第3話 【謝罪】本当に申し訳ございませんでした
「うーっす……」
《リコケンチャンネルを救いたい》
《ふぇにいいいいいいいいいい》
《はいBAN》
《謝罪配信キター》
《こんにちは!》
《今日は何するんや》
湿った空気のダンジョンの中、約1分前に開始した配信画面とコメント欄を見ながら、問題なく動作していることを確認する。
普通、俺のような炎上系配信者は事前から告知して予定した時間に配信……とかはしない。何故なら……ダンジョン配信というのは現状では昔に東京に現れたこのダンジョンで主に行われるため、俺の悪行を阻止しようとする正義の味方(笑)達が何人か来る。大手のギルドの職員とかもたまに来るし良い事なんて無い。
昨日は配信内容が他人に迷惑をかけるものじゃない(少なくともタイトルでは)だったから珍しく告知しただけだ。
「今日は……謝罪配信です」
《きた》
《許しそう》
《まだ許さない》
《ダンジョンの中でする事じゃないだろ》
《お願いします、鎖鎌使ってください》
《許さん》
カメラを床に置き、覆面で見えないが少し神妙な顔で正座しておく。
「この度はリコケンチャンネル様の配信にオークロードの肛門を映してしまった事で、えー、彼らを一定期間の配信停止に追い込んでしまい、誠に申し訳ありませんでしたぁ」
《まだ許さない》
《白々しすぎるwwwwwww》
《言葉にすると本当に酷くて草》
《鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!》
《ちゃんと床に頭付けろ》
下げた頭をゆっくりと上げ、視線をコメント欄にやった後……俺は両手で顔を覆う。
「本当に……申し訳なくてぇ。こんな事するつもりなかったのに……こう言っても言い訳にしか聞こえないと思うんですけどぉ、本当に自分そんなつもりなくて……もう申し訳なさすぎて……!」
《;;》
《許す》
《そうだったのかよ……》
《しゃーない》
《許す》
《ったく……水くせーな、もっと俺らを頼れっつーの……w》
《許す》
《本当にリコケンに申し訳ないと思っているならもう活動をやめてください。それが他のダンジョン配信者さん達のためにもなりますし、善行をするなら今しかないと思います》
《元気出して》
適度な時間を作った後……俺は両手をパシンと太ももに打ちつけ、姿勢を正してカメラを真っ直ぐと見つめる。
「なので反省として……」
《ん?》
《ん?》
《BAN》
《引退か?》
《ん?》
「人気美少女配信者、薪野シツキちゃんに突撃していきたいと思いまああああああす!!」
スマホを持ち上げ、勢いよく飛び上がりながら覆面の顔をドアップで映す。
《きたあああああああああああ》
《は?》
《wwwwwwwwwwww》
《フェニきたああああああああああ》
《不 死 鳥 の 舞》
《しつきんマジかwwwwwww》
《きっしょ》
《薪野シツキついにか!》
《どうなるんだこれ》
「えーっとまずはシツキちゃんの配信を確認していきますわ。今日の内容どんな感じなんだろ、配信してるって事しか知らんのよな」
─────学校にて。
『え、シツキちゃん今日配信するの!?』
『うん、夜からするつもり』
『何やるの?気になる!』
『まぁまぁ……後で待機枠作るからお楽しみ!そんな特別な事はしないけどね』
とまぁ、盗み聞きだけが情報源だ。一応告知してたのは確認したから、配信しているはず─────
『うーん、やっぱり下層はちょっと雰囲気が怖いよね……』
「……なるほど」
リコケンは上層にいたから介入が楽だったが……下層と来たか。
《あ》
《まずい》
《下層!?》
《死ぬやろこれ》
《しつきんは結構下層配信しとるで》
《しつきん……w》
《しつきんきつい》
《下層は甘え。幽層行け》
1階から30階までの上層、31階から60階までの中層、61階から90階までの下層、そして公式記録では91階までしか確認されていない幽層……って感じでダンジョンは下に行くほどモンスターは強力になり、見つけられる財宝は価値が高まり、『レベル』が上がるのも速くなる。
上層は学生でも雑魚モンスターなら倒せちゃうほど簡単。が、ボスがそこそこ強いから中層以降は人が一気に減る。下層ともなれば────ソロで攻略出来る奴はだいぶ限られてくる。
『わ〜、でっかいスライム出てきた!頑張るぞ……!』
「……ようやるわ、一人でこんな」
《ブーメラン刺さってるぞ》
《嫉妬か?フェニも下層行けな》
