モコモコの道
神埼 和人
モコモコの道
ルノはその朝、とても嫌な気分で目が覚めました。
「あんなにおこらなくたって、いいのに……」
昨日、宿題をさぼったばっかりに、お母さんにこっぴどくしかられたからです。
ぼーっとした頭で窓の外をながめていると、遠くに新しい道ができているのが見えました。
その真っ白でへんてこな道は地平線の向こうまで、ずっと続いています。
<あれはなんだろう?>
ルノはベッドから飛び出し、その白い道をたどってみることにしました。
近づくとそれはモコモコした白い毛のようなもので、できていることがわかります。
「フワフワのモコモコだ!」
ルノはうれしくなってモコモコの上で飛びはねたり、ゴロゴロと寝転んだり。
しばらくして、遠くに別な白い道があることに気がつきました。
ルノと同じくらいの背丈の少年がその道を歩いているのも見えます。
その道はやがてルノの道と交わり、一本の道へと合流します。
「やぁ! この道はどこへ続いているんだい?」
「やぁ! この道はどこへ続いているんだい?」
二人は同じ質問をして、一緒に首をかしげます。
しばらくいっしょに歩いていくとまた別なモコモコの道が合流し、そこにも別な少年の姿がありました。
「やぁ! この道はどこへ続いているんだい?」
「やぁ! この道はどこへ続いているんだい?」
何度も何度も合流をくりかえし、いまや子供達の数は数十人にもなっていました。
そうして何時間歩き続けた頃でしょうか、道の先に一人の男の姿が見えました。
男は歩きながら、羊をまるでぶたの丸焼きでもつくるかのように棒につるしてくるくる回し、毛をバリカンでそっていきます。
そして、地面に落ちた毛がモコモコの道になっていました。
不思議なことに羊の毛はそってもそっても、また生えてきます。
「おじさん! この道はどこへいくの?」
少年達の一人が男にたずねます。
「何もない国へとつづく道だよ」
男は答えます。
「何もない国には、なにがあるの?」
今度は少女がたずねました。
「何もない国には、なーんにもないんだよ。宿題も、お片づけも。君達をしかる大人もいないのさ」
子供達は大喜び。
「何もない国は子供達の楽園! さぁいざ行かん、何もない国へ!」
子供達の行列は続きます。
いまや白い道は子供達であふれ、地平線のかなたまで行列が続いていました。
どの子の顔も喜びでいっぱいです。
でもルノだけは少しこまった顔をしていました。ルノは男にたずねます。
「おじさん! おじさん! 何もない国には、お父さんもお母さんもいないの?」
「そうさ! だから夜更かしも
子供達はまたしても大喜び。
だけどルノだけはちがいました。
<お父さんとお母さんに会いたい……>
ルノは立ち止まりました。
そしてシクシクと泣きはじめます。
「やーい! 泣き虫ルノ! 弱虫ルノ!」
みんなはそういってルノをからかい、そして行ってしまいました。
「みんな、行っちゃだめだよ! 村へ帰ろうよ」
誰一人、ルノの話しを聞く者はいませんでした。
ルノは泣きながら一人、もと来た道をもどりはじめます。
ルノが村に帰ると大人たちがおおさわぎしていました。
村の子供達がみんな、いなくなってしまったからです。
ルノはみんなが帰ってくるのを待ちました。
だけど何日たっても誰一人もどってきません。
一年がたち、三年がすぎ、大人たちはみんなその出来事をわすれてしまいました。
ルノはそれでも待ちつづけました。
みんなで一緒に帰らなかったことを、一人だけ戻ってしまったことを、とても後悔していたのです。
そして、二十年目のある日のこと。
突然、ぼろぼろのサイズの合わない小さな服を着て、ヒゲやかみが伸びほうだいの大人たちが何十人も村にあらわれました。
きたない身なりをした大人たちはまるで、子供のようにわんわんと泣きはじめます。
「ぼくたちは、ずっと歩いていた……ずっとずっと歩いていたんだ」
そこに一人の少年があらわれます。
「ルノ! ルノだよね!? なんで君は子供のままで……」
大人たちは口々にたずねます。
少年は首をふって答えました。
「僕の名前はロコ。死んだ……死んだ父さんからみんなへの伝言があるんだ」
ロコは静かにつづけます。
「ここがみんなの国だよ。宿題もお片づけも、みんなをしかってくれる大人も、なんでもある大切な場所だよ」
「みんな、おかえり」そう言うロコの足元によりそって、大人たちはまた泣きました。
「子供の楽園なんて、どこにもなかった……何もない国なんて、初めからなかったんだ――」
モコモコの道 神埼 和人 @hcr32kazu
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