第32話




「かれはじゃい(草も生えない事件だったぜ……)」



 深谷ふかやが倒れた後のことだ。


 救急医の診察で、深谷は全身臓器破裂してることがわかった。


 どうやら体内で“呪い傷付ける力”である呪力が暴走した結果らしい。

 わりと真面目な理由で死にかけていた。


 というわけでやつを救うため、俺は『肉体再生』をかけながら一緒に医務室に行くことになった。

 おかげで試験は途中退場である。



 で、そんなこんなで数日後。



「よぉわしのウタきゅん♡ きたぞいっ♡」



 土御門の爺さんが家に来た。



「ごーーん!(帰れ!)」



 何しにきやがったパワハラじじい!?



「なんじゃー嬉しくないのかー!? 呪術界のボスが来たんじゃぞ~!?」


「にっさん! ればのん!(いや呪術界のすごい人らしいがよ。他の術師と違って嫌な感じはないが、それでも割と苦手な人種なんだか……!)」



 前世がブラック企業で以下略な俺である。

 スーパーワハラ人とはあんま交流持ちたくないです……!



「ツンツンしてるともっと愛しちゃうぞっ!? うりゃ、抱き締めからのアゴ髭もしゃもしゃ攻撃~!」


「かるろーす!?(うぎゃー!?)」



 と赤ちゃん肌を髭で蹂躙されていた時だ。


 家の奥から、四足疾走でドダドダドダドダッと母ミズホが助けに来た!



「ふしゅーーーーッ! わたくしのウタに何するのぉッ!?」


「おぉ出た妖怪マザコーン」


「ユニコーンみたいに言わないでッ!?」



 ミズホ相手にも爺さんは相変わらずである。



「はぁ、それで何の用です土御門総統? お茶漬けでも出しましょうか?」


「これこれそう邪険にするな。家の前で捨てられた老人のフリして泣くぞ? 『娘よッ、おいだしゃないでくれぇ~!』って」


「誰が娘ですかやめてくださいよッ!?」



 あ、あのミズホが追い込まれてる。

 マジでこの爺さん手ごわいな。



「で、本当に何なんです? そろそろウタのごはんの時間なのですが」


「儂も一緒に……って冗談じゃ。包丁取り出すな」



 爺さんは苦笑すると、袖口から一枚の書状を取り出した。



「先日の試験結果じゃよ。合格なのはもちろんとして、術師としての開始等級を伝えに来たわ」



 おぉさっそく来たか。

 気になってたところだってばよ。



「一応事前説明しておこうか。術師には『四等』『三等』『二等』『一等』『準特等』『特等』の六等級がある」



 ふむ知ってるぞ。



「基準はまぁ殺傷力といったところかの。四等はマシンガン並。三等はガトリングガン並。二等は戦車で、一等は戦闘機といったところか」



 おぉそんな感じなのか。

 てか、最低の四等術師すらマシンガンくらいすごいんだな。


 まぁ呪力パンチで岩とか砕けるしそれくらいになるか。



「準特となれば戦闘機複数積んだ空母じゃよ。単騎で数都市落とせる人外の領域じゃ」



 ほうほう。

 で、俺はなんなんだ? 高く見積もって二等くらいか?



「では発表しよう。ウタくんは見事~~~~、『特等術師』に決定しましたーーー!」



 ……は!?

 特等!?



「おめでとーーいえええええええええええええええええい!!!!!」


「ぺこーら!(うっさ!)」



 今メイドのクレハさんが珍しくお昼寝中なんだよ爺さん!



「ちなみに細かい順位があって、正確には『特等十三位』でーす! まぁペーペーじゃから特等最下位じゃが、定期的な査定会で順位変動するから励むがよい」



 っていやいやいやいや待て待て待て待て!

 最下位だろうが、それでも特等って最上位なんだろ!?



「にんてんどうほうむぶ……!(恐れ多いだろうがよ。なんで俺が特等なんだ?)」


「お、気になるって顔をしてるのぉ?」



 当たり前だろ。



「うむ。先ほどの殺傷力のたとえで言えば、特等とは『核爆弾』じゃよ。それ一個で国を一つ半壊させるようなバケモノ。それが特等じゃ」


「きたちゃん(核ってうぉい)」



 とんでもない喩え来たな……。

 え、そんなのが俺以外に十二人もいるの? 地獄か?



