平穏な日常

俺の名前は信玄


とある県の児相に就職し仕事をしている

はぁ……

これは今すぐにでも記憶を消して帰りたい話だ

数年前だったか

俺はあらゆる事案を纏めたり資料を用意したりする仕事をしていた


そんな感じでいつも通り仕事をしていたとある時


「よぉ信玄、仕事の調子はどうだ?まぁそんな事は問題ではないが、」

「大丈夫ですよ、仕事にも慣れましたし、」

「そうか、それは良かった、それならこの事案を対応してもらいたいんだが出来るか?受けてくれたら人事評価に加えておくよ」

「はい、ぜひやらせてください」

「うむ、良いだろう」


俺の上司

高松さん、

俺が新人の時からずっと気に掛けてくれ仕事をくれるのだ


「内容は……」

そんな高松さんからもらった事案の資料を見てみる


「子供の放置か……」

5歳の子供を外に放置して居るというものであり

病院での診察では子供の体に複数の傷があると言う物だ


正直子供を外で待たせるのはよくある事だし見た感じそこまで長い時間出している訳でもない、

それに5歳の子供だ、遊んで転んだ時に出来た怪我だろう


俺はそう断定し

保護を保留、一応の観察対象として高松さんへと提出した


「良く出来てるじゃないか、上出来だよ、この調子で頼むよ信玄」

「有難うございます、これも高松さんの指導あってこそです」

「ハッハッハ、悪い気はしないな、それじゃ後はこの資料をまとめて倉庫に持っていってくれるか?」

「はい!任せてください」


俺は自分の仕事を終わらせると高松さんや同僚の仕事を手伝ったりして過ごしている


そしてあの事案を任されてから数日が経ったある日


「よぉ、諏訪今日はどうしたんだ?」

諏訪は相談員をしていて良く俺達の部署に事案を持って来てくれる

今日も彼女は事案を持ってきたようだ


「この事案あんたのでしょ?相談来たから渡そうと思ってね」

「ん?またぁ?」

「らしいよ、今度は太ももの数カ所に痣だってさ、これはヤバイんじゃない?」

「確かになぁ……でも年頃だしよくある事な気もするけど……」

「その他にも体のいたる所に異常があるって病院から来てるけど、虐待の可能性もあるんじゃない?」

「う〜ん……まだ確定している訳ではないからな、まぁ1次保護申請は出しておこうか」

「んじゃ、私は仕事があるからじゃね〜」

「うい」

俺は諏訪と別れ高松さんに書類を渡す


「結構ヤバそうな事に成ってるな、」

「まだ何も分かっていないので保護して本人から何か情報を引き出す必要がありますね」

「そうだな、保護申請を出しておくよ」

「ありがとうございます」

「それと、子供の対応もお前に任せたいと思っている、頼めるか?」

「もちろんです、任せて下されば必ず何とか致しましょう」

「それは良かった」


それから数日後

事案の子供を保護する事になり

迎えに行く


「すみません、児童相談所の者ですが」

そう言い子供の住むアパートの扉をノックする


すると

「はい、準備は出来ています」

母親らしき人物がドアを開け

後ろには少女が俯いて立っている


「お迎えに来ました」

「はい、娘をよろしくお願いします」

「おまかせください、それじゃ行こうか嬢ちゃん」

子供は俯きながらも歩き外へと出る


俺は子供と手をつなぎ用意してあった車へと運び込む


「それじゃあ今からお兄さんと一緒に行こうか」

「……」

子供は喋ることはなく荷物を握っている

俺は気にする事はなく車を進め

保護施設へと連れて行く


「来たのね」

「あぁ、今回ははこの子を預かって欲しいんだが」

「了解」

「頼んだぞ馬場」

「えぇ、それが私の仕事だもの」


馬場は保護施設で医師をしている

俺はそんな馬場に子供を預け職場へと戻る


「只今戻りました」

「おぉ、ご苦労さん」

「高松さん……」

「保護なんて初めてだろうから大変だろうけど何かあったら聞くといい、力になれるだろうからな」

「ありがとうございます!」

「部下後輩も育てるのも上司の仕事だからな、」


高松さんの言葉は俺を救っている

これまで失敗も多くあり大変な事もあったが高松さんの激励やアドバイスにて何とかここまで成長する事が出来たのだ


「それじゃ気合入れろよ、」

「はい!」


俺は高松さんに励まされ

より一層やる気を出す事となった


あれから数日した後

保護施設へと足を運んでいた

定期的な情報交換である



「どうだ馬場、何かあったか?」

「えぇ、提出した書類を読んでくれると助かるのだけど」

「虐待か……」

「日頃から殴る蹴るの暴行を受けていた様ね」

「怯えている様子は無かったしそこまで気にする案件でもない気がするな」

「まぁ、子供の妄言の可能性もあるしね、もう少し、後3日だけ様子を見たら保護を解除しましょうか」

「それが良い」


俺は馬場と別れ高松さんへと書類を渡す為職場へと戻る


「まぁ良いんじゃないか?確定的な証拠も無いわけだしな、」

「ありがとうございます」

「そう言えば君の評価が上でうなぎ登りだよ」

「そうなんですか!?」

「そんなに若いのに事案を適切に対応出来ているとね、誇らしいよ」

「これも高松さんの指導あっての事です」

「ハッハッハ、これからも頑張ってくれ」

「勿論です!」


3日後子供は親の元へ帰され

事案も終わると思われた

しかし……



「おーい信玄、」

「なんだ諏訪?」

「病院からあんたの担当する子供が怪我してると通報を受けたよ」

「またぁ?おけ、確認するわ」

「頼むわ〜」


俺は諏訪から受け取った書類を確認する

内容は太ももに数カ所の痣と内出血、親からの暴力を訴えているとの事だ


しかし母親に事情を聞きに行った職員曰く保護施設の居心地が良くてそう言ってるのではないかとの事だ

個人的にもその可能性が高いと感じている

遊び盛りなんだ、怪我すること位はあるだろう

それにその家族は地域での評価が非常に高く虐待なんて到底信じられるものでは無い


「保護は見送りにして様子見かな……」

「おっ信玄どうした?」

「あの事案で病院から通報があったので……」

「ふむ、なら親に毎週のここへの行き来を要求すれば良いんじゃないか?」

「確かにそれは良いですね」

「困った時は定期的に親の確認すりゃ良いんだよ」

「では定期的な近況報告と通院で済ましておきましょうか」

「それが良い」


高松さんのアドバイスもあり

俺は定期報告と通院命令を出し

事案を終わらせた


時々病院から怪我の増加などの通報があれど子供は虐待について言う事はない


その後その家族は引っ越す事となり定期報告及び通院命令を停止させ

事案は終わったかの様に思えたのだった


俺がその事案を終わらせてから数カ月後の話だ



「おい信玄、」

「どうしたんですか?高松さん」

高松さんが俺を呼び出す

「いやぁなんかな、お前の担当した事案の子供が死んだらしくてな、情報提供を求めて警察が来たんだよ」

「えぇ?」

俺は驚きつつも警察と話一通りの資料と当時の様子を伝えた

警察の話によれば死因は不明だが

近隣住民や親戚の証言を元に虐待の疑いがあるとして逮捕しているとの事だった


その後ニュースに取り上げられ

両親は起訴され有罪となったそうだ

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