第7話 アーカイブ:【雑談】俺の正体突き止めようとダンジョンの入り口に張り込んでる奴らアホすぎワロタ
「さ、しつきんさんは逃げて─────って、アレ?」
振り向いた背後の階段には既に誰もいなかった。勢い良く階段を上る音が響き、俺は何とも言えない気持ちでガマ子の方に向き直した。
「やると決めたら行動早いフェニね、あの子」
「どーでもいい」
「あぁそう……ッ!」
ガマ子に視線を戻した瞬間、階段の方向へ投げられた鎌。咄嗟に鎖を掴んで勢い良く引っ張ると、鎖の先に付いている鎌が戻ってきた。
「おっと、強く引っ張りすぎた」
高速接近する鎌は腹部を切り裂き、古鴉キョウマの肉体は綺麗に真っ二つになってしまった!……まぁ、すぐに再生するんだけど。
「……やめて。いじわるしないで」
「え?」
「アタシ、フェニを傷付けたい訳じゃないんだが。すぐ治るからって自分を……雑に扱わないで」
「身体が真っ二つになるなんてよくある事。気にすんなよ」
「……でも」
「っつーか、その思いやりを俺以外にも……具体的に言うとしつきんさんにも向けてほしいんだけど、無理そう?」
「それはむり」
殺そうとしてるだけあって、彼女の事を話しても何も通じなそうだ。食い止めるだけじゃなくて最終的にはこいつに人殺しをやめさせなきゃいけないんだけど、シツキちゃんが可哀想って説得の仕方は無理だな。
「まずさぁ、なんでこんな事するわけ?」
「時間稼ぎなら聞くつもり無いんだが」
「単純に気になっただけ。俺ら……今まで非人道的行為で金稼いできたわけだけどさ、人殺しだけはやってなかったじゃん」
もちろん、そんな事すりゃ一発アウトでムショ行きだしな。
ガマ子はモンスター討伐中に流れ弾ならぬ流れ鎖鎌を探索者に当てたりしちゃってるし普通に傷害罪にはなると思うけど……何せ、こいつは強いからな。
数少ない下層後半到達者の一人─────そんな逸材を探索者協会が、というかこの国が見過ごすわけがなく。ガマ子にやられた時は、ガマ子の配信が始まると近くの階層に協会が回復系ジョブの探索者を派遣するから、申請すればすぐ治療してくれる。
「『暁月の宝珠』の精鋭メンバーぐらい、お前の価値は高い。なのに築いた立場崩すのか?人殺しなんかで」
「それフェニが言う?」
「……」
「人助けなんかしてさ、どうしちゃったのって感じ。正直、昔の尖ってたフェニの方が好きなんだよな。最近も面白いは面白いんだけど、何か物足りない感じがあって必死さが無くなったのが分かっちゃうんだよな」
あまりにもだるすぎる。なんで俺なんか相手に厄介オタクムーブが出来るんだよ。
「……いや、待て」
俺はガマ子の背後に浮かぶ─────魔導ドローンのカメラと目を合わせた。
これはチャンスだ。ガマ子の高い同接を活かし、俺のイメージを回復させるためのチャンス……!
「聞いてくれ、ガマ子も……普段は俺の配信荒らしまくってる臭鎌の皆も」
今度はガマ子を真っ直ぐと見つめて、出来るだけはっきりと声を響かせる。
ちなみに『臭鎌』というのは鎖鎌公式チャンネルのリスナーの事だ。ガマ子の配信タイトルが『臭い鎖鎌、クサイカマ』という絶望的につまらない一文だった期間が一か月ほど続いた事があり、それが由来のしょうもない連中。
「俺は、ただ面白い事がしたいだけなんだ」
「……それは分かってるが」
「善悪とか関係無く面白い事を。俺が面白いって感じる事を。……蒔野シツキを死なせるのは面白くないと思ったんだ……ただそれだけ」
「……」
「隠して助けようとしたのは悪かったよ。でも、ちょっと……恥ずくてさ!な!?」
俺は勢いのままガマ子に歩み寄り、そのまま肩を掴んだ。
「ちょっ、ち、ちち近いんだが……っ」
「俺ら、顔出ししてないじゃん!?お互い恥ずかしがり屋だし気持ち分かるよな!?」
「わわ、分かったからぁ……血で臭いと思うし、離れてよ……」
好意を利用するのは人道的に良くないが、既に人の道からは外れた俺はフェニックス。鳥は鳥の道を歩むのさ。
「よしっ、これで一件落着……だよな……?」
息を呑みながらスマホでガマ子の配信のチャット欄を確認し───────
《あ》
《あ》
《クズ》
《あ》
《鳥4》
《あーあ》
《鎖鎌公式チャンネル唯一の弱点》
《やっぱフェニゴミやわ》
《鳥4》
(よっしゃーっ!とりあえず臭鎌は大丈夫か……!)
