第10話 今日の下層攻略はなんと、あの人と一緒です……!
「……ねぇ、リーダー」
「何か分かったかい?でも簡潔に頼むよ。もうすぐ彼の配信が始まるんだ」
「……殴るわよ」
ニコニコと顔を綻ばせながらフェニックスチャンネルの配信待機画面を見つめる日神カゲトラ。
彼の能力に関して知る事が出来るのではないかという好奇心、そして見たことがないほどに暴言と支離滅裂な言葉が飛び交うチャット欄へのカルチャーショックが彼を歓喜させていた。
「すごいんだよこのチャンネルは!人の悪意の集合体だ、感動が収まらない」
「……あのさぁ、結局こうやって配信見たりアーカイブ確認したりしてる時点でフェニックスに時間を割いている事にならない?全然間なんか取ってないじゃない」
「しかも、幹部である私達がやる必要なんて無くないですか?こうしている時間を使ってダンジョンで……」
「休息が必要って事だよ。79階の攻略を終えたすぐに80階に行ってもどうせ結果は散々さ。たまにはこうやってゆっくりしようじゃないか」
「……だったら休暇取らせなさいよ。家でゆっくりしたいわ」
「そりゃあほら、一緒に過ごした方が親睦も深まるだろ!」
「……はぁ〜〜〜〜〜ほんっと、リーダーと言い千水団の団長と言い……トップってなんで『こう』なんだろ。心底同情するわ、向こうの副団長には」
「流石にあのじゃじゃ馬と比べるのはよしてくれないかな…………っと、あれ?」
タブレットの端に現れた通知。配信開始に乗り遅れない事を祈り、カゲトラはそのメールを─────探索者協会からのメールを確認した。
(件名────『極秘事項』、か)
それから視線を下に移し、挨拶と建前を読み飛ばした後で……彼は目を見開いた。
「…………」
「どうかしました?リーダー」
「いや─────もうすぐ配信が始まると思うと、少し武者震いがしてね!」
笑顔を作って見せたカゲトラは、光の無い視線を再びメールの文面に落とす。
(……きな臭くなってきたじゃないか)
『新たに出現が確認された
…………一方その頃、千水団は。
「……は?は!?人型のモン────」
「ん?」
「……んっん”!チッ、普通こういう超重要な知らせって団長に送られてくるものだと思うんですけどね……」
「なんか言ったか?」
「あぁいえ何でも…………」
送られてきたメールの意味不明さと協会から伝わる重圧、団長と副団長という二つ分の責任がのしかかる胃痛を感じながら、才木シントは苦笑いで平静を保っていた。
ー ー ー ー ー ー ー
《は?》
《はよ説明しろ》
《うっそだろ》
《やっと配信するかと思ったらコラボかよ》
《これマ?》
《ガマ子に殺されるぞマジで》
《いつもの凸じゃないって事だよな?まじかよフェニ》
《どうなるんやこれ》
「……」
まぁこうなるか。シツキちゃんとのあれこれがあってから今日までの数日間……なんだかんだ俺は配信をしなかった。
そして今日、視聴者にとっては完全な予想外の形で配信をする。
「うっす……フェニックスです」
片手に持ったスマホで覆面を被った顔を移し、俺はダンジョンの中に立っている。
いつものように。変わらない配信の始まり。
「まぁ皆色々言いたい事はあるだろうけどね、俺は面白い事がしたいだけ。マジでそれだけだからあんまお前ら気にすんなって」
《日本モンスター愛護協会理事長は最強である。彼は地を踏破し、海を割り、天を抱擁し、その力は人間としての限界と同時に大気圏すらも突破し、やがて太陽を貫き、神は死んだ》
《氏ね》
《鎖鎌使ってください》
《日本モンスター愛護協会理事長は聡明である。彼はわずか4歳にしてダンジョンへ赴き、あまりに天才すぎたせいか、高度な知能を持つとされるユニークモンスター【
《く、さりがま》
《シツキちゃんとはもうえっちなことしましたか?》
いつにも増して最悪なチャット欄だ。モン愛コピペまで連投されてる時の配信はだいたい俺が何かやらかした時なんだよな。明確な悪意を感じる。
だがこれくらいで動揺していたらキリが無い。人気配信者なら気にせず進行するのだ。
「えー、改めまして。今回は……」
そして俺は指先を隣に立つ彼女へ向けた。
「人気配信者さんの蒔野シツキちゃんとコラボでーす」
《え》
《うっそだろwwwww》
《あ》
《ガチでしつきんなのか》
《は???》
《は?》
《予想してたやつおったな》
《堕ちたか、お前も》
《!?》
《しつきんコラボ!?》
案の定、反応は良くない。ネットでは半分冗談で『薪野シツキコラボだろ』とか言われてたけど、それが現実になってしまった驚きというか、困惑が大半だ。シツキちゃんのリスナーは俺と関わらないでほしくて、俺のリスナーはこれ以上シツキちゃんと仲良くしてほしくない。
