第11話 【コラボ回】不タヒ鳥は燃えて灰になってから蘇るって言うよな。お前ら、待たせてスマソw

「ふぃー!なんとか70階まで到達出来ましたー!!」


 今回の配信で、シツキちゃんが選択したのは────『ソロでダンジョン攻略しつつ、危なくなったら俺に助けてもらう』という形式だった。


 薪野シツキというコンテンツは『美少女女子高生がソロでダンジョンの奥深くまで潜っていく』という特異性によって成り立っている。シツキちゃんもそれを理解しているようで、俺を戦わせてはいけないと判断したみたいだ。


「いやぁ、今日はいつもより調子良いかもぉ!フェニックスさんがいるから、怯えずにどんどん進んでいけてるって事なのかな?」


 ……つまり、命そのものを俺に預けているわけだ。もちろん、それは前回の配信でこの子を助けたという俺の実績への信頼なんだろうけど。


 ちょっと覚悟にビビるけど、今のシツキちゃんの勢いは凄まじい。命の危険を心配する必要の無くなった彼女は、縦横無尽にダンジョンを駆け回って豪快に槍を振るう。さっきまで61階にいたはずなのに、初見攻略の69階も含めて一瞬で突き抜けて行ってしまった。


「で、しつきんさん。70階は区切りだからボスがいるし、早いけど今日の配信はもう……」


「いやいや行きましょうよフェニックスさん!逃しちゃいけませんよ、この波は!」


「……せ、せめて休憩してからにするフェニよ。ね?」


「……確かに、そうしましょっか!その方が皆的にも安心かな?」


 ドローンに向かって微笑みを投げかけるシツキちゃん。


 そりゃ、リーパーに遭遇したんだからな。俺がいなきゃ死んでたんだ……視聴者も心配するに決まっている。それなのにすぐダンジョン配信しちゃってさ。


 ────少し、懲らしめてやらないと。


「じゃ、俺ちょっと小便行ってくるから。ちゃんと階段前で待ってるフェニよ、危ないから」


「はーい……って、フェニックスさん!?かっ、モンスターが近付いてこないのは階段前だけですよ!?外で……したら、無防備じゃないですか!」


「俺に無防備もクソもある?」


「あっ……」


「そゆこと。じゃね~」


 モンスターは……正確にはユニークモンスター以外のモンスターは、何故だか知らないけど階段に近付こうとしない。階を跨げない呪いでもかかってるのか、そういうルールに縛られてるのか、本能的なものなのか……何故そうするかは分からないけど、そうするって事が分かってればいい。


 些細な事よりも優先すべきは────このドッキリだ。


《おもんな、モン愛行くわ》

《おいはよミュートしろ》

《外れ枠》

《ほにょ音声とかそれこそガチでBANだろ》

《フェニの貴重な放尿シーンとか当たりでしかないんだが》

《ガチでミュートしてくれ》

《配信切っても良い?》

《あ、ガマ子も見てますと》


「……」


 俺はチャット欄を見ながらシツキちゃんから離れるように歩いていき、ジャージのポケットからノートの切れ端と鉛筆を取り出し、たった今片手で完成させた殴り書きのメッセージを配信画面に映す。