鎖鎌公式チャンネルのリスナーも実質俺のリスナーみたいなものだからな。初めてガマ子と会った時に登録者が爆伸びして、チャットが10倍くらい荒れるようになったのは今でも忘れられない。
「……だけど、良かった」
「ん?」
「フェニが変わっちゃったんじゃないかって思って……でも違かったから。アタシはもうそれで……」
「……俺は変わらんフェニよ」
そう──────こいつも、ガマ子も立派な俺のリスナーの一人。
ドキドキするような配信を楽しんでほしいけど、不安にはなってほしくない。それが俺流エンターテイメントだから。
ー ー ー ー ー ー ー
フェニックスチャンネル、鎖鎌公式チャンネルの素顔は両名とも不明である。
覆面とペストマスクを配信中に外した事は無く、過去に顔を出した配信活動をしていたのではないかと調査する者もいるが、声や外見、実力が該当する配信者はいなかった。
加えて、ダンジョン以外での目撃報告も無い。地上での彼らの形跡は、全くの無なのである。
だが……彼らが主に活動する『東京ダンジョン』への入口は一つだけ。入口に張り込めばダンジョンから出た所を目撃出来るはずなのに、本当にそんな事が有り得るのだろうか。
一体、フェニックスチャンネルと鎖鎌公式チャンネルはどのようにして姿を隠し続けているのか?
……前者の回答は、『隠し通路を使用している』である。
───────下層、72階にて。
「うーわ、ガチでピラーデビルの死体だらけだな……ガマ子のやつ、やりやがって」
覆面の男……フェニックスこと古鴉キョウマは、あまりにも大量すぎるが故にダンジョンが吸収しきれていない死骸を踏み越えながら、72階を進んでいく。
……死骸の中に埋もれている、目玉だけを拾いながら。
ピラーデビルは72階に設置されている複数の柱に描かれた化け物が実体を持って顕現してくる形で発生する特殊なモンスター。その姿は数十種類にまで至るが……全ての種類に共通しているのが、等しく目玉を素材として残す事だ。
「ま、いつもの目玉集めの手間が省けるのはありがたい」
しばらく歩いた後、彼が立ち止まったのは……狭い通路の壁の前。
「ほいっと」
アイテムボックスから取り出したナイフで人差し指を切り裂き、溢れた血液を壁に押し付けると────ガコン、と音が鳴り、小さな円形の穴が空いた。
「でも、この目玉を入れてくだけの作業もめんどいんだよな~」
再びアイテムボックスを使用し、拾い集めていた目玉────計『37個』を穴に放り込む。
「ふぅ、今日は一段と疲れた……」
一息つき、彼が覆面を外そうと手をかけた瞬間────────足元が光り輝く。
それぞれの階層の最初の階にあるものと同じ、転移魔方陣の光だ。
「よいしょっと」
光に包まれる中……彼はマスクを脱ぎ、古鴉キョウマとしての素顔を見せる。……何故ならそこには彼一人しかいないから。魔方陣によって転移した場所は────さっきまでいた72階から、もっと言えば東京ダンジョンから離れた場所だから。
転移した先は燃え盛る祭壇だった。黄金に輝く壁と床、絶えず燃え続ける赤い炎。
「ふわぁ~ねみぃ」
キョウマは慣れた様子でその空間を歩き、扉を開け、出ていった。
「────ただいま」
そして、誰もいない
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