第6話 アーカイブ:なんか『日本炎上系ダンジョン配信者三巨頭』とかいうグループにいつの間にか所属していた件について
『日本炎上系ダンジョン配信者三巨頭』────それはつまり、ゴミの中のゴミ。炎上系配信者の中でも最も悪質な三人だ。
……と言っても、そもそも危険がそこら中に潜んでいるダンジョンの中で迷惑行為を働く命知らずはかなり少ない。その少ない中で、活動を辞めずに悪質行為を働き続ける猛者……その三人のアクが強かった、ただそれだけだ。
一つ、『フェニックスチャンネル』。登録者数は約70万人。言わずと知れた最悪の性格を持っている男で、他人のささやかな不幸をコンテンツとして昇華させ、人間の中に潜む悪意の発散の代行者という立ち位置を手に入れた。
────特筆すべき点は、彼の戦闘能力。配信ではあまりモンスター討伐を見せないフェニックスだが、アーカイブでは削除された場面でいくつか……彼の『不思議な力』を確認する事が出来る。
二つ、『日本モンスター愛護協会広報部』。登録者数は約32万人。ダンジョンに潜む生物、『モンスター』を探索者達から守る事を目的としている団体の広報チャンネル。モンスターを愛でるだけの心温まる動画から、モンスターを襲おうとする探索者に攻撃する過激な配信まで、モンスターのためなら手段を選ばない危険な団体とされている。
────特筆すべき点は、そのチャンネルをメインで動かしている人物が……協会の代表である『理事長』だという事。モンスターを統べる力を持つ彼が直々に探索者達に鉄槌を下す姿が配信では多く確認されている。
そして三つ、『鎖鎌公式チャンネル』。登録者数は約94万人。『呪い』と呼ばれる、装備した瞬間に探索者に付与されるデメリット効果が着いた装備を全身に装着している女性がひたすらモンスターを狩り尽くすチャンネル。装備を外せない呪いにかかっており、そのせいで『鎖鎌』という誰も使わないような武器でダンジョンを攻略しなければいけないのだが、探索者達を巻き添えにしながら血塗れの鎖鎌を振り回す彼女にはカルト的人気が集まった。
────特筆すべき点は…………一つ。
フェニックスチャンネルのフェニックスに、彼女が殺戮しているモンスターと同じくらい大きく、全く別方向の執着をしている事だ。
ー ー ー ー ー ー ー
「が、ガチ恋厄介信者って……」
「しつきんさんも分かるだろ、配信者ならさ。理由を説明してる暇はない、今はとにかく……逃げるフェニよ!」
ガマ子の配信画面からわずかに見えた『ピラーデビル』というモンスターの死骸。ピラーデビルは72階にしか出現しないという特異な性質を持つモンスター……つまり72階から上がって来ようとしているのはほぼ確定。
俺達の目標はガマ子に追いつかれる前に61階に辿り着き、転移魔方陣を起動して逃げ切る事。ダンジョンから出て地上に戻り魔力の無い空間に出れば、俺達は一般人に元通り。シツキちゃんは心配したリスナーに出待ちされてるだろうし、大勢相手にただの女性と化したガマ子が何か出来るとは思えない。
とは言っても────ここはスライム蔓延る68階。ただ急ぎたい一心で走ればさっきのシツキちゃんみたいにスライムの素材や吸収しきれていない死骸で足を滑らせてしまうかもしれない。
「……しゃーないか」
前方に広がるスライムの素材に対し、俺は────少し控えめに黄金の炎を灯す。
「あ、あれ?なんか、周りのスライムが……蒸発?して……」
「炎魔法系スキル使ったフェニ。回収出来なくてもったいないフェニが、許してくださいよ」
「それは別に良いんですけど……こんな色の炎魔法なんてなかったような気が」
「あーこれ体質フェニね」
「体質!?体質で魔法の色って変わるんですか……?」
「いやマジだよマジ。リスナーに聞いてみれば?」
「……あの、皆こう仰ってますけど」
走る態勢を整えて、俺の隣に並んだシツキちゃんがスマホを突き出してくる。
《んなわけあるか》
《違いますね》
《魔法の色が変質したりする事なんて聞いた事ないですけど?》
《なにいってんのこのひと》
《これユニークスキルか?》
「冗談が通じないなぁアンタのリスナーは!!」
