第12話 【フェニックス】遭遇したユニークモンスターまとめ【切り抜き】

 ユニークモンスター。


 最初に発見された個体は【紅血兎ブラッドラビット】。上層に出現するモンスター、『ホワイトラビット』の変異体と推察されている深紅の兎。徒党を組むホワイトラビットとは異なり単独行動で素早く動き、獲物を仕留める。その速度は発見されてから今まで誰も討伐する事が出来なかったほどに優れており、追い詰めたとしても逃げられる事がほとんど。


 最後に発見された個体は【追及者マモン】。幽層探査機『ようがん』が99階にて発見したとされているが、それ以外の情報は秘匿されている。


 公開されている計149体のユニークモンスターの中でも強弱は存在する。【赤帝翼スザク】のように人の手によって討伐された個体、【不純角バイコーン】や【狼戒牢グレイプニル】のように迅狼の群れや他のユニークモンスターによって狩られた個体。


 また────新たな姿へと変貌し、探索者という敵対生物に適応する個体もまた……存在する。












 ー ー ー ー ー ー ー














「おい」


「……」


真実ガチでコイツが『トリ』なのか?」


「そう、らしい」


「はァ~~~?」


巨神狼フェンリル】の名を持つ白髪の男が、前方に立つ覆面の男を指さしながらがっくりと項垂れた。


「見るからに廃棄物ゴミじゃねーか!」


「私も、よく、分からない……」


「チッ……ったくよぉ」


 片手はのんきにスマホを構えており、武器や防具は身に着けずジャージと覆面だけ。


 そんな男が、ニヤニヤと口角を上げながらフェンリルを見ていた。


「あのーすいません、探索者の方ですかね?今ちょっと配信してましてwwモンスターじゃないならどっか行ってくれませんかねww」


「…………なぁおい、コイツっちまって良いよな?本当に『トリ』なら一撃ワンパンで死んじまったりしねぇだろうしよ」


「────良い、と、おも……」


「────だよなァ!!」


 刹那、フェンリルは飛び込んだ。


「死ねッ!!」


 ストレートに、真っすぐに、しかし素早く強烈に。彼は右手で正拳突きの構えを取り、そして────────


「……ハッ、やっぱ一撃かよ」


 ────覆面の男の腹部を貫いたのだ。


「ヘビ!もう一回『トリ』の居場所を確認して来ようぜ。オレら馬鹿だからよぉ、なんか間違えてたかも知んねぇし────」


「……そう、ね────貴方は、本当に、愚か」


「んだよ、『トリ』の居場所間違えたんならお前にも責任が────」


「相手の、息の根が、止まる前に、よそ見するなんて。ヤバいくらい、愚か」


「……あ?」


 フェンリルは確かに、覆面の男の腹部を貫いた。


 ────だが、貫いただけだった。


「……モンスターじゃないならどっか行ってくれって言ったんだけどなぁ。攻撃してきたって事はやっぱり────お前ら、『面白い』ネタになるフェニよ」


「ッ!?!?」


 笑っていたのだ。


 腹部を腕で貫かれ、絶命していてもおかしくないほどの傷を受けても尚────その男は笑っていた。


「っ、コイツ……!」


「そうだ、腕抜かなくて良いの?」


「あ?」


「────俺の再生力に負けて、腕千切れちゃうかもだけど」


 圧迫感。


 フェンリルの右腕に伝わる、ギュウギュウと締め付けられるような感覚と────熱。


「クソが……!」


 勢いよく引き抜くと同時に、フェニックスの腹部を黄金の炎が纏い……一瞬にして傷は修復された。


 結果的に穴が空いたのは、彼のジャージのみとなってしまった。


「犬」


「んだよッ!」


「撤退、する?」


「……誰がするかよ。だって今、オレは確信したぜ?コイツは間違いなく『トリ』だってよォ!」


「そうじゃなくて、ただ単に、逃げないと私達が────」


 直後、パチンという指の鳴る音が響く。


「【不死鳥の劫炎】」


 下層70階、階段から少し離れた空間。


「逃げんなよ。面白くないから。ま、そもそも逃がさないフェニよ」


