第16話 謎の人型モンスターを相手に無双するフェニックス【切り抜き】
石化が始まり、フェニックスが【朱雀刃】を手にした瞬間。
二体の怪物と二人の怪物は動き出す。
「【不死鳥の抉爪】」
一秒経過時点。
フェニックスは両足を変質させ、石化を遅延させながら走り出す。
同時に翼をはためかせ、ペガサスが飛翔する。力強い蹄が上空からフェニックスへ標準を定めた。
クリューサーオールはゆっくりと黄金の剣を振りかざし始めた。
「【赤帝炎舞】」
二秒経過時点。
フェニックスが【朱雀刃】のユニークスキルを発動する。現在、彼はスマホ撮影なため一本しか【朱雀刃】を持っておらず本来の力の半分しか出せない状態だが────それを承知で、フェニックスは刃に高熱が帯びさせた。その事実を加味しても倒せる算段だったのだ。
相対するペガサスは重力に従ってさらにフェニックスへと接近する。
クリューサーオールは引き続き剣を持ち上げている。
「ほっ!」
三秒経過時点。
フェニックスは一旦姿勢を低くし、力を込めてから両足で跳躍する。並行して【朱雀刃】が燃え盛る炎を纏う。
ペガサスはフェニックスの跳躍に驚きつつも、互いの距離が縮まった事で更に蹄に力を込めた。
クリューサーオールは振りかざした黄金の剣に全身全霊を注ぎ、目の前の鳥を叩き潰さんと一気に振り下ろした。
「甘いフェニよ」
四秒経過時点。
フェニックスはペガサスへ跳躍したと見せかけ、鳥類の形状に変質した事で長くなった脚部を利用して床を蹴り、方向転換を行った。
ペガサスはそれに気付いた瞬間、翼で勢いを殺して攻撃の軌道を移動したフェニックスへと向けようとする。
クリューサーオールの斬撃はフェニックスがいた場所へとペガサスと同時に振り下ろされていたが、今更止まることは出来ない。
「まず一体」
五秒経過時点。
フェニックスはクリューサーオールの黄金の剣の上に乗り、踊るように一瞬にして巨人の首元へ接近し─────斬り裂いた。深紅の切り株のようになるはずの傷口は瞬時に焼け焦げ、血液は蒸発し、覆面の男は次の標的へと視線を移す。
ペガサスは一度着地してから再び攻撃姿勢に移るが、次に目にしたフェニックスの姿は兄弟の死体と共に映った。
不死なるクリューサーオールの名を冠する巨人は一撃にして力を失い、やがて輪郭のはっきりしない魔力の塊は霧散していく。
「……ッ!」
六秒経過時点。
フェニックスは気付いた────メドゥーサが攻撃行動を行わず、ただずっと自分を見つめ続けていることに。そのせいか、石化の進行が先ほどより速い。既に手首まで固まってしまったせいで、握った剣とスマホはもう手放せない。
ペガサスはすかさず突撃する。今度は重力に頼るのではなく、宙を駆け強靭な肉体を使った体当たりを狙っていた。
「甘いな」
七秒経過時点。
【赤帝炎舞】はまだ終わっていない。クリューサーオールの消えかかった死骸を蹴り、フェニックスはペガサスとの距離を詰める。燃え盛る炎が弧を描き、刃は天馬に触れた。
「
八秒経過時点。
ペガサスの肉体は────まな板の上に置かれた食材の如く切り刻まれ、赤き炎が傷口から生命力を奪う。深紅の刀身は血を浴びても色を変えず、同じ色をした炎がそれを蒸発させる。
「モンスターなら────」
九秒経過時点。
石化が肘の上に到達する前に、フェニックスは【朱雀刃】を持った右腕を曲げる。再生しなければならなくなった時にスムーズに身体を切断するためだ。
そして同時に……震えながら立つメドゥーサの方へ駆ける。走る。接近する────勝敗を決するために、踏み出した。
「……分かってただろ?」
────十秒経過時点。
「だとしても────貴方、少し、ずる過ぎじゃない?」
【朱雀刃】がメドゥーサの首に触れ────────鮮血が気化した。
ー ー ー ー ー ー ー
「
「……ん、君か」
メドゥーサの首を切り裂いた直後……声をかけてきたのは白髪の男。
「大人しくコソコソしてると思ったら、なるほどね────君、最初からこの子の事を助けるつもりはなかったのか」
「あ?あー、まぁな!ヘビだってつえーはずなのに、お前に隙を作る事すら出来なかったからな……
フェンリル君の下半身は隠れていた。
────────次元の穴。彼はそこに半身を突っ込んだ状態で、いつでも逃げられる状態で俺に喋りかけている。
……同じ狼だから、迅狼の技術も使えるってか?
