第2話



「――大事なもの?」


りゅうは困って首をかしげた。

明日には立つと法師に伝えると、法師は意外なことに頼みごとをしてきた。

探し物を手伝ってほしいと。


「探しにいくのはいいけど、どんなものですか?」

「丸い、透明な石だ」


法師はぼそぼそと喋った。


「青く透き通った、手のひらくらいの大きさの石だ。あれを村に忘れてきてしまった」

「わかった!丸い、透明な青い石だな!おらにまかせとけ!」


りゅうはどんと胸を張り、法師の手を握った。


「法師さまは、おらのこと見守ってくれたんだ。お安いご用だよ」


朗らかな笑顔のりゅうに、法師は無表情で見下ろした。握り返した手の力は、案外と優しいものだった。


翌日、りゅうはさっそく村へ向かった。村までは、沼の外縁を歩き、坂道を上った先にある。

沼から水を引き、田畑の用水にしており、石垣に段々と狭い稲田が連なっている。

りゅうはこっそりと森の中を抜けた。りゅうは流れ者の人間だ。余所の村には良い顔をされない。

夏の森は虫だらけだ。足元にはまむしもいる。蚊にたかられながら、ずんずんと坂の頂上までたどり着いた。

何かの建造物だった朽ちた木片を乗り越え、りゅうは奥へ進む。

すると木陰の向こうに木造の屋根が見えた。


「……倉?」


木造の倉は、苔むした屋根を乗せて緑に覆われていた。扉を押すと、なんと開いている。

これ以上は入れない、とりゅうは足を止めた。

ここは沼のほとりの村の裏手だ。余所の村の家屋に勝手に入れば、盗人と見られかねない。

ぽお、と倉の奥で光が見えた。


(あれは……)


りゅうは魅入られたようにふらふらと倉の中へ入っていく。

ほこりまみれの蓋をあけると、中には小さな丸い石が光を放っていた。りゅうは思わず呟いた。


「きれい……」


ほのかに雨の匂いが鼻をくすぐる。夏の深い海のような、紺碧に優しく輝いている。

美しさに見とれたりゅうが、石に手を伸ばした。


「よくやった」

「ひいっっっ!?」


耳元で男の声がした。驚いて身体がはね、手で石を打ち払ってしまった。

石はころりと転がり、倉のがらくたの奥に入り込んでしまった。りゅうは慌てて手を伸ばし探る。


「あれ?ここに入ったのに」


あんなに光っていればすぐにわかるはずなのに、光は収まり、倉はもとの薄暗さに戻ってしまった。

いくら隙間に潜っても見つからず、りゅうは外にでて草むらを探した。

あの男の声、法師さまにそっくりだった。もしかして一緒に来ていたのだろうか。

心細くなり、法師の姿を探す。


「法師さまー?いるんなら、返事してくれ」


返事はない。蝉の泣き声と、風の音が聞こえるだけ。昼はとうにすぎて、日は傾いている。

なんだか薄気味悪くなって、りゅうは立ち上がった。一旦戻って、明日の朝、明るいときに探しにこよう。りゅうは草むらをかきわけ、来た道を戻った。

寝床にも、法師はいなかった。

釈然としない気持ちで、水と木の根をかじり、眠りにつく。

法師さま、来ているなら教えてくれてもいいのに。

りゅうがうとうとしかけたその時、葉擦れの音がした。


「……なんだべ」


熊か狼か。りゅうは起き上がると、音の方向を見た。すると、まばゆい光が目に飛び込み、りゅうの視界を潰した。


「うあ――」

「いたぞ!昼間の娘だ、間違いない!」


あまりのまぶしさに目が眩む。顔を背けるりゅうの腕を、誰かが掴む。


「さあ、もう逃げられんぞ盗人め。宝をどこに隠した?」


りゅうの頭は真っ白になった。







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