第30話 すみません、前話一話抜けてました。要約すると「しらかみふぶき」でした


しらかみふぶきでした。

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「びぎゅ~もた~(いや~ボロカスだな~)」



 決着はついた。


 深谷ふかやは自分の脱サラ妖魔軍団に襲われ完全ダウン。

 あちこち引っかかれるわ叩かれるわ蹴られるわ噛まれるわで酷い有り様になっていた。



「う、うぅ……いだいぃ……! どうしてこんなことに……!」


『フフン、わらわたち妖魔を舐めすぎたな。低級妖魔を支配下に置く『百鬼呪法』とやらは強力だが、解呪系能力を食らえば、たちまち味方が全て敵になる。今のうちに知れてよかったのぉ?』


「くそぉッ……!」



 うめく程度の元気はあるらしい。

 ま、死ぬような怪我を負う前にストップかけたからな。そうなの?


 監督代行メガネさんもホッとしているようだ。



「よかった……ウタくん、ちゃんと加減は出来るようですね。最初は鬼畜赤ちゃんと思ってましたが」



 なんだよ鬼畜赤ちゃんって!



「いかんのい!(失礼な!)」


「お、怒ってるんですか? いやだっていきなり受験者二十五名以上をぶっ飛ばしたし……」


「しゃざいかいけん(誠に申し訳ございませんでした)」



 うんそれは鬼畜赤ちゃんだね。


 ウタくんはとても反省しました……。



「あいどる……(優しさを示すために深谷くん治すかぁ。どうか元気になってくれ)」


「あ、『肉体再生』してますね。優しい」


「じつは、こもち(ついでに『百鬼呪法』コピーしとこ)」


「あッ、変な手つきで頭触ってる!? これ例の呪法パクるやつだ! 酷い裏切り!」



 仕方ねーだろ。

 呪力回してる状態の相手に触れないと“脳の経絡プログラム”解析できないんだよ。

 だから戦闘中かその前後を狙うしかないのだ。



「えーあいえし!(よし。呪力をどう脳に回したら『百鬼呪法』できるか掴めた。メガネさんのもパクらせて?)」


「ひぇえ触れてこないでくださいっ!? 私のはあげませんよッ!」


「うーうー(ケチ)」


「何がうーうーですか!?」



 とメガネさんとじゃれていた時だ。


 彼のスマホ画面より、爺さんの爆笑が『ガハハハハハッ!』と庭園に響いた。



「ぺこーら(うっさ)」


『いやぁ良い戦いを見せてもらったッ! ついつい酒飲みながら見ちゃったわ!』



 ってアンタ酒飲み過ぎで入院してるはずだろ!


 それでメガネさんが休日出勤することになったんじゃ?



「おまッ、いい加減にしてくださいよ総統ッ!?」


『うるせー! わしの決定は絶対じゃー!』


「テメェ!?」



 わぁ酷い。



『さて、深谷ユウとやらも十分な実力を持っていたが、やはり上回ってくれたのぉウタくんや! よもや最上級妖魔まで手持ちにいるとは』



 ああ、この術師登録試験のためにゲットしてきたからな。

 備えあればうれしいなだ。



『自動車免許試験にランボルギーニ持ち込んだようなもんだが……まぁ面白いからよし! ウケるー!』


「いやよくないですよ総統!? 万が一があったらどうなってたか!」


『あ、おいメガネよ。あっちの芝生が炎上してるぞ。『浄炎呪法』とやらが飛び火したようだ』


「え、ってうわーーーーマジだーーーーーーーッ!? 万が一の事態起きてるぅーーーーーっ!?」



 スマホをほっぽり出すや急いで消火に向かうメガネさん。


 その姿を、爺さんは『代行監督の責任じゃのぉ~! がははっやべー!』と大爆笑していた。


 か、重ねて酷い労働環境だ……!



『とイジりすぎたか。まぁヤツには今度おっパブ奢って埋め合わせするからいいとして』



 そんなもん奢るな!



『さて、では結果発表じゃ。……大文字だいもんじウタ、術師登録・最終試験……合格ッッッ!』


「ぷりー!(うす!)」



 あざっすあざっす。


 色々あったが、合格は素直に嬉しいぞい!



『なお、術師としての等級は後ほど伝える。大抵のぺーぺーは四等術師で始めるもんじゃが、まぁ期待しておれ』



 期待してまーす!



『さて次。ウタの相手となった深谷ユウじゃな。負けはしたが、おぬしも期待の若手として』


「うるさいっ!」



 とその時。

 深谷が泣きながら爺さんに叫んだ。



『うっ、うるさいって酷くない……? 儂、目上ぞ? 呪術界のボスぞ? 試験落とすぞ?』


「黙れ、もう試験なんてどうでもいい。オレは……四条イラガ師匠の無念を果たせなかった……!」



 彼は懐から小刀を抜いた。

 そして、それを自身の首筋に当てた。


 っておい!?