「勝てねーって分かったぜ、一瞬で。手応えが全く無かった……オレとお前は同じ土俵にすら立ってなかったんだ」
「だから逃げると。賢いワンちゃんフェニね」
「あぁ!いつかオレが【
「……君は……この子の事を何とも思ってないのか?」
俺には、二人が『仲間』のように見えていた。だと言うのにこんなあっさりと見捨てるなんて────どうも、理解しがたい。
「え?どういう事だ?」
「…………いや、もう良いよ。そうだね、さっさと尻尾巻いて逃げるフェニよ。また会おうや」
「おうッ!またなー!」
酷く純粋な笑顔だった。
その笑顔がこの空間から消失し、次元の裂け目が修復されたのを確認し────スマホのカメラに俺の顔を映す。
「というワケで、今日の配信はここで終わりフェニ。明日はコラボの感想配信でもするからまた見に来てね。じゃ、乙フェニ~」
一方的に、やや駆け足で配信停止ボタンを押してしまった。顎で。石化した指じゃ反応しないから、覆面をズラして顎で頑張った。
……でも、こうでもしないと間に合わないかもしれないからな。
「で、まだ生きてるよね。メドゥーサちゃん」
「…………」
「おーい」
「い、だい……痛すぎ、て…………」
「あ、おけおけ。生きてるね」
文字通り『首の皮一枚』だけ残しておいた。【朱雀刃】の炎も斬った後は抑えて、モンスターならギリ死なないかなーってぐらいのラインを攻めたけど……成功したみたいだ。
「二択。二択だよ。今すぐ俺の身体の石化を解除して助かるか、死ぬか」
「……」
「別に、俺は腕と足斬っちゃえばまた生えてくるからさ、君に解除してもらう必要はないんだけどさ。目線を合わせなくとも石化出来るあたり、君のスキルは割と応用が利くのかなって思って、それを試したい」
「……それ、だけ?何を、私に、求めて…………」
「んー、君達が何者なのか情報を引き出したいってのもあるけど……普通に、死にたい?死にたくない?そこで判断すれば?」
「…………」
直後────四肢の感覚が徐々に戻っていった。
…………正直言って、こんな
「おぉ、やっぱ解除出来る?便利なスキルだねぇ~!」
「ほ、んと……貴方、相手じゃ、なければね…………それ、で、どうするの」
「ん?」
「この、状態の、私を、どうやって……助けるの」
「簡単だよ」
俺は手に持った【朱雀刃】で────左腕を真っ二つに切断した。
「は?」
「さ、寝っ転がってね」
ダンジョンの冷たい床にメドゥーサちゃんを寝かせ、首元にボトボトと俺の血を流す。
「フェニックスの血の効果、安心して信じるフェニよ。しばらくすれば元通りだろうから」
「…………い」
「い?」
「い、イカ、レ、てる……」
苦痛で藻掻く中、わざわざ口にするにしてはしょうもない言葉を聞き流し、俺は…………みるみるうちに塞がっていく首の傷を見守った。
「イカレてる事でも平然とやってのける。俺というコンテンツはそうやって成立してるんだよ」
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