第18話はじめての手術見学(ぎゃー!?)




 この世界の呪術師ってのは『ヤクザ』に近い。


 大本部たる『呪術総會じゅじゅつそうかい』監督の下、呪術師は各々土地シマを管理し、そこに現れる妖魔を討伐。

 そんで平和を守る見返りに、土地の住民たちから税金みたいにお金を巻き上げているわけだ。



 つまり土地の所有権はとても大切なモノなのだが、



「四条家の管理する土地の名義。それら全部、ウタ様に差し上げましょう」


「まじんが(マジすか)」



 ユキネママ様ってばとんでもないことを言い出した。



「えぇまじんがですウタ様。なにせ当主のイラガが戦闘不能になってしまいましたから。これでは管理する土地に住む人々を守れないでしょう?」



 ふむ、そりゃ確かに。

 何の罪もない人々を危険に晒すわけにはいかんな。



「なので『呪術総會』に掛け合い、土地の利権を全てウタ様に変更しましょう。あぁ手間は取りませんよ? 当主イラガが直々に言えばすぐにでも」


「ふッ、ふざけるな!」



 四肢のもげたイラガが叫んだ。

 元気だなぁコイツ。



「ぉ、女風情がいい気になりおってッ! わ、我が土地は絶対に渡さなっ」


「うるさい」



 プチュッ、という音が響いた。

 ユキネママ様が無造作に、イラガの股間を踏み潰したのだ。


 瞬間、絶叫が公園に響き渡る。



「ぎゃッ、ぎゃぁああああーーーーッ!? わだッ、わだじのぉおッ!?」


「はい、これで旦那様も『女風情』になりましたねぇ? では選びなさい。なんかもうムカつくから私に今すぐ殺されるか、それとも全身整形されてガチ女の子になるか」


「はぁぁッ!? なんだその選択肢はッ!?」



「ひぃッ!?」



 ……ユキネママ様の目は本気だった。


 あれはやると言ったらやる顔だ。

 とんでもねぇ人妻と同じ時代に生まれちまったもんだぜ……!



「元亭主が失礼しました。まぁ死か性転換TSかどちらを選ぶにせよ、ウタ様にすべての利権を渡す手続きをさせてからですね」



 なんだよ『死か性転換TSか』って。初めて聞いた日本語だよ。


 ……まぁイラガの野郎の未来はともかく、土地はありがたくもらっておくわ。

 大文字だいもんじ家も当主が死んで、色々カツカツみたいだったしな。



「ミズホ様もそれでよろしいですね?」


「えぇもちろん~♡ わたくしのウタが偉くなるなら喜んでぇぇっ!」



 ミズホもずいぶん嬉しそうだ。

 お金が入ったらいいもの食べさせてやるからな。



「なんなら、お宅のユキネちゃんもウタに貰われちゃう? 男は嫌いだけどウタの種ならこの世にどれだけ満ちてもいいから♡」


「はぁッ!? なっ、何言ってるのよミズホさん!? 私中学生で、この子は赤ちゃんよ!? 歳の差ありすぎるでしょ!」


「大丈夫よ、わたくしはもっと年上だから。歳の差なんて気にしないでいきましょ?」


「いやアンタは血の繋がりを気にしなさいよ……!」



 ユキネさんもすっかり元気だ。

 カスな父親が(男として)死んで、すっかり心のおりがなくなった感じだな。

 ミズホと冗談言い合ってるや。



「ふふ、ウタ様のお嫁さん合戦、私も混ざっていいでしょうか?」


「ってお母さんは何言ってるのよッ!?」


「冗談半分よ。まぁそれは置いといて」


「って半分本気ってこと!? 置いていいレベルの発言じゃないでしょッ!」



 ギャーギャーはしゃぐユキネさんを無視し、ユキネママ様が「困ったことが一つ」と言った。



「利権を移すのは簡単です。『呪術総會』に対し、当主自らが“この呪術師に全てを明け渡す”と言えばいい」



 ふむふむ。

 聞く限り手間はかからなそうだが、それで困ることあるのか?



「いいですか? このとき利権を引き継げるのは、『呪術師だけ』なんですよ。そして呪術師とは、『呪術総會』に一定以上の実力者だと認められた者のみが、はじめてそう名乗ることが出来るんです」



 むむっ!? 呪術師って免許制みたいなもんだったのか!?


 つまり俺は今まで呪術師じゃなく、呪術が使えるだけの赤ちゃんだったのか!?



「ゆえにこのままではウタ様に利権を渡すことはできません」


「みじゅほぎんこうとりひきは!?(ならミズホに渡すってことはできないのか!?)」



 ミズホも元呪術師って聞いたんだが。



「みじゅ……? あぁ、ミズホ様に渡せないのかと言いたいのですね。えぇ、それも無理です。たしかにミズホ様は術師登録しておりますが、利権の受け渡しは『男性』に限られるので」


「しすてむえらー!(それかー!)」



 かーっ出ましたよ男尊女卑。


 そりゃ男社会の呪術界だからな。

 女性の権力は増やしたくないってか。


 じゃあつまり、



「ウタ様が術師登録するしかないということです。試験、期待していますよ? 私の救世主ウタ様♡」



 そう言って、女王ユキネママ様は不能イラガの頭に座って微笑むのだった。


 こ、この人の期待を裏切るのは怖すぎる!

 本気だそ!



 

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