第20話 【フェニックス】ジャージ以外の服を着た回まとめ【切り抜き】

 パソコンでLabytubeと掲示板、スマホでBritterを確認するネットサーフィンタイム。ゲーミングチェアの背もたれから背中を離し、画面に食いつきながら情報を仕入れていく。


「……燃えてんな~」


 各種SNSはフェニックスチャンネル対『人型モンスター』の話題で熱い。


 それは良い事ではあるんだけども────問題はシツキちゃんだ。スライム漬けに関して彼女は気にしていないようだったけど、彼女のファンは気にするどころかブチギレ状態。でも感謝してほしい。普段のあの子ならスライムなんて瞬殺だろうし、アレキサンダー君でもないと濡れ透け姿は見れない。男性ファンなら股間を固くしただろうに……むしろ俺を英雄視してくれたっていいのに!


「説明を兼ねた雑談配信しようとも思ったけど、後で良いかなぁ」


 凸ってくるであろうシツキちゃんリスナーを避けるために、ダンジョン配信はしばらく後か、人が来ない下層辺りでなければいけない。その間にリスナーに向けて説明やら話すべき事があるんだけど────────それはあの子の話を聞いて、『何を公表すべきか』『何を隠すべきか』をよく考えてからじゃないと。


 ……人の形をしたモンスター……に関しても、かなりの話題になってるし。そりゃそうだよ、本来はモンスターを狩る配信者の姿を見れるはずのダンジョン配信で────人と人が殺し合う異様な光景を視聴者に見せてしまったんだ。


「問題は協会、か」


 俺の配信が終わってすぐ────協会は声明を出した。


『調査中だった人型モンスターの存在について』という、いかにも『べ、別にフェニックスチャンネルの配信で初めて知ったわけじゃありませんけど?』感が凄まじい文章。当然ネットは批判の嵐だ……調査中だったなんて嘘だろ、どうしてそんな危険な存在に今まで気付かなかったんだ、とか。


「でも────これ、ブラフな気がするんだけどな」


 控えめに言って協会はゴミ組織だ。でも……力が無い訳じゃない。まず人型モンスターの存在についてはとっくのとうに気付いていたと考えるのが妥当。その上でとぼけた理由は……そこまではまだ分からないな。


 奴らが何かを企んでいるのなら、マジで関わりたくない。マジで。面倒だし面白くない事しか起きなそうなんだよ……。


「うーん、でも配信はしたいし────」


「あの、服が、無い」


「うぉびっくりしたぁ!」


 背後から突然聞こえた声。俺はちょっと高めのゲーミングチェアを回転させ、その声の主の姿を視界に入れ────────


「……マミレちゃん、なんで全裸なの?」


「?」


 ポカンとした表情で、その女の子────二瓶にへいマミレちゃんが素っ裸の自分の身体を見つめ、そこで思い出したかのようにようやく顔を赤らめたが……何がしたいのか、この子はモデルみたくポーズを取り始めた。


「……うっふん」


「無理すんなよ」


「性欲、無いの?貴方」


 怒ったように睨むマミレちゃんだけど……別に、エロくない訳じゃない。この子が何歳かは知らないけど、恐らく年齢が近いであろう女の子のむき出しになった曲線的な肉体を見れば『男子高校生』としては激アツ展開でしかないが……。


