第9話 秋元光一という男 2

 悠一に、この気持ちは届かない。


 彼はきっと、誰よりも人間だ。


 俺のような狂人が、人間らしい、だとか。


 きっともっと多くのことを、たくさんの大切なことを、見落とさずに生きてきたのであれば、俺よりも、あいつは人間なのだ。


 俺のようなやつより、正しく人間なのだ。


 そう思って接しても、俺の言葉の真意は届かない。


 言わない俺も、悪いのだが。


 いや……もう、いいのかもしれない。


 きっと、届くことはないのだろう。一生。


 それでも、あいつが……幸せに生きれる世界であって欲しい。


 そこに、俺の存在は。


 ……必要、ない。



 ☆




 封を閉じた辞表を机に置き、部屋を出る。




 ……もう、ここには二度と戻らないだろう。

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