もう減ったとは思うが、約30万人の前でこの炎を見せてしまったのは……痛いな。
だが、その分走りやすくなったのはデカい。実際、こうして────────
「着いたッ、階段……!」
67階への階段。この調子で上っていけば……。
「まだ状況が呑み込めませんけど、とりあえず一安心なのかな……?」
「……いや、駄目だ。このままじゃ追いつかれる」
「えっ!?」
俺は鎖鎌公式チャンネルのアーカイブの概要欄を開き、さっきまでアイツがどの階で狩りをしていたのかを確認する。
『きょうは72階のきぶんです』
「……やっぱり72階か。クソが、なんで……いやそうじゃなくて。アイツは72階から68階まで4階分上らないといけないんですが……鎖鎌公式チャンネルともなれば、それくらい一瞬なんですよ」
「ど、どういう……」
「しつきんさん、61階からこの68階に来るまで、モンスターに遭遇しましたよね?」
「はい、普通に……」
「おかしいと思いませんか?いくらダンジョンが無尽蔵にモンスターを生み出すと言っても、『モンスターを狩り尽くす』鎖鎌公式チャンネルが既に通過した階で、しつきんさんは普通にモンスターと戦っていた」
「あっ!確かに……スライムラッシュだって、私結構倒しましたよ」
「そうフェニよね。この謎の答えを言っちゃうと、ガマ子は目的の階に辿り着くまではモンスターを倒さず……というか倒す時間が無いんです」
「時間が無い?」
「そう────アイツは呪いの装備によって強化された脚力のおかげで、一瞬にして階を移動出来る。高速移動中も鎖鎌ブンブン振り回したりはしてるけど、それが当たったり体当たりでぶつかったりとかが無きゃ、道中のモンスターがアイツに殺される事は無いフェニ」
普通に階を移動しながら倒してけば良いのにわざわざ決めた階で狩りをするのは……確か、アイツなりの理論があった気がするな。なんだっけ。
「え…………ちょっと待ってください、じゃあなんで今こんなにゆっくり話しちゃってるんですか?」
「ん?」
「階を一瞬で移動出来るなんて、そんなに速いんだったら────」
「そうフェニね。なんならもう68階まで来てるかもしれんフェニ」
「えぇええ!?どっ、どうすれば────」
「あぁいや!全然大丈夫フェニ!むしろ無駄に心配させすぎちゃったわ」
冷静に考えれば、この戦いの勝利条件はシツキちゃんを逃がす事のただ一点なんだ。
つまり────俺は逃げなくて良い。
「俺はここでガマ子を迎え撃つ────────」
……刹那。
前方から接近する影。ボロボロのローブと周囲を舞う鎖。厨二心がくすぐられるペストマスクに身長ほどある紺色の髪。
そして手に持った────鎌……が、接近して────。
「ッ!!っぶねぇなぁオイ!!」
「ふぇ?」
ポカンと口を開けるシツキちゃんの顔の数センチ前方。
────彼女の首を引き裂こうとする鎌を、俺の手が盾となって受け止めていた。
「ふ、フェニックスさん!?てっ、ててて手が……っ」
「ビビんなって。さっき肩からグッサリ斬られて────こうやって治ったの、見ただろ?」
ガマ子が鎌を引き抜いた瞬間、縦に裂かれていた俺の右手は傷一つ残さず修復され……ってやべ、シツキちゃんの配信がまだ続いてるんだっけか。
「とりあえずさっさと逃げるフェニよ、しつきんさん。ここは俺が食い止めるからさ」
「……ふふ、なにその死亡フラグ。似合わないんだが」
マスクの中から聞こえた声の通りお手本のような死亡フラグを立てたところだが、だが。だが!その死亡フラグ、誰が立てたと思っている。
「はは!何せ俺は────」
「フェニックスチャンネルのフェニックス、ってね。でもすまんけど……」
縦横無尽に回転する鎖と、その先に繋がれた分銅。しかし鎌の先端は常に俺の方を……いや、シツキちゃんの方を向いていた。
「死なないのはフェニだけ、でしょ」
「……上等だ、かかってこいよ」
俺達はダンジョン配信者。曲がりなりにも探索者。だが何故か、いや当然と言うべきかもしれないけど……モンスターよりも人間と戦う事の方が多いんだよな、これが!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます