第13話 ︎︎アーカイブ:【謝罪】先日の戦士のユニオンスキル弱すぎ発言について
敵意の籠ったメドゥーサの目線。この子、よく見ると可愛い顔はしてるんだけど、一緒に睨んでくる頭部の蛇のせいで今まで気付くのに遅れてしまった。
石化したくない故に目を合わせられず、変な気まずさを感じた俺は適当に『異常呼ばわり』への弁明でもしてみた。
「……異常ね。ただ正直、俺は人間社会では小悪党でさ。だから人殺しに抵抗なんて無いのかもフェニよ?ハハハ」
メドゥーサの代わりに男の表情を見てみるが、彼女の言葉を受けて俺の顔を不思議そうに見ていた。
「言われてみれば確かに……」
「何、納得してるの。それに────貴方、痛みは感じていないの?」
「痛み?」
「無限に、再生し続ける事は出来ても、痛みは、肉を斬られる痛みは、感じているはず────なのに、どうして攻撃を受け続けていられたの」
「あー、えっと……」
少し迷い────別にこれくらいの事なら配信中に喋ってしまっても良いだろうと判断した。俺が不死身だってのはもうバレてるわけだし、今更スキルの一つや二つバレたところでね。
「【痛覚無効・極】のおかげフェニ。このスキル知らない?」
「痛覚無効、だとォ?んだそりゃ、ユニークスキルか?」
「いや全然ノーマルスキル。タンク系ジョブなら【痛覚無効・小】くらいは持ってるかも。『極』まで持ってるのは俺くらいだろうけど」
俺はちょうど変形させていた右足の爪で指先を引っかいて見せた。
「ダンジョン内で受けた攻撃の回数。または傷の持続時間。その量が一定に至ると獲得出来るスキル……って気付いたのは【痛覚無効・大】を習得した時だったな」
【中】を手に入れた時点で『もしや?』と思って自分の身体を痛めつけ続けるドM生活が始まったのは良い思い出だ。
「危険、ね。この人間は、危険────とても、私達二人で、どうにか出来るとは……」
「でも、それくらいのイカレ野郎だから『トリ』なんじゃねぇのか」
「……じゃあ、どうするの。【
「────え、ふぇ……今フェンリルっつった?」
それは……北欧神話の大物中の大物じゃねぇか!ダンジョンのモンスターが何処から来たのかはまだ解明されていないけど、神話に基づく存在がいて、姿も能力も一致しているっていう話だ。それに────フェンリルは、【
────だが今、俺の目の前でフェンリルと呼ばれた男は人間の姿をしている。
(……メドゥーサに、フェンリルまでいるのかよ)
どうやらこいつら、結構ヤバめの匂いがするみたいだ。
「あぁ、それ以外無ぇだろッ!今ここで『
「なっ……犬、貴方がッ、そこまでの馬鹿だとは、私も思ってなかった……!」
「────『
ユニオンスキル。
探索者はダンジョンに入り魔力を浴びた時に『ジョブ』を与えられる。どんなジョブを与えられるかの基準は不明であり、恐らくは完全な運ゲー。人々はダンジョンに入ったらまず誰でも使えるスキル、【ステータス】を使用して自分のジョブを確認するんだ。
ユニオンスキルはその力を最大限に開放する、ジョブを極めた者のみが使えるスキル。例えば【戦士】であれば巨大な剣と盾を生成し、攻防一体の態勢を取ったり。【魔法使い】であれば一定時間魔法系スキルの使用に必要な魔力が不要になったり。キリカのジョブ、【魔刀士】とかはかなり派手なユニオンスキルだったな。
強力な代わりに、使用中は『ジョブスキル』以外のスキル……つまりノーマルスキルとユニークスキルを使用出来なくなるという制限がある。他にも、連続使用すれば身体能力や魔法の威力が著しく低下したり……まぁ、ジョブ毎の最終兵器、とっておき、切り札と言ったところだ。
「あれ君、ユニオンスキル使えるん?モンスターのくせに?」
一旦、鎌を掛けてみる。こいつら二人の奥には更に大きな何かが繋がっている気がするから、情報を引き出しておきたい。
人型のモンスターなんてものが存在するなら、しかもユニークモンスターだったはずの存在が人の形を取っているのなら……他のユニークモンスター達だって姿を変えているかもしれない。
「あ?
「あー、死んで。それか黙って、犬。この男は貴方の、ヤバめな愚かさを利用して、情報を引き出そうとしてる」
「え?あ、あぁ!?それぐらい
「────ふぅん」
……なるほど。
こいつら人型モンスターの正体がなんとなく掴めたかもしれない。
「……はぁ、仕方ない」
俺が勝手に脳内で仮説を組み立てていると、ふと大きなため息が聞こえ……覚悟を決めたような、声量こそ大きくないながらもはっきりと通った声が響いた。
「─────私が、やる」
「……んだと?」
「私が、『
メドゥーサの着ている黒いローブや、周囲の空気までもが震えるような……魔力の高まり。
「何言ってんだよ。お前、戦う時はいつも全部オレ任せで何もしてねぇくせに」
「戦いが、好きじゃないだけ」
「……なら、二人同時に攻撃しちまえば─────」
「ダメ。ここで、貴方を失うのが、一番まずい。私の【
「……チッ、それが最善ってか。良いぜ!オレは適当に様子見てその二択を判断する」
フェンリルは下がり、代わりに頭部に蛇を飼う女が……トライデントと言うべきなのだろうか、アイテムボックスから取り出した三又の槍を手にし、ゆっくりと俺との距離を詰めた。
──────だが、その瞬間から攻撃は始まっていたんだ。
「【蛇怪女の邪眼】……!」
「っ!」
眼球が赤く光るのを確認した瞬間、目を合わせていないというのに身体が石化していくのを感じた。四肢の先端から徐々に、肉から石へと変質していくが……。
「切り落とせば良いフェニよ、トカゲみたいにね」
変形していたおかげか、石化の進行が遅い右足で左足と左手を抉り、瞬時にアイテムボックスから適当な剣を再生した左手で取り出し──────
「よっと!」
残った右手と右足を切り落として……石化した手と同時に落下するスマホを、床に落ちる寸前で掴む。
────────と、俺が悠長に石化を解除している間に。
「そうする、でしょうね。不死身の身体を、持つのなら」
いつの間にか俺の背後を取っていたメドゥーサの、消え入るような声。
「【
振り返った瞬間、その女は────両手で握った三又の槍の刃先を自身の首に押し当てていた。
「────【
メドゥーサの首から爆発するように溢れる、二種類の魔力。
眩しいほどの神々しさは留まる事を知らず、そして────────────。
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