「オレは恥を晒してしまった。ならばどうして生きていられようか……! 男らしいイラガ師匠の弟子として、最後は堂々と散ってやる!」


「かれはない!(散るな!)」



 いや待て待て待てっ。

 何も死ぬことはないだろうがよ!



「そんぽじゃぱぁ!(命を大切にしろ!)」


「ウタよッ、何を言ってるのか知らんが見ていろ! これが男らしい終わりというヤツだーーーーっ!」



 そしてついに。

 首筋の刃が、勢いよく引かれようとした、その瞬間。




「やめなさい、ユウ」




 凛と響く、鈴のような声。


 それと同時に深谷が『少女』に抱きとめられた。



「なっ……なんだ、キミは……!?」



 深谷の声が上擦っている。


 だがそれも無理はないか。

 どこからともなく現れた彼女は、あまりにも可憐だったから。



「何も死ぬことなんてない。いいかいユウ? 死んだら人生は終わりなんだ」



 赤と蒼の双眸オッドアイを持つ、美しい銀髪の少女だった。



「そりゃ、死んだほうがいいような目に合うこともある。辛くて泣きたくなる夜もある。でもね」



 細身ながらも蠱惑的な肢体。

 纏う衣装はメイド服。

 まるで彼女の身体を強調するようにタイトで、肩が露出した煽情的なモノだ。



「でも。それでも生きて、明日を迎えて。そしてある時『ごはんがおいしい』と感じたら、それで十分。それだけで生きててよかったって思えるんだ」


「う、嘘だっ。そんな当たり前のことで」


「そんな当たり前の幸せすら、死んだら二度と味わえないんだよ?」


「ッ……」



 身体つきや服装に反し、彼女自身に淫猥な気配は一切ない。


 むしろ誠実そのものだ。

 必死に不幸に抗って得た、そんな精神の強さを感じる。



「だからどうか死なないでくれ。ユウ、たとえどんな目に合ったとしても、人生を投げ出さないでくれ……!」



 傷付き慣れたような儚げな表情に、細い首に巻かれた犬輪。


 それだけで少女の境遇を察してしまうが、彼女は真摯に深谷ユウのことだけを案じていた。



「つ、ついに、ひろいんとうじょう……?(この子はいったい……って、ん?)」



 ふと妙な違和感を覚えた。

 あれ、なんかこの子から漏れる呪力の感じ、どっかで俺知ってるぞ?


 これはたしか…………ああああっ!?



「わ、わたみー!(ふ、深谷ッ、今すぐ逃げるんだ! 手遅れになる!)」


「えっ、な、なんだ!?」


「わたみわたみわたみーーー!(頼むから逃げてくれ! 最悪の『真実』を知る前にーーッ!)」


「はぁ!?」



 チ、チクショウ!


 必死に叫ぶが、赤ちゃん言葉では通じない!



「わたみ~~……!(俺は自分の無力さが悔しいよ……!!!)」



「気に食わん赤子がなんか泣いてる!? ま、まぁ赤ちゃんだし意味もなく泣くか。それよりもキミは……!」



 あぁっ、深谷のやつってばあの女(?)相手にちょっと顔を赤らめてるよ!

 お前何考えてんだ!?



「まるで華のように美しい……! 告白しようッ、オレはキミに恋してしまった!」



 ってなに言ってんねん!?!?!?



「わーたーみー!(これ以上は駄目だ! 早く離れろクソボケ!)」


「えぇい赤ちゃんが邪魔するんじゃない! 今は告白中だッ、お前ら赤ちゃんがデキる前段階なんだぞ!?」



 マジで何言ってんだお前!? 



「あぁ華よ……! オレはキミに恋をした……!」



 だ、駄目だ。

 深谷の野郎、完全に頭が色ボケモードだ……!



「ゆえにどうか聞かせてほしい。オレの命を救ってくれた、キミの名は?」



 少女の肩を抱き、無駄に熱いまなざしを彼女|(のおっぱいとか)に向ける深谷。


 そんな彼に、銀髪の少女は困ったように微笑んだ。



「ふふっ、気づかないのも無理はないか」



 そして。

 死んだ瞳でプルプルと震えながら、彼女は告げる。



「キ……キミの師匠だよ」


「えっ?」


「呪力で感じて見てほしい。この波動に、覚えはあるだろう?」


「えっ、あ――えぇッ!?」



 深谷の顔が青ざめた。


 そんな彼にとどめを刺すように、少女は涙目になりながら、

 


「やぁ久しぶり。『四条イラガ』だよ……! ぼ、暴力を振るっていた妻に全身整形させられた、キミのあこがれの師匠だよ……!」


「うッ、うンぎゃァあああああああああーーーッ!??!?!? 嘘だぁああああああーーーーーーーーーーーッッ!?!?!?」



 深谷は叫ぶと、全身の穴から爆発するように血を噴いて倒れるのだった。



 ふ、深谷が死んだーーー!?


 

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・試験編、感動の完結――!( 最 悪 ! ! ! )



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