 黄金の炎がフェンリル達の退路を塞ぐようにその場所を覆い────不死鳥の祭壇が、フェニックスという男のステージが完成する。


「何てったって、もはや俺とお前達は……一つのエンターテイメントなんだからな」













 ー ー ー ー ー ー ー












 チャット欄を見る余裕なんて無い。


 今、目の前にいる二人……いや、二体。


 片方の白髪の男はまだ良い。ただ殴って来るだけならいくらでも再生して対応出来る。


 だが────────もう片方の女。髪の毛が蛇になっているとかいう、もうメドゥーサじゃなかったら何なのってレベルのメドゥーサ!


(目を合わせた者を石化させる能力……俺のスキルがアリなら、こいつも当然メドゥーサらしい事をしてくるだろう)


 だから……本気を出すしか無い。


(こういうのは今まで配信外でやってたんだけど……少し、フェニックスチャンネルというコンテンツの限界を見たくなった。ここで俺がこいつらを倒したら……人型のモンスターなんてのを倒したら、もっと面白くなるかもしれねぇ!)


「上等だッ!闘おうじゃねぇか!だが、再生するってんなら────再生速度を追い越すまでだッ!!」


 両腕を構えた白髪の男の手が変形し─────野獣のような鋭い爪が生えた。


「オラァァァアッ!」


 大振りの爪撃。左腕で受けるが─────爪がくい込んだ瞬間、よく煮たじゃがいもみたいに一瞬にして崩壊する。


(俺の『レベル』的にも素の防御力はそこそこあるつもりだったけど……コイツの力はそれすらも上回るか)


 どうやら力だけはあるみたいだが、無駄だ。


「オラッ!オラッッ!オラァッ!!」


 すかさず振り下ろされる爪、爪、爪─────。


 だが、例えば……液体を引っ掻き続けたところで、それが何になるというのか。浴槽いっぱいに入った水に攻撃し続けて、何の意味がある。浴槽から水を零れさせれても、俺の身体には蛇口が直接繋がっている。


「ッ……」


 俺の再生に限界が無い事に気付いたのか、男の顔に陰りが見えた。


「無意味でワロタ。ひっかくって言うのはさ……こうやんだよッ!」


 右足を踏みしめ、血液を指先に────爪に集中させる。


「【不死鳥の抉爪】!」


 振り上げた右足は鳥類特有の、鋭利で獲物を捕らえるのに特化した形状に変貌している。そしてそれを思いっきり、遠慮なく────振り下ろす。


「ぐッ……!!」


 防御姿勢を取った男が両腕から血を噴出させながら後退する。肉を裂く感触はあったが、相手の回避行動が速かったから深くは傷付けられなかった。


「待って、犬」


「ハハハハハ、ハハハハハハハハッ!!待てるかよ、こんな強敵相手にッ!どうせオレもお前も、この『トリ』もまだ『不完全』なんだ。今を楽しもうぜ……!」


「そうじゃ、ない────この人間、おかしい」


「あ?そりゃ『トリ』なんだから……」


「私達とは違って、『トリ』は人間として、生きている────なのに、なのに……」


 念のため直視はしていないけど、メドゥーサが俺を強くにらんでいる……気がした。


「────どうして、人間の姿をしている私達を、当然のように攻撃できるの?」


「……あ?」


「そんなの、おかしい。モンスターならともかく、人間を躊躇いなく攻撃出来る人間は、少なくとも人間社会では、異常者……」


「…………そう、なのかァ?」


「────貴方、何者?」


 メドゥーサの方は見れないが、白髪の男の視線からは『恐怖』や『尊敬』に近い震えを感じる。戦闘狂らしく目の前の敵に対して『歓喜』しているとすら受け取れる瞳の輝きだ。


 対して蛇女は声から察するに、相当俺の事を警戒しているようだ。


「ふっ……ふふふ。良いね!」


 異常者呼ばわりは慣れている。


 でも、まさかモンスターに異常だなんて言われるとは────。


「炎上系配信者にとっては最高の誉め言葉だな!」

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