────72階から向かっているフェニックスよりも……速く出会ってしまう。


 70階にて、あらゆる陣営が集合しようとしている事を知らずに呑気に配信をしている、ただフェニックスの標的にされてしまっただけの男……らいちくんに。

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