《一人で誰よりも馬鹿な事してるのはフェニなんだよなぁ》
《薪野シツキガチで強くて草》
《これ高校生マ?》
《お前の方がようやるわ》
《アンチ乙、フェニは下層とか余裕です》
「下層ね〜、うーん。まぁ─────今俺がいる場所も下層なんだけど」
一瞬の静寂の後、コメントが加速する。
《激アツ》
《さすフェニ》
《ストーカー?》
《鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!》
《死ぬなよ〜!》
「ストーカーじゃねえって。あれだよあれ、仮にシツキちゃんの配信場所が下層じゃなかったとしても、下層から中層と上層に向かう方が精神的に楽じゃない?だからここ、下層61階まで転移魔方陣でね」
《下層ってそんな軽々と行っていいもんなのか……?》
《まぁ分かる》
《フェニは中層突破済みだったしな》
《それはそう》
《下層行けた事ない奴もなんか言ってます》
有名配信者を妨害するためには、ソロでの下層攻略が必須だ。これぐらいは当然の技術なんだよな。と言っても、各階層の最初の階……上層1階と中層31階と下層61階と幽層91階は転移魔方陣で繋がっている。もちろん、一度自力で到達してボスモンスターからアイテムを入手しなきゃ使えない仕組みになってるけど。
《凸って何すんの?》
《凸るだけ?》
「お……初見さんも結構多いみたいか?じゃあ説明していくフェニ」
シツキちゃんの配信とマップを確認しながら足を速める。
「基本的には他の配信者さんの所に行って……弱ったモンスターのトドメを俺が刺して素材横取りしたり?後はテイムしたスライム投げつけまくったり?色々あるけど出会った時の気分で決めるフェニね」
《いやゴミで草》
《はよしね》
《テイム!?》
《てか語尾キモすぎやろ》
《嘘乙w隷従の杖が無きゃテイム出来ないの知らないのか?ww》
「ん、杖?あー……貰ったんだよね。その過程は動画にしてるんで良かったら見てもらって」
《初見はROMってな》
《隷従の杖貰うってどういう事だよ!?激レアアイテムだぞ》
《アレは神回すぎた》
《薪野シツキ効果で人増えてんな》
同接は……2.8万人。まだシツキちゃんと出会ってすらいないのにこの人数とは……期待出来る数字だ。
「んじゃ、せっかくだしスライム投げつけコースで行きましょうかね〜!あの子おっぱい大きいし……もしかしたらもしかするかもしれないフェニね」
《うおおおおおおお》
《濡れ透け……ってコト!?》
《通報しました》
《スライムキターーーー》
《シツキ豚共も録画の準備しとけよなww》
『ふぅ〜……とんでもない連戦だったよぉ』
ふとシツキちゃんの配信を目に入れるが────彼女の周囲には大量のスライムの死骸が散乱していた。
「まさか……これ68階のスライムラッシュじゃね!?あそこまで行けたのは……マジで強いな」
シツキちゃんの戦闘スタイルは長槍に魔法で属性を付与して戦うというものだった。いわゆる【エンチャント】系スキルだな。しかし……多種多様のスライムが一斉に襲いかかるあのエリア、スライムラッシュを切り抜けたという事は状況に合わせて的確に属性を変更し、柔軟に立ち回る余裕があるという事。
……たった一人でそれをこなしているというワケ。
《つんよ》
《あそこでワイ死んだんよな……満足して逝けそうやわ》
《ん?》
《なんか来てね》
《なんだこいつ》
「……あ?」
コメントに釣られて周囲を確認するが、誰もいない。俺が今いる場所は61階でも隅っこの、かなり人気の無い場所なはずなんだが……いや、違う。
コメントが言っているのはシツキちゃんの配信の方だ。
『……え?』
恐らく彼女も魔導ドローンのような高級品を使っているのだろう、シツキちゃんと同じ高さからの『それ』を正確に捉えている。
『嘘、でしょ────』
「……マジかよ」
配信画面に映ったのは、ボロボロの黒いローブを纏う……恐らく人型の実態。赤黒く染まった大鎌を握るモンスターと言えば……奴しかいない。
《【
《マジか》
《幽層以外に出てくるっけ》
《いやこれ本当にやばくないか》
モンスターの中には……あまりにも強大な力を持っていて、一体だけしか確認されていない『ユニークモンスター』と呼ばれる存在がいる。
【
そう、まさに『死』そのものとも言える存在に……薪野シツキは今、直面していた。
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