第23話 レベル爆上がり!モンスターの卵を運んで親を罠に嵌めるだけで大量経験値獲得!究極の裏ワザを紹介します!
「……リーダーが正しかったわね」
その一室に漂う、異様な空気。
日神カゲトラ、美堂リリ、九条キリカの三人が見つめるのはタブレットに映る既に終了した配信。
「……再生能力に加え、この戦闘能力……何より、【
「ッ、ですが……!!」
キリカは動揺しきって冷や汗にまみれた額を拭い、深呼吸を一度挟んでから口を開く。
「彼は……ひ、人を……殺して────」
「人じゃないよ」
「へ……?」
画面の右下にたった今表示された通知。カゲトラはそれをタップし、Labytubeからメールの受信箱へと切り替える。
「届いたね……人型モンスター出現の報告、『全体通知』バージョンが」
「人型、モンスター……!?」
「配信前に、俺個人宛てに届いてたんだ。千水団にも来てたらしいし、有力ギルドのトップにだけ伝えたかった極秘事項っぽかったんだけど────」
「……フェニックスチャンネルはそれを配信で映してしまった、というわけね」
「だから協会は慌てて『人型モンスターに注意せよ』という旨のメールを送ってきた……このタイミングで送るのは頭が悪いとしか言えないけどね。もしくは他に思惑があるのか……」
呆れた顔で、カゲトラは深いため息をつく。
「はぁ、面倒だ。まだまだ詳細は不明だけど、とりあえず方針を決めておくと────もし人型モンスターと遭遇した場合、俺がやろう。少なくとも【
「……リーダーがそう言うのなら従うし、私もそれに賛成。ただ────勝てるの?一人で」
「俺を誰だと思ってるんだい」
「リーダーの実力は理解していますが、今回の配信のように相手が二人以上で来る場合も……」
「『あれぐらい』なら、俺一人でどうとでもなるさ。本当に
────身体が、振動した。
カゲトラは意図せず震えてしまったのだ……武者震いだったのか、恐怖による怯えだったのかは本人でも分からなかったが。
「……」
烈火。
ダンジョンを燃やし尽くしてしまうのではないかと言うほどの、金色の熱。
(俺の本能が言っている)
凶爪。
肉を裂き、大地を一瞬で駆け抜ける剛力の脚。
(あの力は……)
双刃。
深紅の刀身は全てを斬り、焦がし、まるで『彼』の翼かのように舞う従属の赤。
「……」
額に汗が伝う。
その水滴が頬を通り、顎に到着したと同時に、カゲトラは確信した。
──────この震えは、武者震いでも恐怖によるものでもない、と。
(俺は感じている……身体の奥底から湧き上がる……今までに無い……)
──────嫌悪。
「……リーダー」
「何だい」
「……顔、気持ち悪いわよ」
「おっと、ごめんごめん」
右手で顔を覆い、数秒後に─────その手を離し、カゲトラは貼り付けたような笑顔を見せた。
「────で、何だっけ?フェニックスチャンネルを暁月の宝珠に引き入れたいって話だったよね」
「……あれだけ強いんじゃ、是非入ってもらいたいところだけど……逆に、あれだけ強いんだから全部一人で出来るわよね。ギルドに入るメリットなんか────」
「いや、彼は引き入れよう。下層の攻略なんかよりもまず、フェニックスの『対処』を優先すべきだ」
「し、しかしリーダー、そうは言っても方法が……」
「────簡単さ」
仮面のような笑顔が剥がれ落ち、控えめだが心の底からの笑みを浮かべた。
「覆面を剥がしてしまえば良い……素顔さえ知る事が出来れば、こっちのものだ」
ー - - - - - -
「と言われてしばらく経ったが進展無し、か……」
────例の配信から数日が経過した。
依然としてフェニックスチャンネルは次の配信を行わず、他のSNSの投稿も『詳しい事は次の配信で』と一言を残してから音沙汰が無い。
ネット上での彼の評価は主に二つに分断されている。
『英雄』……そして『人殺し』だ。
ユニークモンスター二体を圧倒した姿に魅せられたのは彼の登録者だけに留まらず、多くの者に夢を抱かせ、信仰を得てしまった。
だが事実として、『人型モンスター』という存在を受け入れられていない者もまた多い。モンスターとは言え人間の姿をした存在に躊躇う事無く刃を振るう事が出来るのはおかしいはずだ、とフェニックスチャンネルのなけなしの人間性は疑われている。
────そんな、少し暖かくなってきた空の下、いつでも燃え盛っている電子の海の外、無情な現実世界のどこにでもあるアスファルトの上にて。
「そもそもフェニックスチャンネルが配信をしないから、覆面を剥がす以前の問題だ……どうにか彼のプライべートを知ることが出来たら良いのだが……」
九条キリカは小さな声で文句を呟きながら、一人の住宅街を歩く。
見慣れた街並み、変わらない表札に書かれた苗字、その全ては日夜ダンジョンに身をささげるキリカの癒しにはなっていた────が。
「……」
それらを合わせて『ある場所への道』としてしまった場合、どうしても気は重くなってしまう。
「昔はよく遊びに行っていたというのに」
一歩一歩、近付く度に────『彼』の顔が脳裏に浮かぶ。
共に過ごした幼少期。下らない事で笑い合った時間。何故か覚えている何気ない一言と、絶対に忘れられない一言。
────彼女と『彼』の心の距離が、離れてしまった日。
「……キョウマ」
足を止めたキリカが見つめる表札は……『古鴉』の二文字が刻まれている。
「定期的にここを訪れるが……いつもはぐらかされて、追い返されてしまう」
彼女が古鴉キョウマの家に来た理由を一言で説明するのなら────『心配』だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「だ、大丈夫……だな?お母さんから受け取った煮物とお菓子は持ってきている。……か、髪型は…………」
スマートフォンのカメラ機能を使いながら前髪を整え終えた瞬間、画面に映ったのは真剣な表情の自分だった。
「っ……何を気にしているんだ私は、幼馴染相手に……!」
行き場の無い恥ずかしさを誤魔化すように、キリカは勢いでインターホンを押す。
「っと、えーっと、九条です……いや、押した直後に言っても意味は無いか……」
勝手に塗り重ねられていく恥じに、紅潮していく顔面。頬に手を当て冷やしてみたり、荷物を入れたトートバッグを右手から左手に持ち替えて見たり、もう一度前髪を触ってみたりして……一分程の時間が経過した。
「今日は休日だが……出かけているか。友達とか、多いだろうからな……お前は。元気に
今日は家にいないのだろうと、キリカはその一軒家に背を向けた────────その時だった。
『……あ』
「!」
砂嵐の音と共にキリカの耳に入った声が、何を言っているかは聞き取れなかったが……インターホンから音が鳴ったという事実さえあれば、彼女にとっては十分だった。
『……』
「……」
────無言の時間。
インターホンからは、『ジー……』という音のみしか鳴らず、向こう側にいる者の声は聞こえない。
それでも────キリカは不自然に思わなかった。
……自分と『彼』の仲では、『彼』がそんな態度を取ったとしても不自然ではないと思ったからだ。
「私だ、キリカだ。母から料理とお菓子を持たされている……まぁ、いつもみたいにお前を訪問しに来た訳だ」
『……』
「私は別に心配していないが、私の両親がお前を心配しているのだ。仕方のない
『……』
「……心配していないとは言ったが、全く心配していない訳ではなくて……あーその、あれだ。腐れ縁とは言え幼馴染だからな。キョウマなら大丈夫だと、私は思って────────」
『知らない、人じゃ、ない……?』
「……へ?」
キリカは『キョウマが自分と話したくないから黙っている』のだと思い込んでいたが……奇跡的にそれが、『彼女』が喋り出すまでの時間を稼いでしまった。
『幼馴染、なら……開けて良い、気がする』
「え、あ、え?え?」
『お菓子、くれるなら、欲しい』
「ちょっ、待っ、だっ、誰……!?」
『今、開けるので、待ってて、ください』
小さな足音が小刻みに響き────キリカは何をすることも出来ず、ただドアが開くのを慌てふためきながら待つだけだった。
「どうぞ────入って、ください」
「なっ……!?」
長髪の少女が目を輝かせながらドアを開き、二人は対峙した。
そう────対峙してしまった。
男子高校生が一人暮らしをしているはずの家から、見覚えの無い少女が出てきたのを……彼の幼馴染は目撃してしまった。
それを見た彼女が、九条キリカが何を思うか……玄関前で待つ二瓶マミレの身長の低さもあり、それは最悪の予想となってしまった。
「し、しししょ!しょうが、小学生……女子小学生……ッ」
「え、いや、ちが……」
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆッ!誘か、誘拐……ッ!?」
「何、言って……?」
「キョウマ……ついに道を……違えたかッ!!」
「……???」
────普通に、事案にしか見えなかったのだ。
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