「んー、何つーか……不死鳥って単性生殖だからさ」


「……あっそ。私、脱ぎ損じゃん」


「勝手に裸なったのはそっちでしょうが。そもそも風呂上がってそのまま来たんでしょ?脱いだっていうか着てないんだよ君は」


「……仕方ない、じゃん」


 小さい子みたいに頬を膨らませ、さりげない動作で胸元を隠した少女は言った。


「服が無いって、言ったじゃん」


「でもさ……せめてバスタオル巻くとかさ」


「バスタオルは、ハンガーにかけておいてって、貴方が言った」


「え、じゃあ俺のせいって事?」


「そう、貴方のせい」


「あーマジか、思ったよりお子様だ」


 いつまでも裸体を見続けている訳にもいかないから、当然目をそらしたんだけど────聞こえてきたのはやけに不安そうな声だった。


「今の、冗談……ほんとに、冗談よ」


「え、あぁ別に……気にしてないけど」


「怒って、ない?」


「いやこれくらいで怒らないって!とりあえず服出すから着なよ。俺とサイズ合わないだろうからブカブカだろうけど」


「……うん」


 タンスの中の、出来るだけ可愛いめの……いやそんな服無いな。適当に着やすそうな、厚めのTシャツと下着、そしてズボンと────パンツ。


 ……俺のパンツを……穿かせるしか無いのか……。


「あの、嫌だったら全然……今買って来るし……」


「大丈夫。服なんて、あるだけありがたいもの」


「なら良いけど……じゃあ土日に買いに行くか。下着とかさ、やっぱ女性用のじゃないと駄目だろうし」


 話している間にマミレちゃんは俺の服を身にまとい、そうしたことで更に────彼女の人間らしさが増した感覚がした。


「じゃあ早速だけどマミレちゃ────」


「貴方って、女の子の事も、すぐ名前で呼んじゃうタイプなんだ」


「え、えぇ……ダメ?」


「別に、いいけど。……段々、貴方の事が、分かってきた気がするの」


「お、そう?」


「貴方、結構チャラそうね」


「チャラ……いや、別にそうでもないって!髪とか全然、染めてねーし……」


 ちっちゃい頃からよく『元気』だとか『やんちゃ』だとか言われてきたけど、高二ともなると『チャラい』か……大学行ったら髪染めようとかなんとなく考えてたけど、やめようかな。


「って、そうじゃなくて。君の事を教えてほしいんだ。」


「私と、私の仲間の事、でしょ?」


「……ま、君を見捨てた奴をそう呼ぶのなら」


「……そう、ね。『仲間』という呼び方は、適切ではない、かも。私達は────────」


「……」


「────『群れ』、かもね」


 獣性を感じる言葉の選び方。マミレちゃんは妖しく微笑み、話を続ける。


「もう、気付いてるでしょうけど、私達は……かつて、人間だった」


「うん。だろうね」


「そして、人間の社会から、弾き出された存在でもある。『群れ』は、全員が────────ダンジョンに、捨てられた子供だったの」


「────『迷宮孤児』か……!」


 近年のなんでも横文字にする流れで『ダンジョンチルドレン』やら『ダンジョンベイビー』と呼ばれる事もある。


 ダンジョンという地下迷宮に恵まれた事によって大きな変化を辿った世界、そして現代日本。……でも、ダンジョンがもたらしたのはメリットだけじゃない。


 ダンジョンならバレない。モンスターに食われ、跡形もなくなるから。ダンジョンなら戻ってこない。モンスターに襲われ、そこが墓場となるから。……コインロッカーの次に選ばれたのは、モンスターが蔓延る魔境だった。一階、二階は人が多いとは言え、その先まで踏み込む命知らずは限られる。昔ダンジョンに興味があった、探索者としての経験がある若者にとっては絶好の捨て場だったわけだ。自分は生き残れるが、経験が無くレベル1の子供は……成す術もない。


 加えて、赤子からそこそこ育った子まで迷宮孤児になっているというのも無視出来ない点。しかも協会は迷宮孤児達の救助を行わない……なんとも、胸糞悪い話。


「……でも、最近ようやく中学生以下はダンジョンに入れないって法規制がされたけど……」


「それは最近の話、でしょ」


「……そっか」


「……私達は、その群れなの。身寄りは無く、誰にも頼れず、死を待つだけ──────そんな私達を、集めたのが、群れのリーダー」


「!」


『群れ』の核心とも言える情報を、マミレちゃんは淡々と口にする。


 リーダー……つまりは黒幕。『人型モンスター』を統べる者。理由は知らないけど────この子とフェンリル男に俺を狙わせた張本人か。


「ユニークモンスター、【天雷王バエル】……その名を、手に入れた人間が、私達を使って─────モンスター達による、地上への侵攻を、企んでいる」

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