第24話



「にちだい(ここが試験の場か~)」



 俺たち受験生が通されたのは、道場を何倍も大きくしたような部屋だった。



「あめふとぶ(流石に強そうな連中がいるな)」



 ミズホに怯えさせられていた少年少女以外にも、エリートっぽい者たちがちらほらといる。

 みんな一緒に頑張ろうぜ!



『さて、全員集まったな』



 と、その時だ。

 しゃがれた声が室内に響いた。



『直接来れんくて済まんなぁ。酒のやり過ぎで、いよいよ肝臓イカレて入院中でな』



 呵々カカッという笑いと共に、天井から巨大モニターが降りてきた。


 そこに映されたのは羽織を着た一人の老人だった。



『やぁ皆の衆。儂こそが『呪術総會』の総統、土御門ヒデオである。今回の術師登録試験を監督させてもらうぞ』


「ぷりうす!(へーこのご老人が)」



 総會の長ってことは呪術師のトップってことだよな?


 意外だ。

 男尊女卑やらクソクソな風潮にまみれた呪術界の大御所が、こんな好々爺然とした人なんて。



『さて。呪術界では強さこそが絶対だ。ゆえに術師登録に制限は無し。男だろうが女だろうがオカマだろうがまるで結構。老骨も若人わこうども、呪力さえあるなら好きに受けてよい。無論、赤子だろうとな?』



 一瞬、ちらりとこちらを見る総統さん。


 咄嗟にミズホが「むしゅこ見ていいのママだけ!」と俺を口の中に隠そうとした。

 無理だから。



『ほ、ほっほっほ……。まぁ御託はこのあたりにしておこうか。儂はこの通り病床の身なので、諸君らを直接見る監督代行くんを用意させてもらったぞ。ほれ挨拶』


「っ、ははぁッ!」



 緊張気味に出てきたのは、メガネの黒服お兄さんである。


 あ、この人知ってるわ。

 俺がイラガをぶっ飛ばした翌日、家に来て『こんな子野放しにしてたら何あるかわかんないんで、呪術師登録受けてください……!』と頼みに来た人だ。

 この人のおかげで数日後の試験に急遽登録できたんだったな。



「わたみ! わたみ!(どもっす。なんか苦労しそうな顔付きしてるけど大丈夫すか? まぁ落ち着いていきましょうよ)」


「は、母親に頭食べられてる赤ちゃんがなんか話しかけてきた!? こ、こんなのマニュアルにないぞどうすればっ!?」



 おっと。

 気遣ってあげたのにさらに緊張させてしまったようだ。



『これ落ち着け。儂の代行なのだから、シャキっとせい』


「いや総統閣下の代行だから緊張してるんですって……。はぁ、ともかく自己紹介と行きましょう」



 メガネをかけなおすお兄さん。

 マジで疲れ気味だなこの人。



「私は土御門セイメイ。本日、“港区女子と飲みまくったすえアル中でぶっ倒れた総統”に代わり、休日返上で急遽監督代行になった者です」


『これ余計なこと言うな!?』



 訂正。

 疲れ気味じゃなくて“疲れてる人”だわこのメガネさん。



「えー受験者の皆さん。私の試験監督の経験はゼロです。始まる直前で例年の映像とデータを急いで詰め込んだだけのド素人なので、どうか変なトラブルは起こさないでください……! 予期せぬ怪我とか備品の損傷とか起きたら始末書書かなきゃなのでお願いしますッ!」


「わたみぃ……(俺たち受験生に懇願し始めちゃったよこの人……!)」



 わかったよ。

 この人が苦労することなく帰れるように、大人しく試験を受けていこう。



「えぇーそれでは試験の前にみなさん、まずは全身の経絡けいらくに呪力を滾らせておいてください。呪力とは“呪い傷付ける力”ですから、突然全力で流すと損傷することもあるんですよ。適度に滾らせ、経絡を温めておきましょう」



 優しく語るメガネさん。


 苦労性だけど良い人っぽいな。

 それじゃ、アドバイス通りに適度に呪力滾らせよっと。



「るしあ!(えい)」


「ぎゃああーーーーーッなんだこの呪力の波動はッ!?」

「ふっ、吹き飛ばされッ、うわああああああーーーーーーーッ!?」

「ひぃいいッ!? 床が砕けた!? 周囲の窓が爆散したぁああーーーッ!?」



 ……結果。

 俺から溢れた呪力の光は物理的な衝撃波を伴い、エリートっぽい受験生たちをほぼ全員吹き飛ばして試験場をズタズタにした。


 あーあ。



「びぎゅもたぁ(ごめんメガネくん、やっちゃったわ)」


「うンぎゃああああああああーーーーーーーーーーーーーーッッッ!? 始末書百枚コース確定だぁああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?」



 赤ちゃんだから仕方ないね。

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