「で、じゃ。流石に今のウタくんにそれほどの力があるとは思っとらんよ。一等以上はあると思うがの」



 だが、と爺さんは続ける。



「試験でも見せてもらったわ。貴様には、『呪法コピー』という唯一無二の能力がある」



 あぁあれか。

 他に出来る人はいない感じか?



「出来るのは貴様くらいじゃーい。赤子ゆえ固まりきってない脳構造を活かし、疑似的な経絡線を結んで他者の呪法を発動といったところか。いやぁ無茶するわい。電子回路に余計な線を引いて、プログラムを書き換えるようなものじゃ。下手すりゃ短絡漏電ショートサーキットで深谷るぞ?」



 深谷るって……ああ、呪力が暴走して臓器ハジけた深谷みたいになるのか。


 そりゃちょっとこえぇな。



「ま、それは脳構造プログラムが固まりきった後の話よ。乳幼児のうちにパクるだけパクっとけ。んで」



 爺さんはぴんと指を立てた。



「貴様のその特異性。それが貴様を『特等』に選んだ理由じゃよ。まぁー他の特等連中からは色々文句を言われたが、どうせ最上級妖魔『白面狐ハクメンギツネ』を倒し従えてる時点で、準特クラスはまぁあるからの」



 なるほどなるほど。

 つまり呪法を色々覚えた先の将来的な力を考え、俺を特等にしたわけだな。


 そりゃちょっと皮算用な気もするが……。



「儂は悪い判断だと思っとらんよ。なにせ貴様はまだ乳児、これからまだまだ呪力も伸びていくんじゃからのぉ」



 そう言って爺さんはニチャニチャと笑った。

 やばい笑みするなぁおい。



「感覚的にも既に並の術師の三倍あるわ。こりゃ測定の儀で正確な数値を測った日には、はてどんな数字が出るかじゃのぉ」



 爺さんは笑い終えると、上から俺をじっと見つめてきた。



「強くなれよ、我が未来の宿敵よ。あらゆる悪意を乗り越え喰らって強くなり、どうか儂が死ぬ前に、『特等一位』の座を奪ってくれよな?」


「ななにんの(ななっ!?)」



 え、この爺さんってば特等の一位なの!?

 核爆弾人間の中でも、トップだったのかよ!?



「しゃざいかいけん(そりゃ言動的に強いかもとは思ってたが、地位だけじゃなく実力までトップなんかい。ちょっと態度がナマイキだったかも……)」


「ほほっ、今さらかしこまったか!? 可愛いのぉ、拉致らちしよ」



 と俺を連れ去ろうとする爺さんに「ダメぇーーーーーーッ!」と叫ぶミズホ。



「変な冗談やめてくださいよっ! ただでさえわたくしイライラしてるんですからっ!」


「ほう、そりゃなんでじゃ? 生理?」


「殺すぞ。そうじゃなくて、これ見てくださいよこれ」



 ミズホがスマホを突き付ける。


 そこには以前と同じく、『【驚愕!】この赤ちゃんがやばすぎる……【最上級妖魔!?】』とクソタイトルで銘打たれた、俺の隠し撮り動画が上がっていた。


 前回の深谷とバトルしたときのやつだな。



「以前のやつもですが、ずっとわたくし動画を消すよう運営に抗議してるんですよっ!? なのに全然受け付けてくれないんです!」



 そう叫ぶミズホに、爺さんは「あ~」と声を出した。


 そして、



「そりゃ儂の権力で申し付けてるからの。ウタくんの動画は絶対消すなと」


「はっ、はぁーーーーっ!?」



 ってマジかよ。

 だからいつまでも消えなかったのか。



「なっ、どうして!?」


「だってウタくんの活躍みんなに見てもらいたいし? あと調べたところ、撮っとる人物もずいぶん頭がパーでウケるし!」


「ウ、ウケるってあなたっ!?」



 それが理由で保護してるんかい。

 本当にこの爺さんやばいな……!



「ま、儂がやっとるのは動画削除対策くらいじゃよ。例の撮影者のほうはほぼ野放しにしとるから、気に食わんなら自分で探してブッ殺すことじゃな! 儂が許す面白いから!」


「わ、わっかりましたよッ! わたくしだけのウタが見世物になってるなんてエッチすぎてゆるちぇまちぇーーんッ!!! 死なすッッッッッ!!!!!!!!!」



 そう叫んでミズホは、包丁片手におそとに飛び出していくのだった。


 わ~見つかったら大変だなぁ配信者さん。



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・それゆけちいかわ――!(※地域の変わり者)



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