『ドッキリやります』


 直後、さっきまで俺のおしっこを見たがっていたチャット欄は豹変する。


《うおおおおおおおおおおお》

《ワイは最初から信じてたで》

《wwwwwww》

《来た》

《ふぇにいいいいい》

《鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!》

《激アツ》

《まぁそうだろうなって思ってたよ》

《当たり枠》


「……フッ」


 一安心の後、やはり────罪悪感に苛まれてしまった俺は、ノートの切れ端にこう続ける。


『すまん』


『実はこのドッキリってやらせで』


『しつきんさんはドッキリされるの知ってます』


《は?》

《は?》

《え》

《は?》

《堕ちたな、お前も》

《あ》

《うんうん》


『でもどんなドッキリするかって言うのは言ってないんですよね。あの子は何でもやってくれとは言ってましたけど』


《ん?》

《ん?》

《ん?》

《今何でもって》

《ん?》


『なので今から薪野シツキちゃんを、絶品料理『美少女配信者のスライム漬け』にしてやろうと思います』


《マジかwwww》

《草》

《ちくび!》

《最高だよお前》

《激アツ》

《うおおおおおおおおおお》

《神》

《ちくびみえるかも!》

《アーカイブ残してください、一生のお願いです》

《やめてあげてください》

《本当にありがとう》


 ……いつも通りの反応を、視聴者たちがくれたのを確認して……俺はそっと胸をなでおろす。


 安心した。俺はまだ、配信活動を続けられるんだ。みんなは着いてきてくれるんだ。


「……こんくらい離れれば流石に聞こえないかな。よし、じゃあ計画を説明していくフェニよ」


 十分に距離を取れたと判断した俺は【アイテムボックス・大】を発動し、中から隷従の杖を取り出す。


「来い、アレキサンダー……」


 直後、次元の裂け目────『迅狼』特有の能力の予兆が目の前に現れ、中から一匹の迅狼が姿を見せる。


『ウォウ……』


 リーパーを追い払うのに協力してくれたテオドール君。今回は呼んでいないのに来てくれた理由は、テオドールが移動役を務めているからだ。


 ────そう、そして本命が次元の裂け目から現れる。


『────ぴぃ』


「久しぶり~アレキサンダー君!」


 俺の身長の1.5倍ほどの直径を持つバカでかいスライムが、狭い次元の裂け目からにゅるんと絞られたような形になりながらこちらに流れ落ち、なんとか地面で形を整えた今の状態で目の前に鎮座している。


『グレートスライム』────その名の通りグレートなスライムだが、それは大きさだけの話。通常のスライムの何倍も大きい、基本的には大きいだけのでくの坊なモンスターだが、アレキサンダー君は別。『ヤツ』の育成の影響でとんでもない強さに仕上がっている。


「アレキサンダー君、今日は戦いとかじゃなくてね。えぇっと……この画像の女の子が階段の近くにいるから」


『ぴぃ』


「まず俺がその子をおびき寄せる。そしたらアレキサンダー君がバッ!と行って、この子を拘束してくれ!」


『ぴぃ』


「あとは服をびちょびちょにしちゃって!触手みたいに変形してこねくりまわしちゃって!」


『ぴぃ!』


 本当に通じているのか不安になる反応だけど、ヤツが飼っているモンスターはほとんどが人間の言葉を理解するほど賢く進化した異常個体。群れを成せばユニークモンスターに匹敵すると言われている迅狼なんて、ヤツの育成を受けたテオドールとかは単体でもリーパーを追い払えちゃうようになるんだしな。


「さて……いくぞ?」


 俺は息を吸い込んで、そして────全力とまでは行かない大きめの声を出す。


「シツキちゃん、ちょうど抜け道っぽいところ見つけたからさ!休憩終わりにして探索を再開しないフェニ?」


「えっ、抜け道ですか!?気になりますっ!」


 返事はすぐに聞こえた。俺はアレキサンダー君の背中 (?)を叩き、シツキちゃんのいる方向を指さした。


『ぴぃ!』


 超巨大にして超高速のスライムが迷宮を駆け、そして────────


「えっ!?うわっ、ちょっ……うわわわわ、わぁああああああああ!?!?」


 思いっきり響いた、ゾクゾクするような心からの悲鳴。


 ……成功したようだ。


「流石はアレキサンダー君……相手がシツキちゃんだろうと余裕だったか。声を聞きつけてやってきたモンスターがいても倒してくれるだろうし、もしこの間みたいにリーパーとかが来ても────」


『……グルルルル』


「ははは、頼んで良い?」


 律儀に次元の穴から顔を覗かせて待っていたテオドールに下手くそなウィンクをしたところ、彼は『ウァウッ!』と小さく威嚇しながらアレキサンダー君の方へと向かって行ってくれた。


 実に頼もしい護衛。……ここまですれば安心だろう。


「……」


 流れるチャットが完全に一致したりする事はしないが……今は意思を一つにして皆、こう言っている。


《シツキ映せ》《しつきん映して》《早く行くぞ》……ってね。


「マジごめんな、皆。……しつきんさんの醜態はぜひ、あの子のアーカイブから確認してくれ。その場面だけ消したりしないでって言っておくからさ」


《は?》《なんで?》《は?》────流れる疑問の声。それも当然だ、ドッキリを仕掛けておいて肝心な……というか一番重要な、シツキちゃんの反応を配信に映さないんだから。


「あ、だからって『しつきん行くわ』とか言うなよ!?チャンネルはそのままで。濡れ透け美少女が見れねぇ代わりに────────ちょっと面白いモノが見れるかもしれねぇフェニよ」


 スマホ片手に、俺は振り向き────────



 ────────恐ろしいほど凶悪な気配の正体である、二人の人型の何かを視認した。


 片方。白髪の男。身長は俺と同じか、それより少し低いか。若く見えるが視線が野性的で、それ自体が凶器とも言えるほど鋭い。


 もう片方。見るからにヤバい女。もうだって、アレだもん。髪の毛が全部蛇なんだもん。深く考えなくたって分かる、男の方以上に……目を見てはいけないタイプのヤツだ。


 ────が、残念な事に俺は配信者。


 止まる事は許されない。


 ここで逃げるようじゃ半人前。


 ってか単純に……この意味不明な奴らを映せば、絶対に『面白く』なる!


「さーて、君達は何者フェニ~?」

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