第17話 ︎︎アーカイブ:フェニックスとBAN覚悟の乱獲テイム回 理事長に借りてる隷従の杖で勝手にサキュバスをテイムしまくってイメージダウンさせてやりたい、いややってやる

「さて、と」


 せっかく和解出来そうなんだ。助けたは良いものの、ここで抵抗されて結局殺さなきゃいけない状況になったら最悪。


「治ってきたところ悪いけど、ここでさっきは提示してなかった条件を受け入れてもらうよ。拒否したら……殺すしかなくなっちゃうから……」


「悪徳」


「そう言うなって」


 起き上がったメドゥーサがすっかりピンピンしているのを確認した俺は────アイテムボックスからあるモノを取り出した。


「これ知ってる?」


「…………隷従の、杖」


「正解。マジでごめんね、これから君の事テイムするわ」


「いや、ごめんとかじゃ、なくて……単純に、無理じゃないの?」


「ん?」


「だって────私達、ユニークモンスターを、テイムする事は不可能」


 激レアアイテム隷従の杖でも流石に不可能だったのは、ユニークモンスターのテイム。協会が決めた区分とかじゃなくて、ユニークモンスターは明確に通常のモンスターと異なる性質を持つ……その証明の要素の一つがコレ。仕組みは良く分からないけど、『理事長』の野郎は『次世代のゲーム機のソフトを旧世代のゲーム機に入れても無理なのと同じ』とか言ってたっけな。隷従の杖というゲーム機からすれば、ユニークモンスターは非対応の次世代のソフトなんだろうね。


「でもそれってさ、が隷従の杖を使った場合の話でしょ」


「え」


「俺を誰だと思ってるフェニ?」


「っ……」


「おっと、そうそう。アイツに電話しなきゃ」


「────やっぱり、貴方は…………」


 俺の持つ隷従の杖の所有権はアイツのものだ。つまり俺がこの杖でテイムしたモンスターを、アイツは同じように使役し、命令出来る……メドゥーサを変に利用されたらたまったもんじゃないからね。


 この子は俺が手に入れた貴重な『情報源』だ。あんな気持ち悪いヤツに渡すものか。


「ワンコールで出ろワンコールで出ろワンコールで」


『はい、こちら日本モンスター協会────』


「お、ガチではえ~!きしょ!暇かよ」


『相変わらずだね、不死鳥』


 目を丸くしながら見つめてくるメドゥーサちゃんに片手で「ちょっと待ってて」の意を示すジェスチャーをしながら、俺は今すぐにでも電話を切ってやりたい衝動を抑え込む。


「あー、テオドールとアレキサンダー君にはお世話になってますぅ。そんで、えー、大変申しにくいのですがぁ、この隷従の杖の所有権を譲渡していただきたく」


『別に良いっていつも言ってるじゃないか。何本もあるし』


「…………だったら無条件で渡せやクソ野郎が」


『フフフ、そうは行かないさ。不死鳥に頼み事が出来るのなら、隷従の杖くらい何てことない』


「死ね」


『いつかはね。そう言う君はいつ死ぬんだい?』


「寿命が来たら」


『フフフ、ハハハハハ!!寿命とは!そんな陳腐な死に方が出来ると良いね、心から願ってるよ!』


「良いからさっさと所有権を────」


『はいはい。どうぞ!』


 杖の中の魔力が変質し────バチッという電流のような感覚が腕を通じて身体に流れ込む。


『これで正真正銘、その隷従の杖は君のモノだ』


「嘘は……あぁ、こういう時に嘘は吐かないか、お前」


『そんな事したらワタシは殺されるだけだろう、君に。それで……あの話は受け入れてくれたって事で良いんだよね?』


「背に腹は代えられないフェニ」


『フフフ、蛇の子をかなり気に入ったみたいだね。そんな素敵なモンスターなら、是非ワタシに紹介してくれ』


「あ?なんでメドゥーサちゃんの事知ってんだよ……さてはお前、また俺の配信見てたな?」


『え、見ちゃダメなのかい?』


「普通に嫌だよ、気持ち悪いし」


『えぇ……』


「じゃあな。愛するモンスター共に襲われて食われてあっけなく死んで、あの『約束』がチャラになる事を祈ってる」


『フフフ!なんだいそれはぁ、とてつもなく理想的な死に方じゃないk』


「乙フェニィ!」


 通話を切った瞬間スマホをぶん投げたくなる衝動に襲われたが、貴重な配信機材を失うわけにはいけないので耐えれた。配信者じゃなかったら耐えられなかったと思う。


「貴方、普通に暴言とか、言っちゃうタイプなのね」


「まぁね。相手が相手ってのもあるし、俺も思春期の高校生だしなー!」


「…………そんな若かったんだ」


「見えないでしょ?身長高くて良かったよ、本当に」


 しゃがみ込んだままメドゥーサちゃんとの身長差を手を動かして表してみる。……およそ150cm行ってるか行ってないかくらいか。


「ちっちゃいねぇ君」


「…………」


「ほいっ」


「えっ」


 少しムッとした表情の少女の額に────隷従の杖の先端を押し当てる。


「はいテイム完了。今から君は俺の従魔です。人生……じゃね、魔生終わったね」


「え、え、え!?テイムって、こんな、一瞬で……?確かに、魔力が流れてきたような感覚は、あったけど…………」


「イキリテイマーとか愛護協会の連中は長ったらしく儀式みたいに詠唱するけどね、こんな一瞬で良いんですわ」


「そ、そう……。出来たのなら、別に────って、ちょっと待って」


「ん」


「…………結局、貴方は、テイム出来たんだ。私を」


「……」


 目線を合わせてみた。


 彼女の頭部の蛇の目ではなく、この少女の2つの瞳を真っすぐと見つめる。


 テイムされたモンスターはテイマー……飼い主に対して攻撃の意思を持って何かをする事は出来ない。この子が俺を石化させないのはそれが理由だ。


 でも────────それ抜きにしても、どこか優しい光を帯びたような眼だった。


「まぁ、良いわ。貴方が、わざわざ顔を隠してるって事は─────その力の事を、知られたくはないのでしょう?」


「それもある……けど、さっきも言ったけど俺は小悪党だからさ。こうでもしないと男子高校生としての生活が危ういワケ」


「……そう。なら、何でも聞いて。知りたい事があるんでしょ?その後、用済みになったら殺すつもりなのなら、早くして。無駄な希望なんて、抱きたくない」


「んな事しないって……まぁ、聞きたい事はいっぱいあるけど」


 顔をよく観察して気付いたけど─────この子、顔が日本人だ。俺が日本人なせいで違和感に気付かなかったけど、普通メドゥーサって言ったら少なくとも顔が東洋なのはありえないんじゃないか?


 ……だから、この子はやっぱり──────。


「君は、人間だろ?」


「それを、他でもない貴方が聞いてくるのは、滑稽ね」


「答えろって」


「……どっちだと思う?人か、モンスター、か」


 妖しげに笑う彼女は、弱さを見せているような言い方ではなかった。


 でも、俺は何も考えずにこう言ってあげたくなってしまっていた。


「人……かな」


「正解としては、どちらとも言える、が模範解答ね」


「ざけんな無理ゲーじゃねーかよ」


「でも、考えてみれば、分かるでしょ。人の姿をして、人の言葉を話せて、それでも─────首を斬られても、繋がっていればまた、生き返るなんて」


「それを言ったらその状態から回復させられる俺の方が人間離れしてるって事になるじゃんw」


「…………は?」


「じ、冗談だって。そんな睨まないでよ」


「冗談、というか……はぁ」


 さっきまで来るだけ目を合わせないように警戒しながら戦ってたから、間近で視線を浴びると少しビビる。


「まぁ、詳しい事はダンジョンから出た後でゆっくりと聞くよ。にしてもさ、よく耐えたよね。確かにアレを踏まえるとモンスター感あるなぁ」


「何の、こと?」


「首を斬られた後、君は激痛の中でも意識を保っていたじゃんか。人間には中々出来る芸当じゃないよ、俺みたいに─────」


「【痛覚無効】スキルを持っていれば、別……そう言いたいの?」


「─────え、持ってんの?君も……」


「ふふ、ふ」


 今のタイミングの含み笑いは、もはやそうだとしか捉えられないだろ。


「私のは、【痛覚無効・中】だけどね。まさかこのスキルが、痛覚を完全に、遮断できるくらいに進化するなんて、思いもしなかったけど」


「ハッ、弱いね〜!俺のレベルまで追いついてこいよ、また首斬られても気付かないくらいだぜ?」


「じゃあ、ダメじゃない。……でも、貴方だって、このスキルについて少しだけ、勘違いをしてるのに」


「え?」


 彼女の笑みの種類が、そこで変化したのを俺はこの目で確認した。


「このスキルの、獲得条件は、攻撃を受けて傷付くという条件は─────何も、ダンジョン内じゃなければいけないわけじゃないの」


「……え、そうなの?」


「地上で受けた痛みも、傷も……しっかりと、カウントされる。貴方はきっと、地上では……幸せに、過ごせていたんでしょ」


 その言葉は言い換える事が出来る。


 この子は『地上で何度も何度も何度も傷付くような事があった』……と。


「……」


「だから、気が付かなくても、無理はない。普通なら、ダンジョン外で、そんなに多く傷付くことなんて、ありえないもの」


 この子にかけるべき言葉は見つからなかった。


 だから俺は、ありのままの感想を……救いになるかは置いておいて、心からの思いをぶつけてみた。


「……やっぱり、君は人間だよ。紛れもなく……人間だ」

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