5:人の貞操を探ると書いて……

 不気味の谷の消失——「架橋効果」が築く新時代への架け橋——


 そう題された記事は彼女が言った自動車事故の例えから始まっている。


“感情生理学の第一人者だったキリタニ・啓示の最も偉大な功績は架橋効果の実証である。それは社会から憎しみを根絶して理想の社会を実現すると謳う国家プロジェクトへと発展した。”


 ここまではワタナベの説明と同様だったが、興味深い内容が続いていく。


“発足したブリッジ機関のトップは当然、キリタニ・啓示だった。しかし機関発足の前日、機関本部へと続く橋から転落死。他殺とも、自らに実施していた架橋施術の副作用によって自殺したとも噂された。代わって初代所長になったのは、元はキリタニ・啓示の助手だったワタナベ博士だ。それ以来、ワタナベは現在もブリッジ機関のトップを務めている。

 機関発足の直前、つまり死の直前のキリタニ・啓示はひとつの論文を発表しようとしていた。発足式で発表することになっていたが直前に死亡、論文やそのデータが発表されることはなかった。この件について機関へ問い合わせたが回答は得られなかった。”


 臭うな。

 記事を机の上に放り投げながら思う。

 探偵の仕事は全て人間関係に端を発する。ドロドロした人間ドラマを嗅ぎつけてしまうのは職業病だ。人の貞操を探ると書いて探偵だから仕方がない。

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