第21話はじめての火あぶり!(あちちちちっ)



 やしろから飛び出した『白尾』の巨槍×5。

 そのうち一本が俺の身体にブチ当たった!



「あずきー!?(クソがーーーー!?)」



 咄嗟に『反発強化』をしたが、衝撃を完全に弾き切れない。

 俺のぐにぐに赤ちゃんボディは境内を転がった。



『むぅ? ずいぶんと的が小さかったな。おかげで一本しか当たらんかったわ』



 襖の奥から近づいてくる女の声。

 やがて妖魔は姿を現す。



『って、赤子じゃとぉ!? なんじゃ貴様は!?』



 出てきたのは長い白髪を垂らした女だった。

 そこだけ見れば人間だが、キツネの耳とデカい五本の尻尾が生えてやがる。

 それに纏う呪力もまがまがしい。



「しらかみふぶき!(お前こそ誰だ名を名乗れ!)」


『ほ、本当になんじゃ貴様は。村人からの捧げもの……というには、纏う呪力は極めて高密度。それにわらわを敵視しておる。まさか妾を狩りに来た呪術師か貴様?』


「こん!(そうだよ)」



 俺が頷くと、キツネ女は呆気に取られた顔をした。

 そして、少し遅れて大爆笑される。

 なんやねん。



『あっはっはっはっは! ふむなるほど。呪力もあれば、言葉を解する知性もあるか。だがまさかこんな赤子の身で妾に挑んで来るとは!』



 腹を抱えて笑う女。

 だが、



『この最上級妖魔、『白面狐ハクメンギツネ』を舐めるなよ?』



 一瞬で顔から消える笑み。


 次の瞬間、俺は天高く蹴り上げられていた!



「みけねこ!?(いだーい!?)」



 腹をおもっくそ蹴られたようだ。


 四条イラガといい、赤ちゃん容赦なく蹴るのやめろ!

 人の心とかないんか!?



「るしあぁ(いやコイツは人間じゃなかったな)」


『むぅ、本当に凄まじい『反発強化』よのぉ。並の術師なら破裂しておるというのに』



 空に向かって飛ばされる俺に、白面狐とかいう妖魔もかっ飛んで追い付いてきた。



『妾の尾が九本まで回復していれば……というのは無い物ねだりか。今ある力で、ぬしを食らって渇きを癒そう』



 女の尾がブクッと膨れる。

 そして先端が鋭く尖り、再び巨大な五本の槍と化した。



『次は全て当ててやる。食らうがよい、赤子!』



 高速で迫る五本槍。


 ここは空中だ。避けることなんてできない。



「ぁ(えっ、これ、もしかして死ぬ?)」



 迫る大槍がゆっくりに見えた。

 脳が高速回転してるんだ。

 俺は、この感覚を一度味わったことがある。



「ぁぁ(そうだ。前世でクルマに轢かれる瞬間も、確かこんな感じだったな)」



 まさに最悪だった。

 どうにもできなくて、轢かれてひしゃげて血を噴いて。

 あの時の激痛はもう言葉に出来なかった。



『死ねぇ!』



 あの痛みをもう一度味わえと?

 絶望的な死の感覚を、お前は俺に食らわせると?


 なるほど。







「ふせいはっかく(ぶっ殺してやる)」



 瞬間、俺は迫る大槍を叩き落した。



『なにッ!?』



 簡単だ。

 自分の腕も砕け散るような超出力の『衝撃強化』を掛け、刺さる直前でぶっ叩いただけだ。


 当然、反動で俺の腕が千切れ飛ぶが、



「ぎょうせいかいにゅう(『肉体再生』)」

 


 一瞬で新たに腕が生える。


 あぁお前のおかげだよ白面狐。

 お前が食い散らかした何十人もの村人を癒したおかげで、治癒の経験を大幅に積めたからな。



『くっ、赤子のくせに自傷も覚悟か!?』



 女の腰に尾が引き戻る。

 そうして再び俺を刺す気だろうが、



「きょうせいそうさ(隙だ)」



 槍の弱点は『戻す瞬間』に何もできなくなることだ。

 その一瞬の隙を狙い、俺は呪法を発動させる。



「『いほうどうじん』だうんろーど。“しりゃびしみにょる”(『獣身呪法』疑似発動。モデル“白鯨”)」



 先日の戦いで奪った呪法。

 それを起動させ、俺は片腕から巨大鯨を生やした。



『はぁああーーー!?』



 そのまま鯨で妖魔を殴打。

 100トンを超える巨体を受け、彼女はすごい勢いで地面に叩きつけられた。



『がはぁッ!? ぉッ、おのれ貴様ぁああーーーーッ!』



 しかしまだまだ女は死なない。

 全身から血を噴きつつも、何らかの掌印を高速で結んだ。

 そして、



『“業火・烈尽・われが統べるは紅蓮の地獄”! 解放『浄炎呪法』!』



 奴がこちらに手を突き出すと、極大の白い炎が光線となって噴き出した――!


 咄嗟に鯨の腕で庇うも、みるみる内に灰となる。



『ハハハハハハッ! 我が炎は焼却概念の具現化よ! どんな質量もッ、呪力すらも焼き溶かすのじゃ!』



 ……なるほど。

 確かに身体を庇う腕から、急速に呪力がなくなっていく。

 これはとんでもない呪法だ。



『全てを焼く火に呑まれて死ねぇッ! 人間なんてみんな死ねェーーーッ!』



 このまま行けばジリ貧だ。

 盾となる鯨が完全になくなって死ぬか、それより先に呪力が尽きるか。

 二つに一つだ。あぁならば、



「ろうじんとうさい――ぷりうすはっしん(前に向かえばいいだけだ)」



 『衝撃強化』を足に集中。

 そして俺は空を蹴り、炎に向かって突撃した。



『なにぃっ!?』



 一瞬で焼ける鯨の盾。

 次に赤ちゃんボディが焼けるも、全力の『肉体再生』で死に抗う。



『いッ、生きながら焼かれる苦痛を味わいながら、なぜ術を維持できる!? 貴様狂っているのか!?』


「みじゅほ(正気だよ)」



 ああ、死ぬほど痛いが死ぬほどじゃない。

 

 何が全てを焼く火だ。

 本当に命が尽きる瞬間の苦痛に比べれば、この程度じゃ、



「かれは、ない(俺の心は、焼き尽くせない)」



 やがて俺は炎を突き抜け、驚愕する白面狐の懐に接近。


 そして、



「『ちょさくけん』しんがい。“のまねこもなー”(『破砕呪法』疑似発動。対象“腕部”)」


『ばっ、馬鹿なッ』



 母・ミズホの呪法をコピー。

 一瞬のみ、『衝撃強化』の倍率をさらに高めるという能力を腕に纏い、



「さいばんッ、けっちゃく(これで、終わりだ――!)」


『馬鹿なぁあああーーーーーーーッ!?』



 最大強化した赤ちゃんパンチ。

 それを振るい、白面狐をぶっ飛ばした。




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ここまでお読みいただきありがとうございました!!!!



@↓こちら、新作になります~!

『二周目モブは死にたくない ~お腹の中から鍛え続けたらバケモノだと勘違いされる話~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093082740683707



原材料:びぎゅもたぁ

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