シツキちゃん以外の誰からも望まれていないコラボ────だというのに、彼女は笑顔で挨拶をする。
「どうも!フェニリスの皆さん、よろしくお願いしまーす!」
「え、俺じゃなくてこいつらに?」
「あ!あはは、フェニックスさんもよろしくですー!」
言った瞬間に『しまった』と思った。俺の信者達は俺が誰かと馴れ合うのを強く嫌う性質があるから、今みたいな下らないやり取りはギルティ─────
《あ》
《あ》
《は?》
《フェ、ニリスはアウトやね》
《アウト》
《あ》
《フェニリス言うな》
「しょうもねぇ沸点だなこいつら」
だってやっぱりさ、リスナーに固有の名称あった方が人気配信者っぽくて良くない?なのに俺が提案した『フェニリス』はダサいとかキモいとか酷い言われようで、『こんフェニ』『おつフェニ』ぐらい定着しない。
「……あれ、ダメなの?でもフェニックスさんがさっきフェニリスって呼んでって言ってた気が……」
「よーし早速今日の企画について説明していこうか」
《は?》とが勢い良く流れるのを横目に、その中で一つだけあった……《なんでコラボしたん?》が目に付いた。
「そういえば言ってなかったフェニね、コラボの理由────」
────先日、学校にて。
『フェ、フェニとコラボか……それまたどして?』
『えっとね、フェニックスさんってきっと凄い強いじゃん?』
『あー、まぁそうっぽいよね』
『だから私、あの人から色々学びたいの!ギルドからの勧誘とか全部ピンと来なかったんだけど、きっとこの時のためだったんだって確信してる。フェニックスさんから吸収出来れば、私はもっと成長できる……!』
『……へ、へぇ笑すご笑笑』
正直ガチでドン引きした。
たまにいるんだよ、こういう激ヤバダンジョンジャンキーが。迷宮の奥深くに到達する事しか考えていない戦闘狂。ただシツキちゃんの場合は……なんというか、単に好奇心が人一倍強いだけの気もした。
配信者としては満点。……でも、この子はまだ高校二年生。同い年の俺が何言ってんのって感じだけど、俺とこの子じゃ話が違うからな。
そこで俺は────あえて乗ってみる事にした。
『……ドッキリの許可をするのはどう?』
『っていうと……どういう事だ?古鴉』
『過激なドッキリでも訴えたりしません、出来る限り協力します……こういう風に言ってみるんだ』
『なるほどぉ、交渉ってわけだね!』
『で、でもそれって所謂────ヤラセだろ?フェニがそんなのに乗っかるか……?』
『うん、だからこれはあくまで賭けだね。良い案が思い浮かばなくて悪いけど』
とか言いつつ、内心では究極的に良すぎる案を思いついてしまった自分を褒め称えていた。
何故ならフェニックスとは他でもない俺だから。俺が考えた案が何だろうと、俺が了承するんだから勝ち確定の試合。
『昨日はお世話になりました。薪野シツキです。突然のDMで申し訳ありませんが、コラボしませんか?』
少し想定外だったのはシツキちゃんが異常なほどに行動が早すぎる事。何が昨日はお世話になりました、だ。リーパーに殺されかけたのを微塵も気にしていないのか?
『こちらの交換条件ですが、どんなに過激でも良いのでドッキリしちゃってください!ぜひ!』
言われた通りに真っすぐ突き進むのはシツキちゃんの可愛いところでもあるが、やはり危なっかしい。
────だから灸を据える。
俺は彼女の希望を承認し、そして準備をした。
…………ヤラセである分、面白くなくてはいけない。そうでなきゃ配信者失格だ。同時にシツキちゃんを懲らしめて、もう俺に付きまとわないようにする。
これが俺なりの、俺の視聴者への信頼の見せ方だ。
(待ってろよ信者達。すぐにグレートスライムに拘束された透け透けシツキちゃんを見せてやるからな……!!)
ー ー ー ー ー ー ー
「あァ~~クッソ、どういう
ダンジョン内。
血だまりの中に男は立っていた。
……が、散らばる死骸はモンスターのそれではない。
────────さっきまで探索者として活動していた、人間の肉だ。
「聞いてた話と違ェ!!地上に近いとは言えこんな
「────汚い、散らかすの、やめて……犬」
「あ?」
肌の白い、囁くような声で少女が白髪の男を諭す。
────蠢く彼女の頭部の生命達も、静かに彼を睨んでいた。
「時間、よ……【
「んなこたァわーってんだよ【
二人は────────探索者協会が公表している『未討伐ユニークモンスター』の中に名前が記載されているその二体の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます