第18話 ︎︎女子高生にガチ説教してしまうフェニックス【切り抜き】
「さてと!テイムもした事だし、これで一件落着だね」
「……何、その顔は」
「これで一件落着だよね」
「知らない」
「なーんか引っかかるんだよな。なんか忘れてるような……」
歯に挟まったほうれん草みたいな気持ち悪さを解消しようとメドゥーサちゃんに助けを求めるが、この従魔は役に立たず。
「……まぁいっか!とりあえずテオドールとアレキサンダー君にお礼をして────────あっ」
「……ふふ、変な顔。その様子だと、引っかかってた事を、思い出したみたい?」
「あぁ……やっちまったね、こりゃ」
テオドールとアレキサンダー君を呼んだ理由。彼らに守ってもらいたかったのは、スライムでぐちょぐちょにしてやりたかったのは───────。
「シツキちゃん放ったらかしにしてた……」
「仲間が、いたのね」
「仲間じゃないけどね。でも敵でもない。ちょっとイタズラしてやろうと思ってスライムで拘束してたんだけど、解くのを今の今まで忘れちゃってたよ」
「スライム……まさかじゃないけど、辱める、目的で?」
「そだよ」
「人としてどうなの、それは」
「ははは、
「……」
「さて、さっさとシツキちゃんの所に────」
急いで向かおうとしたその時、床に落としていた【朱雀刃】の片方が目に入る。
「やべやべ。愛しのスザクちゃ~んごめんねかたっぽ適当にポイってしちゃって」
「……【
「……強かったよ、こいつは。ふーっ、ふーっ……よし、綺麗になったな」
息を吹きかけて赤い刃に付いていた汚れを落とし、アイテムボックスに収納してから……俺はメドゥーサに背を向けて周囲を覆う炎の壁を通り抜ける。
「服、燃えないのね」
「ん?あー……厳密には違うかな」
背後から聞こえてきた声に振り返り、炎の壁越しに言った。
「一応、耐熱効果のエンチャントはジャージにしてるけど、【不死鳥の劫炎】は自分すらも焼き尽くしちゃう系の炎だからそんなに意味は無い。今のは通る瞬間に弱火に調整しただけ」
何着も買いまくったジャージをダンジョン内で【エンチャント】スキルで効果を付与してはいるけども……そもそも俺自体が不死身だから防具としての価値は無い。かと言って、ちょっとのダメージで切れたり破れたり焼けたりしたら配信者として困るから『服』としての役割を全うしてもらうために強化している。
「この炎は残しておく。君が襲われたりしたら面倒だしね。フェンリル男が次元の穴を開いて裏切り者を始末しにでも来たら、決死の覚悟で炎に飛び込んでみるといいよ」
「そしたら、どうなるの?」
「灼熱に悶える君の悲鳴で俺は駆けつける。フェンリル男が炎の壁を通る為に次元を介した隙に、俺が彼を殺し……いや、またテイムでもしちゃおうかな」
「それは、頼もしい」
一番良いのは、ダンジョン内ではこの子を常に俺の監視下に置く事だ。だけど……これから俺が助けるシツキちゃんは、恐らくまだ配信中。
メドゥーサの姿を配信に映すか否かは、まだ決められない。なんてったって────配信中に俺が倒したメドゥーサがピンピンした姿で出てきちゃったら、かなり面倒な事になる。
「さてと。おーい、しつきんさーん!?」
声を張り上げて彼女の名を叫んでみるが、返答は無い。
「アレキサンダー君、やりすぎちゃったりしてないよな?」
距離はそう遠くない。少し歩いて、シツキちゃんの姿を最後に見たあの場所へ──────
「…………フェニックスさん」
「ドッキリ大成功」
「…………はい、そうですね」
「萎えすぎじゃね?」
流石の配信者魂、シツキちゃんは魔導ドローンを止めるという選択肢を取っていないようだったが……飛び回るドローンとは対照的に、シツキちゃんはアレキサンダー君に拘束されながら信じられないくらい絶望に染った顔をしている。
「…………私、自分の強さに自信持ってたんです。恥ずかしい限りですけど、まぁ強い方だろうなって」
「うん」
「…………でも、リーパーどころかスライムにさえ負けちゃうなんて……私、雑魚でしたね。雑魚」
「はぁ、好奇心の暴走列車も自信を折られるとこうなるのか」
クソほど面倒ないじけ方をしてしまっているシツキちゃん。まぁ、反応が薄いよりかはこっちの方がまだドッキリ的には嬉しいけども。
『ぴぃ……』
『……』
困ったように身体をうねらせるアレキサンダー君。彼が動く度に装備が剥がれた上に透けてしまっているインナーだけのシツキちゃんが連動して艶めかしく身体を曲げるが、テオドールはそれに目もくれずなんか寝ていた。見張りしててくれって頼んだはずなんだけど……。
「あー、あれだよしつきんさん。そのスライムめちゃくちゃ強いスライムだからさ」
「…………え……?」
「仕方ない。仕方なかったのさ」
「…………そうなんですかね……」
「さ、アレキサンダー君おつかれ!もう解いちゃって良いよ」
「えっ」
巨大なスライムが元の姿に戻ると同時に、磔のようにされていたシツキちゃんは「ぐえ」という汚い悲鳴と共にダンジョンの床に落下した。
『ぴぃ!』
「ありがとねー。ほら、起きてよテオドール」
『……ぐるる』
喉を数回鳴らした後、右前足で空間を引き裂き、威厳の無い眠気にまみれた歩き方で迅狼は去っていった。それに続いてグレートスライムも姿を消し、残ったのは全身ヌルヌル状態の女子高生と覆面の男という犯罪臭がとんでもない組み合わせの二人。
「それにしてもしつきんさん、恥じらいってもんは無いわけ?」
「負けばかりで恥ずかしい限りですけど……」
「そっちじゃねぇって、今の恰好の事」
「へ?あっ、あぁ……た、確かに……」
「そういう感情が無いわけじゃないのね、良かったフェニ」
顔を赤らめて胸を隠すように腕で覆うシツキちゃん。そうそう、こういう反応を見たかったわけ。
「さ、反応も見れた事だし今日の配信はこれで終わりフェニね」
「す、すみません……変な反応しちゃって」
「謝らなくて良いフェニ。それより────────いい加減懲りたでしょ?」
「へ?」
「俺なんかとつるんでも良い事なんて無いよ。俺の方からコラボしたがってたのにアレだけど、もうこれで最後にした方が────」
「────いえ、とんでもないです!またコラボしてくださいっ!」
大きく腕を振り上げたシツキちゃん。身体に付着したスライムが飛び散ると同時に、腕で隠されていたスケスケの胸部が露出し、気付いたシツキちゃんがすぐにまた隠す。
「っとと……最後だなんて、そんな事言わないでくださいよ」
「……どうして?」
「だってフェニックスさん、強いじゃないですか!!私も強くなりたいんです!それだけで十分じゃないですか?理由なんて」
「強くなる事が目的なの?何のために……」
「────強くなって、ダンジョンの奥深くに到達するためです」
酷くまっすぐな視線だった。
どうしてそんなに希望を抱いた瞳ができるのか、聞きたくてたまらない。
「誰も見た事のないダンジョンの深淵、そこに行く事が出来たら、私は────────」
「……俺の事は良い。ただ────」
その時……俺は少し、声を変えるのを忘れてしまった。
自然と地声が出てしまうほどに、感情に任せた言葉だった。
「────────ダンジョンを舐めない方が良い」
「え……」
「まだ知らないだけだ。君どころか、世間すらも。君の言うダンジョンの深淵で一体何が起こっているのか。知らないからこんなクソみたいな場所に夢を見れるんだ。知ってしまえば────」
「……」
「…………もう、後には戻れないフェニよ」
声色を戻し、俺は逃げるようにシツキちゃんから離れていった。
『約束だよ!いつか、物凄く強い探索者になって、誰も見た事が無いダンジョンの奥深くに行くの!キョウマも一緒に!』
思い出していたのは、昔交わした幼馴染との約束。
『うん!俺達なら絶対出来る!ははは、何せ俺は不死身だからな!はっはっはっはー!』
────あぁ、知らないから。無知は罪だ。最初からこうなるって知っていれば、俺達は……。
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